お題:いそひめ【磯姫】 人の血を吸うという海の妖女。海女子(うみおなご)。海女房(うみにょうぼ)。濡女(ぬれおんな)。

 21世紀は国境を越えた人の往来が激しくなり、ウィルスによる感染病を防ぐのが難しくなった。

 食品、植物、動物、虫、そして感染した人間。自国の中では安全でも他国から来訪した生物などによりウィルスが爆発的に広がり、多くの死者が出るというニュースが先進国で毎年のように聞かれるようになった。


 ワクチンは開発するのに時間がかかり、翌年にはそのワクチンに耐性のある新種のウィルスが生まれるというイタチごっこである。これを防ぐには鎖国してモノやヒトの行き来を完全に排除するしかないが、食料自給率が低い日本ではモノを輸入しなくなれば餓死者が出てしまう。


 ある年ついにハイチが感染源のゾンビウィルスが日本にも到来した。

 死ぬとゾンビとなり生き返るというものだ。さらにゾンビは生きた人間を噛み殺し、殺された人間もゾンビになるという厄介な感染病で都市を中心に蔓延した。

 ゾンビを葬るには頭を潰すか全身を火葬して焼いてしまうしか無い。当初は自衛隊が出動して駆除にかかったが増殖スピードに対して間に合わず、ワクチンの開発も遅れ日常にゾンビが溢れるのが普通になった。


 ただひとつの救いは温厚な日本人の性格が反映されたのか、基本的に国内のゾンビは老人のように歩く速さはゆっくりで、あわてず走れば逃げられるという点である。

 ゾンビ発生当初は国民がパニックになり我先にと争い逃げ惑うひどい有様だった。

 が囲まれでもしない限りは、油断した子供以外噛まれるのを回避できるということに気がついてから騒動は落ち着き日常が戻ってきた。噛まれなければ良いので肌を守る厚手のファッションがよく売れた。最初はダサいということで人気はなかったが、某アイドルが洒落たデザインの防噛服を着てCMに出てから一気に流行した。


 やがて少子化により労働力が激減した日本では、ゾンビを労働力として利用することにした。基本的に一度死んだゾンビは定年まで働いていた仕事を黙々とこなそうとする。さすがに飲食店での雇用は衛生的な問題で禁止されたが、工場での流れ作業やレジ打ちといった仕事はゾンビにうってつけだった。

 しかもゾンビはお腹が空かず水と食料は必要ない。もちろん給料もいらない。さらに寝ることがなく24時間働けるので土建業やコンビニで重宝された。コストゼロで生産性があがるとの噂で、温厚でまじめなゾンビを派遣する会社まで現れた。なんでもプラスに利用する日本ならではである。


 生前、海に潜って魚介類を採っていた海人さんは、死ぬと磯姫いそひめというゾンビになった。

 極寒の寒い冬の海だろうと関係なく冷たい水に潜って貝をとってきてくれるので過疎に悩んでいた魚村は大いに助かった。ただ夏の海辺に遊びに行くと、海に潜っている磯姫に噛まれてしまう事故に遭う危険がある。ある夏は1000人くらいが一気にゾンビになってしまったそうだ。

 天気図ではなくゾンビ図というのが朝のニュースで毎日報じられている。ゾンビ発生区域と危険指数をチェックするのが日課である。


 今ではスズメやカラスと同じくらいゾンビが歩いているのをよく見る。嘘かホントか全身ゾンビの衣装をしたバンドやお笑い芸人も人気だ。

 農村ではよく畑仕事をしてくれるので助かっている。少し前まで毎年3万人いると言われた自殺者は社会問題となっていたが、今では労働力として活躍してくれるので大いに推奨されている。ゾンビになった元彼をペットとして養って癒やされている女子もいる。昔みたいに文句を言わないのがいいそうだ。


 こうしてゾンビと人類は共存しはじめた。ボクはというとまだまだ書きたい小説がたくさんある。ゾンビと人間の交流もドラマになる。アイデアが尽きて書くものがなくなるまではしばらく人間でいいと思っている。


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