39 澱み
コイク大陸の魔物は、他の大陸と同じ魔物と、この大陸でしか見かけない魔物が半々だ。
ギルドに情報のない魔物の難易度を決めるのは、今の所、僕の匙加減次第となっている。
今までの経験を活かして、なんとかやれている。
セイムさんと出会うきっかけになった『黒クマ』は、僕が見たことなかっただけで他の大陸では『ブラッドベア』という名前でギルドに情報があった。難易度はB。元隊員の人たちは全員、一対一なら余裕で倒せる相手だ。
元隊員は殆ど
今回も、魔物探しを手伝った後は元隊員たちに任せ、僕は少し離れて様子を見ていた。
相手はブラッドベアが3体。パーティは
元々、もっと強い魔物を相手にしてきた人たちだから、油断は無い。一人一体を相手に、次々に討伐を完了する……はずだった。
「なっ!?」
一人が声を上げた。いつもなら止めになっていたはずの一撃を、ブラッドベアが耐えていた。
ブラッドベアの方の動きが怪しかったから、注意しておいてよかった。直ぐに僕が間に入り、ブラッドベアの動きを止めた。
「怪我は?」
「ありません。……すみません、油断を」
「見てましたけど、問題なかったはずです。おかしいのは、こいつだ」
ブラッドベアの急所を短剣で一突き。それでようやく動かなくなった。
「大丈夫か?」
他の2人が問題なく討伐を終えて集まってきた。
「ああ、先生が助けてくれたからな」
元隊員さんたちは、僕のことを先生と呼ぶ。「そんな大層な者じゃないです」とは言ったんだけど、「冒険者のことを教えてくれるんだから先生だ」と、あっという間に定着してしまった。
「先生、今のはどういうことですか?」
「個体差、どころじゃなかったですね。一旦持ち帰らせてください」
少し嫌な予感がして、[気配察知]や[超感覚]を発動させる。
予感は的中した。でも、何故?
「今日はこれで切り上げましょう。しばらくクエストも休みになると思います」
ドロップアイテムを回収した後、町へと戻った。
1時間後、再び同じ場所にやってきた。
「ここに、ほんの少しだけ呪術の痕跡があるんだ」
“……そうか”
「心当たりある?」
“以前から、考えたくないことがあってな”
ヴェイグが言い淀む。
「多分、僕も同じことを考えないようにしてた」
呪術を撒いたのは、ディセルブの呪術使い達だ。
人の手で行うものだから、海を渡ってまでわざわざ呪術を使うことは殆どない。
事実、ディセルブから離れた大陸ほど呪術の痕跡は少ないか、全く無かった。
それが今、ここにこうして存在している。
「僕ら自体が、呪術でできてる」
確認のため口に出すと、ヴェイグは無言で肯定した。
僕が異世界に転生した理由は未だによくわからない。
しかし、ヴェイグは明確に、呪術によって
今の状態自体が、呪術によって構成されているのだ。
「長居しちゃったもんね」
1ヶ月で、魔物に影響が出るほどの痕跡を、その地に撒いてしまうようだ。
“アルハ”
「謝るのは無しだよ。ヴェイグのせいじゃない」
“だが……もうどこにも、定住できぬのだぞ”
「ちょっと不便だね」
“ちょっと不便、で済む問題か?”
「ヴェイグと一緒なら旅も悪くないからね」
“俺も、アルハとなら悪くないが”
「まあでも、メルノ達とゆっくり過ごせないのは辛いから、解決策も探そう」
“無論だ”
「とりあえずは……」
あたりを見回す。[気配察知]だけを強化して、広範囲を調べ上げる。
20分の1くらいの割合で、影響がでているようだ。
“始末をつけるか”
強くなった魔物だけを討伐するのは、半日で済んだ。
念の為に大陸中を確認して回りたいところだけど、これ以上長居するのも不安だ。
ボーダには、魔物が異常に強くなることがあるから、冒険者たちにくれぐれも注意をして欲しいとだけ伝えた。
しっかり[解呪]もしたから、僕らがこの地から離れれば、これ以上魔物に影響はでない、と信じたい。
「先生、出立すると聞いてきました」
真夜中だというのに、僕が泊まっていた宿屋の前に元隊員の冒険者たちが集まっていた。
急用ができたことにしてテファニアを去ると告げたのは、ついさっきだ。
ボーダが気を回してくれたのだろう。
餞別と称して、テファニアの保存食をたくさん貰ってしまった。
野菜の塩漬けが、日本の漬物に似てて懐かしい味がするんだよね。
「こんなに、ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらです。また是非来てください」
全員と順に握手を交わしてから、町を出た。
「で、どうしようか」
“うむ……”
コイク大陸からは出ようということで、一旦異界に入った。
そこから、身動きが取れなくなってしまった。
「一ヶ月って、累積かな」
“だとすると、本当に異界以外は行く場所がなくなるぞ”
「人が住んでない大陸があるんだっけ」
“確認がとれていないだけで、実際はわからん”
「座標もよくわかってないんだっけ。適当に行くしかないか」
「おいでよ魔女の森」
「なにか言った?」
“俺ではない。だが、確かにあの森ならば呪術の影響を受けなさそうだな”
「ジュノの近くなのに大丈夫かな……いやいや、なんで居るの!?」
「いえーい」
異界に、カリンがいた。
「2名様、ご案内ー」
カリンがぱん、と手を打った瞬間、いつか見た和室にいた。
“相変わらず、滅茶苦茶な魔法だな”
カリンはジュノ国の北の森に住んでいる、自称魔女だ。
「本当に大丈夫なの?」
「うん、遠慮しないでー」
カリンはいつのまにか着物姿になっていて、いそいそと抹茶を点てている。
僕の方も、旅の装備から着流しになっていた。
「いつのまに!?」
「似合う似合うー」
“変わった服だな。ちょっと替わっていいか”
交代すると、どうやって着ているかをつぶさに観察しはじめた。ヴェイグの順応力がすごい。
「まあまあ、
“話?”
「そ。ふたりとも、気づいたからね」
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