それはする奴の台詞だな
寝間着などあるはずもないので、上着だけ脱いでベッドに潜るヴォードだったが……その隣に誰かが潜り込んできた感触に「うおっ」と声をあげてしまう。
「レ、レイア!?」
「はい、そうですけど?」
「そうですけど、じゃなくてだな!」
「ヴォード様って、凄く良い筋肉ですよね」
「背中を撫でるんじゃない!」
思わずベッドから飛び出し離れたヴォードだったが、ヴォード同様に上着を脱いでベッドに潜っているらしいレイアの姿に気付き高速で視線を逸らしてしまう。
「なんで脱いでるんだよ……」
「しわになるじゃないですか。なりませんけど」
「ならないのか」
「マジックアイテムですからね」
そりゃ凄い、と感心しかけて、そうじゃないとヴォードは混乱する思考を正常に戻そうとする。
「いや、そこじゃない。なんで俺のベッドに潜る。ベッドは2つあるだろ」
「それも結構不満なんですけどね。大きめのベッド1つでいいじゃないですか」
「……っ!」
不満です、と態度で表現するレイアにヴォードは絶句し……やがて、なんとかといった様子で言葉を絞り出す。
「……もっと、自分を、大切にしてくれ……!」
「してますよ? それに言ったでしょう? 私は貴方の、貴方だけの【オペレーター】です。他の男になんか見向きはしませんよ?」
「だとしてもだ! 会ったばかりの俺達が同衾とか間違ってるだろう!」
「……その誠実さは尊敬しますけど、分かってますか?」
真面目な口調で言うレイアに、ヴォードは思わず気圧されそうになる。
間違った事は何一つ言っていないはずだ。なのに、自分の言う方が正しいと言わんばかりのレイアの態度の意味が分からないのだ。
「今後ヴォード様が有名になった時に、色気に自信のある人達からのハニートラップは絶対に発生しますからね? 多少は色香に慣れとかないと、後々辛いですよ?」
「絶対って……」
「ヴォード様がどう考えてるかは大体分かりますけど、色気は武器です。血を流さずとも目的を達成できる必殺兵器です。そして統計上、誠実な人は高確率で色気と色香に迷います」
「と、統計って誰が」
「神です」
ぐうの音も出ない。神の統計とか言われて、誰がそれに異論を唱えられるというのか。
「というわけでほら、こっち来てください。いきなり好みの女性が全裸で抱きついてきても心乱さないくらいが理想ですよ!」
「それもどうなんだろう……ていうか、そんな事する女性は居ないと思うが……」
「じゃあ全裸の男性でもいいですよ」
「そんな男からは全力で逃げる」
「まあ、受けて立つとか言われても困りますけど」
いいからこっち来てください、とベッドを叩くレイアに、ヴォードは思わず頭を抱えてしまう。
「……俺は君にも慎みを持ってほしいんだよ……」
「ヴォード様の好みがそっちなのは理解しましたけど、今どき定食屋の娘でも、結構したたかですからね?」
「そんな現実は聞きたくない」
「ていうか……」
そこで会話の流れを切るように、レイアは声を上げ瞳を潤ませる。
「そこまで拒否するくらい、ヴォード様は私が好みじゃないんですか?」
「え。い、いや。それは……」
「もしそうなら、そりゃ……ご迷惑だったでしょうけど……」
毛布の中に顔を隠し始めるレイアの姿に、ヴォードは苦悩し頭をガシガシと掻く。
「……レイア」
ベッドの縁に腰かけたヴォードは、もう顔の見えなくなったレイアに諦めたような口調で語りかける。
「好みだから困ってるんだよ」
「……そうなんですか? どのくらい好みですか?」
「ど真ん中だ。俺の妄想が現実になったんじゃないかってくらいだ。性格については……まだ会ったばかりだから何とも言えないけどさ」
「なら、なんで一緒に寝るのを嫌がるんです?」
それに、ヴォードは少しの間無言。そして、照れたように鼻の頭を掻く。
「……好みの女の子だからって、軽く扱う男になりたくない。それだけなんだ」
言って振り向くと、そこには布団から顔を出してニヤニヤと笑うレイアの姿があった。
その表情に「言った」のではなく「言わされた」のだとヴォードは察し絶句してしまう。
「ふっふっふー。これもハニートラップの一種です。見事引っかかりましたねおりゃー!」
「うおっ!」
毛布の中に引きずり込まれたヴォードは顔をこれ以上ないくらい真っ赤に染めるが、レイアの力は強く引き離せそうにもない。
「な、なんだこの力! まさか補正がかかってるのか!?」
「正解です! 【オペレーター】は自衛の為に全部の能力に平均的に補正がかかってます!」
「は、離せレイア!」
「嫌です!」
「なんで!」
「ぶっちゃけ私もヴォード様は好みど真ん中です! 一緒に寝るくらいいいじゃないですか!」
「寝るくらいって……!」
「何もしません、しませんから!」
「それはする奴の台詞だな……! 息荒っ! 怖っ!?」
「だから何もしませんてば!」
宣言通り、何もなかったかどうかは……互いの名誉の為に、秘匿せざるを得ないだろう。
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