第24話:対ドラゴン戦

 ― 地下十一階 ―


 あれから私たちは十階層まであっさりと踏破した。魔物たちも徐々に強くなっていってるはずなのだが、特に苦戦する事は無かった。


 そして十一階へと来たのだが⋯⋯。


「⋯⋯嫌な予感がする」


 私は、下の階層から漂う魔力を感じ取っていた。


「警告します。下の階層より、高密度の魔力を検知しました。今までの魔物とは比べ物になりません」


「⋯⋯だよね」


 下の十二階は最深層。となれば、この下にいるのは迷宮の主だ。ただ、何らかの異常が起こっているのは確実だろう。


 通常、階層を越えて魔力を感じる事は無い。それが感じられるという事は、この迷宮のランクを超えていると見ていい。


 これは、マズい事になった。


「⋯⋯師匠。どうします⋯⋯?」


「⋯⋯とりあえず確認だけはしよう。やれそうなら倒す。無理そうなら、一度引き返して応援を呼ぼう」


「⋯⋯分かりました」


 私たちは、最大限の警戒をしながら最下層へと降りていった。




 ◆◆◆




『GYAOOOOOOOO!!!』


「⋯⋯な」


「し、ししょー⋯⋯。アレと戦うんですかぁ⋯⋯?」


 アイビスが涙目になりながらしがみついてくる。無理もない。


 目の前に、巨大なドラゴンが鎮座していた。


 ドラゴンは、こちらに気づくなり口から息を吸い込み始めた。


「マズい!ブレスが来る!」


「えぇぇぇ!」


「ファルシア!フェリシア!障壁を張るから、二人は補助をお願い!」


「了解だよ!」


「了解しました」


 私はすぐさま魔法陣を展開した。ファルシアは横に、フェリシアは後ろに、それぞれ密着した。


「魔力出力制御、五十パーセントに設定!お姉ちゃん、魔力制御はワタシがやるよ!」


「了解。では、私はご主人様マスターと共に魔力障壁を展開します。姿勢制御と足場固定もこちらで担当します」


「お願い!」


 ドラゴンから炎が放たれる。こちらも魔力障壁を展開した。


「《マジックシールド》!」


 五十パーセントの魔力出力で展開された魔法障壁が、ドラゴンのブレスを受け止めた。出力が強すぎたのか、シールドは真横の壁や天井にまでめり込んでいた。


 シールドの出力ではこちらが勝っている為割られる事は無さそうだが、ドラゴンのブレスは途切れる気配が無かった。いくら私の魔力総量が多いとは言っても、さすがにドラゴンを上回る事は無いと思う。となると、このまま持久戦になれば多分こっちが先に力尽きる。何とかしなくてはいけない。どうする⋯⋯!


「⋯⋯⋯⋯?」


 ふと、一つの可能性が頭をぎった。


「ファルシア!ドラゴンのブレスって、魔力で出来てたよね!」


「はい、その通りです。ドラゴンの放つ魔力が炎となって見えているだけですので」


 やっぱりそうか!となれば、がいけるかもしれない。


「アイビス!聞こえるか!」


「⋯⋯し、師匠?」


 アイビスから返事が返ってきた。何とか無事みたいだ。


「アイビス、良く聞いてくれ!⋯⋯今からドラゴンを仕留めてきて欲しい」


「⋯⋯え?ええぇぇぇぇ!む、無理ですよぅ!あの炎の中に行くなんて⋯⋯」


「いやいや、アイビスには魔力無効マジックキャンセラーがあるだろう!ドラゴンの炎は魔力の塊だから、アイビスには効かないはずなんだ!」


「魔力無効⋯⋯?⋯⋯はっ!」


 アイビス⋯⋯。自分のスキルの事、絶対忘れてたな⋯⋯。


「お願いだ!今は、アイビスだけが頼りなんだ!」


「⋯⋯〜〜っ!分っかりました!⋯⋯い、行きますっ!」


 その一言と同時に、後方からアイビスが炎の中に突撃していった。


 アイビスの短剣がドラゴンの炎を斬り裂きながら突き進んでいく。魔力無効が効いているようだった。


「うあああああああああぁぁぁぁっ!」


 アイビスは絶叫しながら炎を斬り払い、短剣を投擲。ドラゴンの喉元に突き刺さり、同時に炎が止まった。一気に勝機が見えてきた。


「二人とも、魔力制御をお願い!」


「「了解!」」


「アイビス!そこから退いて!」


 私の声に反応して、アイビスはすぐさまドラゴンから飛び退いた。


「行くぞ!⋯⋯《クリスタルソード》!」


 魔法を発動させると、右手のハンドソードに氷がまとわりつき、天井まで届きそうな程の巨大な氷の剣が出来た。そのまま振り抜き、ドラゴンの首を刎ねた。同時に氷の剣が一気に砕け散った。


「⋯⋯はあっ、はあっ、⋯⋯はぁ」


「ご主人様、大丈夫ですか?」


「大丈夫?一瞬とはいえ、片手であんなに大きいのを振り回したんだから、右手に結構負担がかかったはずだけど⋯⋯」


「あぁ⋯⋯。何とかね⋯⋯」


 ファルシアとフェリシアが駆け寄ってきて、身体を検査し始めた。ファルシアは医療技術もあるので、荷物の中から医療品を取り出して治療してくれた。


「⋯⋯アイビスは?」


「アイビスちゃんは、あそこだよ」


 フェリシアが指差した方を見ると、アイビスはその場で座り込んで、放心状態になっていた。


 私は、ゆっくりとアイビスの元へ行った。


「⋯⋯」


「⋯⋯大丈夫?」


「⋯⋯はい」


 返事が返って来た。頭は動いているみたいだ。


「アイビスは、よく頑張ったよ。ドラゴン相手に立ち向かって、炎を無力化して、私たちを護ってくれた」


「⋯⋯」


「⋯⋯ありがとう」


「⋯⋯私でも、お役に立てた⋯⋯、ん、ですね⋯⋯。⋯⋯っく」


 アイビスは静かに泣き始めた。私はそっとアイビスの頭を撫でながら、泣き止むまでしばらくなだめ続けた。




「全部持っていくのは不可能なので、少しだけでも鱗を剥いでおきますか。眼球も頂いておきましょう」


「牙と爪も数本確保しておくね〜」


 ファルシアとフェリシアは、一緒にドラゴンを解体しながら素材を集めていた。

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