第115話 薔薇と虚無


この胸に

ぽつんと浮かぶむなしさは

道を変え

歌を聴いたとて消せやせぬ

それならば

鋭く光る爪を立て

やわらかな

皮膚を切り裂けばいいものを

青白く

臆病なこの右の手は

息の根を

止めることさえ叶わずに


この胸に

ぽっかり空いた深い穴

音もなく

その体ごと飲み込んで

幸せの

庭に咲く薔薇の美しさ

そんなもの

穴の蓋にさえ成りはせぬ

どうせなら

身に纏う棘を握りしめ

手に走る

痛みに意識を任せたい


この胸に

ふわりと宿る哀しさは

ゆるゆると

体の中を駆け巡り

時を待ち

枯れ落ちていく花びらの

残像を

まぶたの裏に焼き付けて

いつの日か

再びここに咲き誇る

そのときを

静かに静かに待っている

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