お題:げきせい【屐声】 下駄の音。
国境の町に生まれたのが幸いなのか、そうではないのか他人を騙して稼ぐ仕事で日銭を稼いで暮らしている。
一般的にベトナムからカンボジアを目指す旅行者はモクバイ/パペットという国境の街を通ってホーチミンからプノンペンまで陸路を伝い国境を越える。多くの旅行代理店がビザ代込みのツアーバスを出している。朝出発し寝ていればいつのまにか国境に着き、そこでパスポートにハンコを押してもらい10時間ほどでプノンペン市内まで着く。運が良ければ夕方、日が落ちる前に間に合うので明るい内に宿を探すこともできる。
ある年、外交問題で揉めてこの国境が封鎖されたことがある。するとバックパッカーたちは国境を越えるため飛行機を使うか、少し不便ではあるがより南にあるチャウドクという港町の国境から海路を利用するしかなくなった。何十年に一度あるかないかの稼ぎ時がきた。
この国のような途上国では情報の伝達が遅く不正確であいまいだ。それを利用して旅行者にふっかけるのだ。まずは昼以降に着いたバスから降りてくる奴らに、
『国境はもう閉まっている(嘘)。ひと晩うちの宿に泊まって明日の朝出発するといい』
と伝える。多くの旅行者は、そんなはずはない17時までは開いているはずだ!国境まで案内しろ!と言ってくる。そこで
『国境までは歩くと30分はかかる(嘘)。暑い中そんな大きな荷物を持って行くのは無理だ(嘘)。このバイクタクシーに乗っていけ』
と言う。その値段もふっかける。ローカル価格では1ドルだが外国人価格は10ドルだ。値引き交渉されて半額になっても儲かるぼろい商売だ。一方、宿に泊まると言った旅行者にもバイクタクシーで宿まで送るとふっかける。しかも
『他の宿は満室だ。ココ以外は空いていない(嘘)。泊まりたかったら20ドル払え』
とふっかける。メジャーな国境が閉まったおかげで大儲けだ。騙される奴が悪い。特にこの国を焼きつくしたアメ公なんかからはいくら取ってもかまわない。さらに国境では正規の国境管理官がいるのだが賄賂を渡して、気弱そうな旅行者は無理やり別室送りにしてもらう。そこで
『このパスポートとビザには不備がある(嘘)。通して欲しければ金を払え』
とふっかける。だいたい別室で待機していると足音でわかる。綺麗なスニーカーを履いた独り者の日本人はサクッサクッという軽い足音で、脅しに弱い。旅行慣れていないからだ。
ガツガツというブーツの音をさせる欧米人は『そんな審査があるか? おまえら偽物だろ!』と暴力に訴えて強引に国境を通って行ったのでふっかけない方がいい。
サンダルの地面をスルような足音のする奴は旅慣れていて脅しに屈しない。
コツコツとヒールを履いた女は『怪しいスパイがいるという情報がある(嘘)』といい別室で身ぐるみはいで身体検査をさせてもらう。
聞いたことがない不思議な
こっちも体を張って日銭を稼いでいる。殴られたり殴り返したりなんてのは日常茶飯事だ。それでも毎日誰かを騙して金をせびってその日暮らしをしていくしかないのがこの町で生まれた若者たちの現状である。
途上国の国境はだいたいどこもこんなものである。
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