第2話 幼なじみギャルは妬きたい


「ほーらケンちゃん、行くよ!」


「はいはいわかったから、引っ張るなよ凛」


 そう言って無邪気に笑いながら俺の手を引く幼なじみ。

 これは俺の日常の風景である。

 しかし、いい加減俺を子供の頃と同じ扱いのままだと癪だし恥ずかしいのである。


「えー、いいじゃん! 昔はよく私の手握って歩いてたじゃん!」


「ばっかお前、いつの話してんだよ‥‥‥俺たちもその、もう高校2年なんだし、ほら、他の奴らとかに勘違いされたりするだろ?」


 俺がそう言うと、凛はニヤリとしながら上目遣いでイタズラな笑みを浮かべている。


「へーぇケンちゃん、意識してるんだ?」


「し、してないから‥‥‥」


「うっそだー! その顔は絶対してる、分かるもん! 何年ケンちゃんと一緒にいると思ってんの!」


 図星をつかれ、凛から目を逸らす。

 ちょくちょく恥ずかしいこと言ってくるんだよなぁ‥‥‥こいつ。

 まぁ、そんな天然なところも好きだからいいんですけどね。

 でも、こいつにはきっともう‥‥‥


「どーしたのケンちゃん? 急に難しい顔して」


「あ、いやなんでもない」


「ふーん? えいっ」


 いきなり、凛が俺の腕に抱きついてきた。

 昔より明らかに成長した二つの山の感触が腕へ直に伝わってきて、何とも言えぬ感情な襲われる。


「い、いきなりなんだよ! 抱きつくな!」


「えへへ〜このまま行こっ」


 にへらァとだらしない笑顔をする凛がそのまま俺の腕を引き、学校へと向かった。




 ◇



 校門をくぐり抜け、生活指導の教師が丁度門を閉めたところで遅刻せずセーフとなった。

 ったく‥‥‥凛が無駄話するから毎朝こうなってしまう。


「はぁはぁ‥‥‥間に合ったな」


 息を切らしながら凛に向けて言う。


「もう、ケンちゃんが、恥ずかしがるから、遅れたんじゃん、はぁ、」


 凛も息を切らしながら、何故か俺に責任を押し付けてくる。


「はぁっ!? お前がいつもいつも無駄話するからだろうが!」


「なに!? ケンちゃんが毎朝起きるのが遅いからじゃないの!?」


「なんだと‥‥‥」


「なによ‥‥‥」


 そう言って二人は睨み合った後、


「「ふん!」」


 俺たちはそっぽを向いて、別々で教室へ行くことになった。

 たまに、こうやって凛と言い争うことがある。

 理由は大抵毎回くだらないものだ。

 くだらないくらいが、丁度良い。

 凛とマジ喧嘩なんかしたら、二度と飯を作ってくれなくなる‥‥‥それだけは何としてでも避けたい。




 ◇




 あれから教室に着き、一番後ろの窓際の席で頬杖をつきながら風を感じていると、


「あらぴーっ! なーに考えてるのっ?」


 唐突に背中に重荷を感じ、抱きつかれたと認識して後ろを見ると、見慣れた女子の顔があった。


「西条か‥‥‥とりあえず離れろ」


「えーっ、あらぴーったら冷たいなぁ」


 そう言ってぶすーっとする女の名は西条茜。

 一年生の頃からクラスが一緒で、俺の唯一少ない友達の一人である。

 ショートボブの暗めの茶髪で、小柄な体型。容姿は凛には劣るが可愛い方だ。

 というか、こいつはスキンシップがかなり激しい。

 さっきの行動で、教室の扉側の席にいる幼なじみの視線がとても痛いのですが‥‥‥。


「あれ? なんか姫っちがこっち見てない?」


「そ、そうか? 気のせいだろう‥‥‥ってこっち来たし」


「ケンちゃんなんで嫌そうなの!?」


「そんなことは断じて無い」


「よーっす姫っち! なになに〜? あたしらの絡みに嫉妬して来ちゃった?」


 西条がニヤニヤしながら、こちらに来た凛にそう言うと、凛は顔を真っ赤にしながら、


「ええっ!? ち、ちがうから! ケンちゃんに用があっただけだし‥‥‥」


「ん? 俺に用か?」


 俺は何の事だろうと首を傾げる。


「き、今日の朝のこと! ま、まだ怒ってる‥‥‥?」


 今日の朝のことといえば、くだらん喧嘩の事だな。ぶっちゃけいつもの事だからどうでもいいのだが、俺は少し意地悪をしてやることにした。


「ん〜?いや別に。凛がジュース奢ってくれたら考えてやらなくもない」


「うわっ、あらぴー最低」


 俺の提案に西条は引いていた。

 魅力的な提案だと思うんだがなぁ(ゲス顔)


「そ、それでケンちゃんが機嫌直してくれるなら買ってくるよ!」


「ちょっ、姫っち!? なんで真に受けてるの!?」


「えっ!? 違うの?」


「冗談だよ、アホタレ。そーいう天然なとこ、昔から変わんねーのな」


 俺は何だか懐かしくなり、おかしくて笑ってしまう。

 するとそこに、


「おいおーい! 一体なんの話してるのさ?」


 いかにも爽やかな美形の男が会話に割って入ってきた。


「なんだよリュウ、来てたのか」


「リュウっち邪魔」


「神崎くん、ちょっと邪魔だよ」


「お前ら辛辣過ぎん!? てか健人てめぇ、自分ばっか良い思いしてんじゃねえ! 俺も混ぜろ!」


 必死で俺に縋るこの男の名は神崎龍之介。

 クラスで一番のイケメンであり、モテモテなのだが、何故か西条と凛には邪険にされている。

 嫌われているわけではなさそうだが、俺と二人が話している時にリュウが来ると、二人は嫌な顔をする。ドンマイ、リュウ。


「お前はモテるんだからいいだろ、嫌味か? 捻り潰すぞ?」


「怖っ!? その筋肉で潰されたら跡形もなくなるわ‥‥‥」


 怖がるリュウに俺の筋肉を見せつけてやる。

 ちなみに自慢はこの三頭筋。


「あらぴー相変わらず脳筋野郎だよね」


「それは私もは否定できないよケンちゃん」


「うるせえ! 筋トレを侮辱する者は誰であろうとダンベルを握らせるぞ!」


「健人ウザ‥‥‥あ、アミちゃん来た。じゃあなお前らヒャッホーゥ! アミちゃ〜ん」


 そう言ってリュウはアミちゃんとやらのところへ足早に行ってしまった。

 あいつイケメンな上にチャラいんだよな‥‥‥リア充ファ〇ク。


「相変わらずモテるな、あいつ」


「お前が言うなッ!」


「そーだよケンちゃん!」


「えっ‥‥‥おう? どーいうことだ?」


 俺は西条と凛がなんのことを言ってるのか分からず、困惑する。


「「この鈍感脳筋男」」


「??」


「いこっ姫っち」


「うんっ」


 そう言い捨て、二人は仲良くお花を摘みに行った。

 何だったんだ一体‥‥‥。




 ◇



 午前の授業。

 それは、体感時間10時間を超える苦行。

 耐え忍ぶ者こそ脳筋だと俺は思う。

 ちなみに俺は身体の筋肉を鍛えるのは得意だが、脳みその筋肉を鍛えるのは苦手である。

 端的に言えば、勉強が出来ない。

 授業を聞いてる時間は机の下でハンドグリップを握っているし、一日五食という増量期間のため、教師の隙をついてサラダチキンを食べたりしている。

 一番後ろの席なので、全く気づかれないのだ。


 しかし、緊急事態が発生した。


 新しい味が出たのでそのサラダチキンを食べている時、味に気を取られて教師についに見つかってしまった!


「荒木くん、後で職員室」


「へい‥‥‥」


 俺という筋肉馬鹿の失態に、クラスからは笑いが起こる。

 目立つのが苦手なのでとても居心地が悪い‥‥‥。

 ちなみに、俺の忍法隠れ食いを見破った教師は、淡路スミレ先生。

 学校一美人教師で、基本的に優しいのだが、怒る時は怒る、しっかりした先生だ。

 よりにもよって、スミレ先生の授業で怒られるとは‥‥‥この人説教の時長いらしいんだよな‥‥‥。

 気分が鬱になっていると、授業終了のチャイムが鳴り、昼休みとなった。


「はぁ〜、ダルいけど行くかぁ」


「あらぴーやっちゃったねぇ、まぁ頑張ってきなさいな」


 そういって、前の席にいた西条が俺を励ます。


「あいよ、チャチャッと終わらしてくらぁ」


 俺は教室を出て、階段を降りようとすると後ろから声をかけられた。


「け、ケンちゃん! 生徒指導室行くの?」


「そーだよ、スミレちゃんからお呼び出し。さっき俺の無様さを見ただろ?」


「う、うん‥‥‥でも、スミレ先生と二人きり?」


 何やら凛はモゴモゴして俯きながら俺に訊いてきた。

 なんだ? いつもより塩らしいな‥‥‥。


「そりゃそうだろ、なんか問題か?」


「い、いやぁ! スミレ先生って美人だからさ! お、襲われたりしないかな〜って」


「アホか! 襲われたら大問題だろ‥‥‥おまえスミレちゃんの事なんだと思ってるんだよ‥‥‥」


「てか、なんでスミレちゃん呼び!? あ、あのね? スミレ先生ってその、年下好きらしいから‥‥‥」


「そこはどうでもいい、年下好きで男子生徒全員襲ってたら怖ぇよ‥‥‥じゃ、俺はもう行くから」


「あーっ! ケンちゃん待ってー!」


 俺は何やら抗議する凛を背に、生徒指導室へと急いだ。遅れたりしたらあとが怖いからな‥‥‥。







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