幼なじみ ~不器用な男と器用な女~

まいど茂

第1話 初対面

一人っ子の堀川真一ほりかわしんいちは今春、幼稚園の年中組からの入園となった。母親と手を繋ぎ、元気に初登園した。

翌日、幼稚園のお迎えバスに乗り、初めて母親と離れることになった真一。少し寂しそうにしながらも、新しい友達と出会うため幼稚園バスに乗った。


真一を乗せた幼稚園バスは、5分もかからずに幼稚園に到着。担任の松本先生が笑顔で待っていた。


松本先生「おはよう」


松本先生の足に抱きつく子もいて、先生苦笑い。教室に入り、起立、礼…と簡単な号令の練習が始まった。そして松本先生は先生の言うことを聞くように…と園児に声をかける。


そして、松本先生は園児に席順を伝える。


松本先生「じゃあみんな、これから教室の隅にかためて置いてあるイスを1個とって自分の席についてください」


園児達は「はーい」と元気よく返事をしてイスを取りに行く。

その時だった。真一はみんながイスを取りに行っているのに1人だけ取りに行こうとしない女の子に目がいった。少し寂しそうにしていた。真一のとなりの席の加島優香かしまゆうかだった。真一は心の中で思う。


真一(なんでイスを取りに行こうとしないんだろう?)


そう思った真一は、自然と体がイスを2個とって1個を優香に渡したのだった。

優香は寂しそうにしていた顔から一転、満面の笑みで真一と目があった。おとなしい性格の優香に対して、誰とでも話すことができる真一は、優香にもきやすく話した。


イスを取りに行くのは真一の日課になった。優香は毎日そんな真一の優しさが嬉しかった。


ある日、いつものように真一はイスを2個取りに行こうとしたら、優香に肩をポンポンと叩かれた。真一が優香の方に振り向くと、優香が指で向こうを指し、既にイスが2個置いてあったのだ。そう、優香が真一の分までイスを取りに行っていたのだ。


真一「ありがとう」


そう優香にお礼を言うと、優香はまた満面の笑みを浮かべた。


そんなやり取りは毎日続き、優香が男の子にイジメられようとしていたら真一は優香を庇い、男の子に「女の子なんやから、優しくしてやれよ」と声をかけた。優香は泣きそうになりながらも笑みを浮かべて、真一にベッタリくっついていた。


真一は教室のとなりの席には優香、園庭でかけっこをするときに男女1列ずつ背の低い順に並んだ時のとなりの女の子は優香、遠足に行って記念写真を撮るときや弁当を食べるのも、となりには優香がいた。極めつけは年長組に進級し、席替えをしても真一のとなりの席は優香だった。席替えは年中組の松本先生と年長組の矢沢先生が相談して決めたのだった。優香がおとなしい性格でなかなか人と話すのが苦手なのだか、なぜか真一とならよく話すのだった。2人のやりとりをずっと見ていた松本先生は、矢沢先生に引き継ぎ事項の中に入れていて、優香を真一と離すのは困難と判断して、年長組でも2人はとなり同士にしたのだ。


年長組に進級してからも真一は優香のイスを取りに行っていた。優香も時々真一の分のイスを取りに行っていた。


ある日、矢沢先生は真一に聞いた。


矢沢先生「しんちゃん、年中組さんの時からいつも優香ちゃんのイスを取りに行ってるけど、あれはなぜなの? 松本先生も気になってるんだけど…」

真一「それはね、優香ちゃんがイスを取りに行きづらそうにしていたから、それやったら1個取りに行くのも、2個取りに行くのも一緒やから、優香ちゃんの分のイスくらいは別に持てるからだよ。優香ちゃん、おとなしいけど、めっちゃ笑ってくれるよ」

矢沢先生「そうなんや。えらいねぇしんちゃん(笑)」


と矢沢先生は真一の頭を撫でた。

年長組になっても、真一のとなりの席は優香、園庭で男女1列ずつ背の低い順に並んでも真一となりには優香、遠足で記念写真を撮るときや弁当を食べる時も、真一となりには優香だった。


ある日矢沢先生は、今度は優香を呼んで聞いてみた。


矢沢先生「優香ちゃん、しんちゃんとずっと一緒だけど、仲良しなんやね」

優香「うん。だって真一くんは私の分までイスを毎日とってきてくれるし、しゃべってても楽しいよ」

矢沢先生「じゃあ優香ちゃんはしんちゃんがいないとダメ?」

優香「うーん、幼稚園では真一くんがいるから楽しいよ。それに帰りのバスもしんちゃんと一緒だもん」


そう、帰りのバスは優香も真一が乗る同じコースのバスに乗っているのだ。優香は幼稚園を出発して10分位でバスを降りる。真一はみんなが降りた後、一番最後に降りるのだった。だから朝は真一が一番最後にバスに乗るので、優香は毎日自分の席の横は真一の席として場所をとっているのだ。帰りも2人は一緒の席に座っている。


矢沢先生は、真一と優香の関係には注目していた。そして園内の先生達の中でも話題が出ていた。

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