第42話 ペガサス四姉妹の秘蔵っ子、ルンとラン

 あの後、エスタール家の屋敷に帰った俺は、何故かエフィたちに取り囲まれ尋問されていた。


「は~、まったく、マスターはあまあまあままだねっ!」


 エフィがわざとらしく指を俺に向かって突き立てて言ってくる。

 ……あまあまあままって、何だよそれ。


「フレインさんのために自分から面倒事を背負い込むとは、マスターには呆れます」


 アイスマリーもご立腹のご様子だった。


「い、いや、別に俺は……。ただアランにムカついただけで……」

「はいはい。お兄様はお優し過ぎます。でも、ルナはそんなお兄様が……」

「はい、ルナ。一人だけポイント稼ごうとかあざとすぎ! まったくこのアブノーマル妹は……」

「痴妹再びですね」

「だから痴妹って言わないで下さいませ!!」


 何だか女の子だけで盛り上がっているのだが……。

 一応俺は説明しておく。


「結局、話はうまい事まとまったからな? そもそもアランのヴェスタール家には何の期待もしていなかったし、その中では最善の状況になったと言える」

「それって結果論だよね、マスター?」


 エフィが腰に手を当て、顔だけ近付けてきてあざとく頬を膨らませる。

 ……最近、エフィが厳しい。でもそんなエフィも可愛いし、何ならそんな風に作った俺自身を褒めて上げたいから困る。


「なにをデレデレ鼻を伸ばしているのですか、マスター」


 ずどんっ! 俺の足が地面ごと陥没した。

 アイスマリーちゃん、痛い……。

 この子はどうしてこんな風に作っちゃったんやろ……。


「……デレデレするなら、私だけにすればいいものを……」


 小さな声でごにょごにょ言っているアイスマリー。やっぱりこの子も可愛かった。

 こんな子たちを作ってしまうとは……俺、実は天才じゃね。


「お兄様、幸せそうですね……」


 はっ、いかん。妹に白い目を向けられていた……。

 とにかく今はアイスマリーに潰された足を回復させるため、ポーションを飲もう。

 そんな中、フレインの声が響く。


「ちょ、ちょっとお待ち下さい! ネル様は何も悪くございません。責めるなら、どうぞ私を責めて下さいませ!」


 毅然とした態度で俺の前に立ち塞がるフレインを前にして、アイスマリーとルナの顔がさらに険しくなるのを見た。ちなみにエフィは笑っているが、逆に怖い。


「お兄さんはやっぱり甘々ですね! フレインお姉ちゃんやエスタールのためにここまでやってくれるなんて、ランはやっぱりそんなお兄さんが好きです!」

「ルンもです! どんどん好感度が高まって怖いくらいです!」

「はっ、もしやこれが……恋!?」

「何と言うことでしょう!? だとしたら、ルンは初恋です!」

「もちろんランもです! でもそうなると、フレインお姉ちゃんと恋敵になってしまいます! これは困りました!」

「もしかしたらマリアお姉ちゃんもそうなる可能性が高いです! でもルンは負けません!」

「ランもです! でも、むしろ四人まとめてもらってもらうのもありです!」

「ランは天才でした! さすがもう一人の私なのです!!」

「というわけでお兄さん、」

「「どうぞ!!」」

「話がややこしくなるから、ちょっと黙っていようか、君たち」


 ただでさえ訳わからない状態なのに、ルンとランがいるともうめちゃめちゃだった。何が「どうぞ」だよ……。

 それとルナ。クレンザーで洗ったんじゃないかってくらい白い目を向けてくるのはやめよう?


「と、とにかく話を元に戻すぞ。フレイン、準備の方はどうだ?」

「はい。今、姉のマリアが急ぎ軍備を整えているところです。私はこれからエスタールの主だった家臣たちを集め、ドラゴラス戦に対する指示を出して参ります」

「さすが噂のペガサス四姉妹のリーダーである次女様と、将軍長女様。仕事が早いな」

「い、いえ、私など、そんな……」


 フレインが照れたように顔を伏せる。

「信頼の眼差しが熱いです!」「来年には姪っ子か甥っ子が見れちゃうかもしれないです!」とか聞こえてくるけど無視だ、無視。というかお前らも何か仕事しような? お前ら二人もペガサス四姉妹の一員だったよね?

 ちなみにフレインは何のことか分かっていないようで、特に気にしている様子はない。さすが純情。いつまでもそのままでいてください。


「じと~」


 エフィ、口に出して「じと~」とか言うのやめろ。可愛いけども。

 というか話を進めづらっ!

 女性だけの空間に男一人ってやっぱりキツイ……。なんか多勢に無勢感がある……。

 うーん、男のフィギュアを作る計画を本気で進めるかなぁ。でも、作れるかなぁ、男のフィギュア……。

 おっと、俺自身、思考がずれていた。何とか話を進めなければ。


「とにかく、ドラゴラス戦まで時間が無い。それまでにやれることのことはやっておこう。犠牲を最小限に抑えるためにも」

「はい、ネル様」


 フレインが頷いてくれる。


「やっぱり信頼が籠ってます」

「フレインお姉ちゃんのあんな顔、初めてなのです」

「これはもしかしなくても……」

「もしかするのです!!」

「……お前らも働こうな?」


 いい加減うざくなってきたので殺気を込めてそう言うと、さすがのランとルンも飛び上がった。


「わひぃっ!? お兄さん結構怖いのです!」

「未来のお兄さんは怖いのですぅ!」


 ランとルンが涙目になっていた。

 あ、しまった。ちょっとやり過ぎたかな?

 そう思っていたのも束の間、


「でも、そんなお兄さんもありなのです!」

「怒るべきところは怒る! さすが未来のお兄さんなのです!」


 ……何故か株が上がっていた。


「むしろゾクゾクしちゃったのです!」

「ルンもです! その内ランと二人で手取り足取りしてあげようと思っていましたが、無理矢理お兄さんにされちゃうのもアリだと思った瞬間です!」

「……未来のお兄さんに何を期待しているんだよ」


 さすがにツッコまざるを得なかった。

 いや、未来のお兄さんでもないんだけれども!

 あー、もう! この子たちがいるとマジで何にも話が進まねーっ!!


「さすがお兄さん、いいツッコミなのです! ツッコむ話をしていただけに!!」

「上手い、ラン! さすがもう一人のルンなのです!!」

「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ!?」

「うわーっ! お兄さんが本気で怒ったのです!?」

「しばかれるのですーっ! でもそれはまだ早いのですーっ! まずはフレインお姉ちゃんからしばいてあげてくださいなのですっ!」


 言うが否や、ルンとランは脱兎のごとく逃げて行った。

 ……なんで何も悪くないフレインをしばかなければならないんだよ?

 そのフレインが申し訳なさそうに謝ってくる。


「あの……申し訳ありません。あの子たち、どうもネル様のことを本気で気に入ってしまったみたいで……」


 気に入られたらこんなに疲れるってどういうこと? 突かれる話をしていただけに。

 もう呪われてるんじゃないかってレベルでルンとランに毒されている自分がいた。


「ほ、本当に申し訳ありません……」


 実姉が気の毒になるくらいの元気な双子。それがルンとランだった。


「「「じと~」」」


 そしてジト目でこっちを見てくるエフィ、アイスマリー、ルナの三人。

 ……荒れた五公会議よりも、この数分の方がどっと疲れたんだけど……。



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