24 カラフルファンシー
「ここ、どこ……ヴェイグだ!」
「アルハ!?」
お互いがそれぞれ別に存在している。僕の身体の中にヴェイグがいるんじゃなくて、ヴェイグが自分の身体を持って僕の目の前に立っている。
ヴェイグの服装は、僕が最初に着ていたものだ。顔はなんとなくのイメージが脳裏にあるし、白い世界で見たことがあるから初めてじゃない。
それでも、なんていうか。
僕の顔をさせているのが申し訳なくなるぐらい、整っている。
ハインと「女性怖い」の話で盛り上がってたのは、この顔のせいか。納得したよ。女性が放っておかないよ。
「いつもごめんね」
「何の謝罪だ」
思わず謝ってしまい、ヴェイグに訝しがられた。
こういうやりとりは、普段どおりだ。
「で、ここどこか解る?」
「恐らく精霊が創った空間だが、俺まで招かれるとはな。しかも、このような形で」
ヴェイグが自分の身体を見る。それから、僕に手を差し出した。
「握手しないか。普段できぬことだ」
「いいね」
言うより早く、ヴェイグの手をがしっと握る。ちゃんと感触がある。
なんだか笑いまでこみ上げてきた。
ヴェイグも口元がニヤついてる。あまり笑わないから、珍しい。
しばらく二人で、手を握ったまま、お互いを見てニヤニヤしていた。
「そろそろ、いい?」
二人で声の方向へ振り返ると、大きなホイップクリームが幾つも積み上がったような塊がいた。全長は、マリノくらいのサイズだ。よくよく見ると、丸いチョコのような点がふたつと、人という字みたいな線が付いている。多分、目と口だ。気配が読めないから、人か魔物か判別がつかない。
さらに、あたりのカラフルな靄の中から、マリノがよく喚ぶ精霊の
いい歳した男が二人で、手を握ったままニヤニヤしてるとこを見られてたのか。
絶対に赤くなっている顔を隠すため、両手で覆う。
「どうした、アルハ?」
ヴェイグは平気そうだ。胆力がすごい。
「突然呼んじゃってごめんね。私はウーハンっていうの。マリノ様にはいつもお世話になってます」
ホイップクリームことウーハンが軽い口調で挨拶をしながら、こちらに近づいてきた。
近くで見るとクリームではなく毛で、もふもふだ。手を突っ込みたい衝動に駆られる。
「ヴェイグ様に用事があるんです。でも、お二人の魂がつながってるから、どちらか一人ってのができなくて」
こちらのことは解ってるみたいだ。
「俺一人を呼んでどうするつもりだ? 俺はアルハが居ないと何もできぬぞ」
ヴェイグが堂々と、少し情けないことを言う。
「それは言いすぎでしょ」
「事実だ」
「いえ、その。ヴェイグ様にしかできないことで」
ウーハンが僕らの周りをふよふよと漂いながら、話を続ける。
「マリノも俺で、と言っていたが、どういう意味だ。俺は精霊達に好かれておらぬだろう」
「まずは、その誤解を解きましょうか。コマたち、おいで」
拒魔犬が恐る恐る、ウーハンの足元に集まる。そのうちの1匹をウーハンが白い毛の一部を伸ばして抱き上げると、ヴェイグに押し付けた。
「?」
ヴェイグは困惑しながら受け取る。拒魔犬は怯えてるのか、涙目でぷるぷる震えている。……申し訳ないけど、ちょっとかわいい。
「怯えているではないか」
震える拒魔犬をウーハンに返そうとするが、受け取らない。
「違うの、ソレ。ね?」
ウーハンがヴェイグに抱かれた拒魔犬に確認すると、拒魔犬は弱々しくワンと鳴いた。無理やり言わせてる感がある。
「もう、あなた達がそうだから、ヴェイグ様が誤解するのよ? ちゃんと言って、ほら!」
拒魔犬はウーハンとヴェイグを交互に見て、何度か深呼吸をすると、ヴェイグに顔を向けた。
「あの、ほ、ほんとは、みんな、みんな、貴方に、お、お仕えしたいんですけどっ! その、恐れ多くてっ…!」
拒魔犬はつっかえつっかえ、なんとか言葉を発した。拒魔犬が人の言葉を喋ってるとこ、はじめて見た。
それと、似たような精神状態の人に、ついこの前遭遇したなぁ。
「ハインがこんな感じだったよね」
ハインはラクを美しいと思うあまり、本人と会ったり会話するたびに、緊張しすぎて顔を青くしていた。
ラクからすれば、ハインに嫌われているのではと誤解するようなリアクションだ。
僕の言う意味が通じているのか、ヴェイグは抱きかかえたままの拒魔犬を凝視している。
「喋った」
びっくりするとこ、そこ!?
「ヴェイグ様が驚かれるのも当然です。あ、お連れの方は解ってないわね」
おお、僕が添え物扱いされてる。
「獣に近い姿をした精霊が人語を話すのは、召喚者への最大の敬意なのよ」
「なるほど」
解説助かりました。
「ヴェイグ様って、大賢者で、魂は気高いし、竜の身体に入ってるしで、お話するのも気後れしちゃうの」
色々と気になる単語が出てきたけど、ヴェイグがそれどこじゃなさそうだ。
ヴェイグは暫し黙考したあと、口を開いた。
「俺は、お前達が必要なときに、必要だから喚んでいる。気遣いは無用だ。次からは、萎縮せず接してくれると助かる」
腕の中の拒魔犬に、ではなく、精霊皆に語りかけるようだった。僕と違って低くてよく通る、いい声だ。
一瞬、あたりが静まり返った。ウーハンも拒魔犬たちも、ヴェイグを見つめたまま黙り込んでいる。
遠くから、地鳴りのような音が近づいてくる。精霊だから気配が読めないということはないのに、何が近づいてくるのかわからない。よくよく自分の身体を確認すると、スキルが全て使えていなかった。
そのことをヴェイグに伝えようとした時、地鳴りが収まった。
僕らの、というかヴェイグの周りには、様々な姿をした無数の精霊達が集まっていた。
「今ここに来れない者たちもいますが、一先ず、これだけ」
これだけ? このカラフルわたがしの世界の果てまで精霊がひしめいているのに?
「全て、貴方にお仕えします。いつでもお喚びください」
ウーハンはヴェイグの前にすいっと浮いて、優雅に頭を垂れた。
「わかった。その時は、よろしく頼む」
ヴェイグの宣言と共に、精霊たちは次々に消えていった。元の居場所に帰っていったらしい。
ずっとヴェイグに抱かれっぱなしだった拒魔犬も、ぴょんと飛び降りるとぺこりと頭を下げて、仲間たちとともに消えた。
残ったのは、僕らとウーハンのみだ。
「それで、本来の用件は何だ?」
「はい、マリノ様のことなんですけど。お察しの通り、とあるアホ……いえ、精霊が、いたずらしてるんです。ヴェイグ様なら止められるかと。お願いしますっ!」
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