第24話 ハルト&リーリアの共同戦線
「お、おい、なんだよあれ……!?」
「もしかしてテロリスト……!?」
「は、早く逃げなきゃ……っ!」
張り詰める緊迫感。襲い掛かる恐怖や不安。
周囲は未だ爆発した影響で微振動が続いている。闘技アリーナの壁が爆発、謎の人物の登場というただごとではない緊急事態に、この場にいる学院の生徒は一瞬だけ固まると同時に、正しい判断が出来ずに動けないでいた。
「―――お前ら全員、早く逃げろッッ!!!」
『――――――ッ!!』
だがハルトの一喝でハッと息を飲むと、生徒たちは現在危険に晒されていることを瞬時に理解。不安や恐怖に表情を染めながら悲鳴を上げて闘技アリーナの入口へと殺到した。
その間にもハルトは決して目の前にいる人物からは目を離さない。
(かなり場数を踏んできてやがるな……っ。尋常じゃねぇこの殺気、目を離すと今にも襲い掛かってきそうだ)
警戒を緩めないまま、ハルトはじっと黒装束の人物を観察する。
背格好は中肉中背。素顔は紋様の描かれた仮面で覆われており顔は見えず、声も変声器で変えているのか上手く感情が読み取れない。その姿も全身黒装束に包まれているが、性別はおそらく男性だ。
武器は腰に差したナイフのような小さな魔剣一本しか見えないが、相手は第三皇女を狙う暗殺者、視えていないだけで武器を大量に隠し持っているのだろう。
その暗殺者の周囲には使役魔獣なのだろう、首輪を付けた狼種ハウンドウルフが数匹控えていた。
鋭い目と牙を持つ、得物を見つけたら決して逃すことを許さない闇夜の追跡者。入口へと逃げる生徒を追うことも出来たのだろうが、おそらくこの黒装束の人物の指示で動かないのだろう。
なんにせよ一切気を抜けず、油断できない相手だということが分かる。
それに―――、
「ローリエさん……っ!」
「クリスティア様と同じゼロクラスの女生徒ですわね……! もしや、彼女はもう……ッ!」
「そんな……ッ!」
そう、暗殺者が脇に抱えているのはゼロクラスに在籍している少女ローリエだった。力無く両手足をだらんとしており、表情は俯いた状態なので良く見えない。
彼女の安否が不安なハルトたちだったが次の瞬間、暗殺者は口を開いた。仮面の奥に潜む琥珀色の瞳が妖しく光る。
『安心しろ。抵抗こそしたが、この
「……ッ、ローリエさん!!」
クリスティア目掛けて暗殺者は勢いよくローリエを放り投げる。尻もちをつきながらもなんとかローリエをギリギリで受け止めることの出来たクリスティア。ほっと小さく息を吐きながら安心するがその刹那、激しい金属音が響き渡った。
「―――おいおい、自分から放り投げておいてそれはないんじゃねぇの?」
『ほう、我の一撃を食い止めたか』
「クリスがローリエを受け止めたタイミングで一気に二人まとめてぐっさり。さすが皇女を狙う暗殺者、やることがえげつないな……っ!」
『……ッ、ふんっ!!』
クリスティアがローリエを受け止めた瞬間を狙った暗殺者だったが、魔剣精シャルロットの刃を抜いたハルトがそれに対抗。
無慈悲に命を刈り取る凶刃と護る刃。ギャリギャリギャリッ!!!と鈍い音を響かせながらも両者の刃が火花を散らしながらぶつかる。だが相手も警戒しているのだろう。すぐさまハルトから大きく後退すると、そのリーチの短い魔剣を逆手持ちにしながらハルトを静かに見据えた。
肌を突き刺す程の気配。ハルトはそれを一身に受けながらも言葉を紡いだ。
「だが案外甘い所もある。お前、ここの生徒をわざと見逃したな? その実力ならこの場で全員殺す事も可能だったってのにさ」
『ふん、所詮は戦場をも知らぬ弱者。逃がしたところでこの皇女暗殺任務に支障はない』
「へぇ、任務っつーことは誰かに頼まれたってワケか。そこんところ教えてくれると助かるんだがな」
『……少々口が過ぎたようだ』
徐々に高まる濃密な殺意。警戒を忘れずハルトは背後にいる少女らに意識を向けた。
「……クリス、ローリエを連れて逃げろ。リーリアはハウンドウルフの対処を頼む」
「で、でも……っ!」
「……クリスティア様、この場は彼の言葉に従った方がよろしいかと思います。早くその生徒と共に安全な場所へ避難して下さいまし。―――ご自分の
「……ッ! ……わ、かりました。ハルト先生、リーリアさん、ご武運を……!」
『逃がすと思うか? ―――いけ』
「リーリア!」
「言われなくとも! 『
暗殺者の指示で数匹のハウンドウルフが俊敏な速度でクリスティアへと襲い掛かるが、すぐさまリーリアが魔剣ウィンディアの
剣を振るうと共に荒れ狂う風の防壁が出現、ローリエを抱えて入口へと向かうクリスティアを守るように遮る。
勢いを殺しきれなかったハウンドウルフが暴風に巻き込まれて空中に舞い上がるが、体勢を整えて着地。
牙を剥き出しにしながら成す術も無くただ低く唸る使役魔獣たち。やがてクリスティアの姿は闘技アリーナ入口の向こう側へと消えた。
『………………』
「ナイス判断だったぜ、リーリア」
「ふんっ、勘違いしないで下さいまし。いくら貴方がヘンタイ教師とはいえこの場は貴方の言葉に従うのが合理的と判断したまでですわ」
「今更だがリーリア、この数のハウンドウルフを捌き切れるか? ―――本物の魔獣を倒した経験は?」
「数え切れないほどありますわ。……これでもわたくし、小さい頃からお父様に鍛錬と称して魔獣が多く生息する森へと崖からよく突き落とされましたの」
「えぇ、お前って案外貴族らしからぬパワフル娘なの……?」
背中合わせになったリーリアによる衝撃のカミングアウトに、思わず複雑な表情を浮かべるハルト。
状況が状況なので深くは訊ねなかったが、リーリアの"力は痛みからしか生まれない”という言葉にはきっと彼女なりの苦労や信念が込められているのだろう。
ともかくハルトはすぐに意識を切り替える。ハルトの目の前には黒装束を身に纏った暗殺者、リーリアの目の前には唸り声と共に静かに威嚇してくる数匹のハウンドウルフ。
膨れ上がった戦意は、殺意と共に今にも爆発しそうであった。
『……まぁ良い。貴様らを片付けた後に皇女を殺せば良いだけの話よ』
「簡単に言ってくれるなぁ。クリスがメインディッシュで俺らが前菜ってことか?」
「ふん、率直に申し上げてムカつきますわね」
「同感だな。―――逆に返り討ちにしてやるよ」
『そうか。ならば―――苦しむことなく葬ってやろう』
その瞬間、『死』が牙を剥いた。
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