第59話
六月十八日木曜日午後五時。
旧生徒会室にて、ようやく本題が始まろうとしていた。
「で、見つかったのか?」
黒笠を追い出した直後、叶恵に詰寄る青野である。
「んー、一応の候補は」
「早ぇな。流石」
「褒めてもなんも出ねぇよ……つーか春来はなんで付いてきたんだ?」
「何となくです」
「何となくって……」
話を始める前にと、春来に話を振る叶恵。正直、厄介払いなのが目に見えているのであるが、あえてスルーする春来である。
そしてスルーされたことに即気付いた叶恵は、
「割と真面目な話だし、席外して貰えると助かるんだが……」
「嫌です」
「…………さいですか」
普通にどっか行けと言い、拒否された。
*
「んじゃまぁ、始めますか」
「よろしく」
「お願いします」
「春来は適当に寛いどいてくれねぇかな……」
「嫌です」
「…………」
ニッコリ笑顔ではっきりと拒否である。
(春来ってこんなに頑なだったっけ?)
相変わらずの長い前髪をかきあげ、天井を仰ぐ叶恵。青野の視線が突き刺さっているが無視である。
無視しちゃいかんでしょうに……
「もう知らね!青野、別に春来いてもいいか?」
「おう、俺は問題ないぞ」
「助かる」
「ありがとうございます青野さん」
律儀に頭を下げる春来。叶恵は悲しくなったそうな。
「あーもう、話進まねぇ!とりあえずこれ見ろ!」
机の引き出しから数枚の紙を取り出す叶恵。それを机の上に叩きつけ、二人の意識を無理やりそれに向けさせる。
「ん?これ……」
その中の一枚を無造作に取り上げた青野は、ちゃんと叶恵が仕事をしていたことに感謝するとどうじに、その紙に書かれている名前に驚く。
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倉持 優奈
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その紙には確かにその名前が書かれている。
「なんで倉持なんだ?ぶっちゃけ……」
確かに最初は叶恵も候補にあげていたが、その後の本性を垣間見、割とナシだなと思った。のだが、
「ま、まぁ、候補……だしな、うん」
「急にどうした?」
いきなり動揺しだす叶恵の脳裏には今日の昼休みの光景が浮かぶ。
長話があったため、ダイジェスト(台詞一部抜粋)でお送りします。
*
「伊吹乃さん」
「ん?………」
「なぜ無言なんですか〜?」
「倉持さんが苦手故」
「ふふふ〜、あ、そうそうこれをどうぞ~」
「は?なんでその紙持って「マスターキー借りました~」ざけんな」
*
というわけで半強制的にこれも出せと言われたために出した次第である。非常に哀れな被害者である。加害者は倉持。恐らく言いくるめられて無罪である。
「な、なんで泣いてんだ……」
「……いや、何でもない……思い出し泣き」
涙を流し始めた叶恵にオロオロし出す青野だが、その前にこの人がいる。
(叶恵さんが泣いて……っ!可愛いです!うぅ……抱き締めたい……でも青野さんが邪魔なんですが!?)
手をワキワキさせている春来である。切なそうな顔をしながら考えていることはまさかの叶恵を抱き締めたい、と。
……初めて顔見た時のことでも思い出しているのだろうか。
「………?」
そんなカオスの中、青野の視界の端に何かが入り込む。
「何だこれ」
机の上に目立たないようにひっそりと置かれているそれを手に取ると、
「おい、伊吹乃」
「何?」
涙は止まった叶恵がぐずった声で応じる。
「この部屋ってよ」
「おう」
険しい顔の青野に真剣な表情になる叶恵。
その予想に違わず、次の台詞は予想外のものであった。
「隠しカメラ設置してんの?」
「…………は?」
青野の手にはストラップのような小さな箱。
よく見てみれば正面にカメラらしきものが見える。
「………………少なくとも俺ではねぇ」
青野が自分ではないと言う。
叶恵は既に犯人の特定が済んでいる。
春来も何となく犯人がわかってしまっている。
「……倉持か………………あの野郎」
「やはり……あの人ですか……」
「ほぼほぼ確定だろうな。マスターキー使って
「な、なんでまたそんな面倒なことを……?」
叶恵はチラリと青野の方を見る。一人だけ置いてけぼりでポカンである。厳つい顔した高校生男子のボケ面という需要のない顔である。
「ん?なんだ?誰がポカンだ」
「急にどうした!?」
………最近皆揃って勘良すぎでは?というか反応するところ、そこ?
「いや、なんか……知らねぇ声がいきなり人の顔をボケ面だのなんだのと好き勝手言ってたような……」
「気の所為だろ」
「そうか」
「それはそれとして、だ。倉持の野郎をどうするか……」
そこまで叶恵が言ったときである。
「呼びましたか〜?」
恐怖の声が響く。
≡≡≡≡≡≡
さて、誰でしょうか?(すっとぼけ)
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