第43話:機械遺跡突入
時刻は昼過ぎ。
私たちは南東方向へ全力疾走していた。
そしてほどなくして、以前にも訪れた事があるあの機械遺跡へと到着した。
だが、そこには先客がいた。
「やぁ。待っていたよ、
一人の老紳士が声をかけてきた。その周りには黒ずくめの男たちが複数人立ち並んでいた。
それよりも、私はあの老紳士の言葉が引っかかっていた。
機械の神に選ばれし者って、何の事だ?
「私はロウレン、しがない研究者の一人だ。単刀直入に言おう、その手に抱えてる『核』を返してくれないか?」
ずいぶん早口で喋る男だ。頭の回転が早いのだろうか、一切噛む事なく言い切っている。
だが、返事はすでに決まっている。
「断る」
「ほう?」
「こっちも聞きたい事がある。⋯⋯どうして私たちがここに来ることが分かったんだ?」
そう。それが一番の疑問だった。
ギルドで報告し、アキナの店に行き、そこで決意した直後にここに来たのだ。予定していた訳じゃない。
事前に行動を予測するのは不可能だ。
だが、研究者・ロウレンにとっては違うようだった。
「簡単さ。⋯⋯これで動きを把握していたからね」
そう言ってロウレンが取り出した物は、薄くて白くて四角い板状の金属。
「彼らの報告にあったからね、『機械仕掛けの人ならざる者が二体』と。機械であるならば、当然このレーダーにも反応する。その動きから判断していたのだよ」
私は驚いていた。
この時代に、機械を知っているばかりか、それを理解して実際に使用している人間がいる事に。
「そこの少女二機、機械人形というやつなのだろう?⋯⋯なるほど、実際に見てみると人間とそう変わらないな。素晴らしい完成度だ。私が過去に見つけたどの機械よりも美しく素晴らしい!」
ロウレンは早口で言葉を紡いでいく。しかも徐々に興奮が抑えきれなくなっているようで、しまいには叫び出していた。
「そしてその機械人形を動かしている君も実に興味深い!私はこの機械への理解に35年以上かかっているのだが、君はおおよそ二十歳前後。とても機械を研究するだけではこうはいくまい。考えられるのはスキルによる恩恵が有力だが、どうだね?」
「っ!」
「図星だね?今動揺したね?間違い無い、君は機械を制御出来る類のスキルを持っている!であるならばその『核』はいらないな。君、我々の仲間にならないかね?」
「はぁ?!」
早口でまくし上げるだけでなく、何故か私の勧誘まで始めている。
あの頭の中はどうなっているんだ?
「君が手を貸してくれるのならばその『核』はくれてやろう。どのみち保って数年の欠陥品だ。それよりも君の事の方が重要だ!君のスキルがあればこの遺跡に眠る機械兵器を蘇らせられる!そうすればあの御方の命令も果たせ⋯⋯」
「黙れ!」
私はロウレンのセリフを遮るように怒りの声をあげた。
「私はお前たちの仲間にはならない!ユニも渡さない!その遺跡も、即刻破壊させてもらう!」
「その通りです!あなたたちの思い通りになんてさせません!」
「⋯⋯ふぅ⋯」
ロウレンは呆れるように息を
「⋯⋯話し合いでは無理か。致し方無い。お前たち」
「「「はい」」」
「あの『核』を奪い取れ。男と女は殺せ」
「⋯⋯あの二体の機械人形は、いかがしましょう?」
「あの二機は無力化しろ。最悪、両腕と両脚は切り離しても構わん。機能停止さえさせなければそれで良い」
「「「かしこまりました」」」
黒ずくめの暗殺者たちは、即座に武器を手に取って構えた。
短剣、長剣、長槍。果てには明らかに機械関係の筒が長いものまで取り出してきた。
「⋯⋯
「なんだって?!」
ここに来て、とても凶悪な武器を出してきたものだ。
「しかも撃った瞬間に当たるぐらい速いから、人間はもちろん、機械のワタシたちですら見えないからね。気をつけて!」
「高威力に加えて、見切れないのか⋯⋯!」
なんて理不尽過ぎる武器だ。
遥か昔の人たちは、あんな危険物をたくさん造っていたのか⋯⋯!
「くっ⋯⋯!」
どうする?どうやって突破する?
甘い考えだとは思うけど、出来る限り人は殺したくない。
どうする⋯⋯!
「撃て」
「!」
「危ないっ!」
ロウレンの合図とともに、銃なる武器が咆哮をあげた。
同時にフェリシアが前に出て物理防御壁を展開し、銃の攻撃を全て防いだ。
「⋯⋯た、助かった⋯」
あまりにも大き過ぎる銃の音にも驚いたが、それを全て防ぎきったファルシアの防御力も凄い。
「ほぅ!銃の砲弾を全て防ぎきるとは!その防御力、実に興味深い!」
ロウレンは、もの凄く興奮していた。
「銃で無理なら、混戦に持ち込む
黒ずくめの暗殺者たち全員が襲いかかってきた。
総勢三十はくだらないであろう人数が、一斉にこちらへと向かってくる。
「みんな!とにかく密集して⋯」
『マルチロック。ファイア!』
「「「!!!」」」
迫りくる敵が、どこからともなく飛んできた攻撃によって吹っ飛ばされた。
「⋯⋯な」
「何だ?!今の攻撃は?!」
その光景を見ていたロウレンは、信じられないというような表情をしていた。
それは、
何が起きたのか分からない。
「⋯⋯今の攻撃は⋯」
呆然とする私たちの目の前に、人影が空から飛んで来て着地した。
その後ろ姿に、私は驚愕した。
「⋯⋯同じ⋯⋯?」
その後ろ姿は、ファルシアやフェリシアと
といっても、『全く同じ』という訳では無い。彼女の肩には何か乗ってるし、背中にも見た事が無いパーツが取り付けられている。
「⋯⋯死者数ゼロ、負傷者12名、しかし生命維持に支障は無し」
その少女は淡々とした口調で何やら喋っている。
かと思っていたら、いきなりこちらへと振り向いた。
「お怪我はありませんか?お姉様方のマスター」
「お姉様?」
という事は⋯⋯。
「フェノメナちゃん!」
フェリシアがいきなり少女に抱きついた。
やはりそうだった。間違いない。
彼女は、フェルミドールだ。
「フェノメナちゃん、逢えて良かった〜!もう逢えないかもしれないって思ってた⋯⋯」
「⋯⋯フェリシアお姉様⋯⋯」
今にも泣きそうなフェリシアの後ろ頭を、フェノメナはゆっくりなだめるように撫でていた。
そこへ、ファルシアが静かに近づいていった。
「⋯⋯フェノメナ、装備が変わりましたね。それに、
「⋯⋯ファルシアお姉様⋯」
「ふぅぅー。⋯⋯どーやら、間に合ったみたいね?」
フェルミドール姉妹の再会に水を差すように、後ろから見知らぬ女性が現れた。
「いやいや、ハカセが体力無いせいで遅れたんだろーが⋯⋯」
女性の後ろから筋骨隆々な青年がやって来て、女性の発言にツッコミを入れていた。
「しょーがないでしょ?私は頭脳労働派なんだから。運動は苦手だし⋯⋯」
「そんなんだから体力つかねーんだろうがよ⋯⋯」
「ハカセは運動音痴。仕方無い」
いつの間にかフェノメナも混ざっていて、愉快な会話を繰り広げている彼女らを、私は遠目で眺めていた。
「誰だ⋯⋯?」
「師匠のお知り合い⋯⋯、では無いですよね?」
「いや違う」
少なくとも、私は面識は無い。
というか、あれだけ濃い面子であれば、知り合っていれば忘れるはずは無い。
「⋯⋯って、こんな事してる場合じゃ無かった!」
謎の女性はロウレンと暗殺者たちの前へと移動し、声をあげた。
「ロウレン博士、シルヴェニア国王の命により、あなたを強制送還します!」
「⋯⋯何だと?」
告げられた言葉に、ロウレンの顔は徐々に赤くなっていった。
「⋯⋯この私が、強制送還だと?⋯⋯ふざけるな!そして誰だ貴様は!」
ロウレンの問いかけに、謎の女性は意気揚々と答えた。
「シルヴェニア国宮廷魔導師にして、四カ国認定の考古学者、カズラ・ウェイリー。学者名、アオイ・サリンフォード!」
「な!」
「「え?!」」
驚くロウレン。
と同時に、ファルシアとフェリシアも驚愕していた。
「知ってるのか?」
「アオイ・サリンフォード。その名前は記録にあります」
「アオイ博士は、ワタシたちフェルミドールを造った人だよ。でも⋯⋯」
「私たちが造られたのは、もう一万年以上も前の事。
「な!」
フェルミドールの生みの親?
そんな超古代の人間が、何故ここに⋯⋯?
「さあ雷光丸、フェノメナちゃん!周りの黒服たちをさっさと片付けて、ロウレンを確保しちゃいましょう!」
「だから変な名前で呼ぶんじゃねぇ!俺っちにはアルバっていう名前が⋯」
「えー?雷魔法得意でしょー?ごっつい見た目と合わせて、ピッタリだと思うのに⋯⋯」
「あーもう面倒くせぇなぁ!さっさとこいつら全員ぶちのめしてやる!」
「殺さない程度にねー?」
「命令受諾、了承。目標、ロウレン博士の確保に設定。⋯⋯行きます!」
謎の女性カズラの指示で、隣にいたアルバという青年とフェノメナが敵に向かって突撃していった。
「お、おい⋯⋯!」
「はいはい、アナタはあっち!」
応援に行こうとしたら、カズラに呼び止められた。
「アナタたちの事はアキナから聞いてる。けど、遺跡の破壊だけは止めてちょうだい。再封印だけ、お願いね?」
「⋯⋯何で、破壊したら駄目なんですか?」
「アレはいずれ必要になるからね。
世界を救う為?
どういう事だ?
「一体どういう⋯⋯」
「ほうら行った行った!封印は
「ほら師匠、早くいきましょう!」
「あ、あぁ⋯⋯」
カズラに後押しされながら、私たちは遺跡内部へと駆け込んでいった。
あの人たちの事は気になるけど、それはまた後で聞こう。
今はこっちに集中だ。
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