成長する愛車(キャンピングカー)と共に異世界で生活しましょう。

諏維

プロローグ

1.転移

「なんで一人なんだよ!」


 車に乗り込み、会社の同僚たちと離れ離れになると、心のうちに溜め込んでいた不満が口から出てきてしまう。


 今、俺こと大内冬樹が運転しているのは自前のキャンピングカー。

 そう、そこそこのトラックぐらいの大きさをした白くて、キッチン、トイレ、ベッドなど、ある程度の生活環境が整えられた車のことだ。



 自前ってなんだ?と思われる方もいるかもしれない。


 大学生の頃にアメリカに旅行に行ったとき、キャンピングカーで小旅行をしたり生活したりしている姿を見て憧れ、自分も欲しいと思ったのが始まり。


 若干ブラックだが給料は良い企業に真面目に勤めること10年。

 車は親から譲ってもらったオンボロの軽自動車、家は会社から徒歩圏内の四畳半の賃貸。


 浪費を限りなくなくし、付き合いも最低限にすることで貯金をため、何とか中古ではあるが、小さめのバスよりも大きい大型で、走行距離もまだ少なく、内装もある程度こだわったものを購入することができた。


 前方にはキッチンやトイレ、中程にリビングとしてテレビ、数人が座れるソファーがあり、後方には足を延ばして寝ることができる大きさのベッドがあり、狭いながらシャワールームまで兼ね備えている。

 もちろんキッチンからベッドまで全ての内装は特注でこだわり、リフォームしてもらったものだ。


 木を基調として、白で整えた内装。目を隠したまま中に入ると、まさか車の中だとは思わないだろう。


 電力消費のことも考え、電力のためのサブバッテリーも最強のものにした。


 それほどこだわった自前のキャンピングカー。

 それだからこそ今回はかなり張り切っていたのだ。



 キャンピングカーを購入してからというもの、休みの日はキャンプはもちろん、登山やハイキングなど、アウトドアな活動を始めた。

 心にゆとりが生まれたおかげか、これまで苦手としていた人付き合いも苦手ではなくなり、旅先で友達もできた。


 それからというもの、共通の趣味を持ち仲良くなった友達と俺のキャンピングカーを乗り回し、楽しい日々を過ごしていた。



 そして今日。

 社長の提案でキャンプが企画され、大きな車を持っている人は持ってきてほしいとお願いされたため、意気揚々と愛車に乗って集合場所へと向かったのだ。


 しかし、ちょっとしたキャンプに本格的なキャンピングカーというのが引かれたのか、皆の理想のキャンプ像とは異なっていたのかはは分からないが、行きで俺の車を希望したのは仲良くしていた同僚二人だけ。


 その同僚二人も、人数が多くて話が盛り上がったのか楽しそうにしていた他の車勢がうらやましかったのか、バーベキュー中に申し訳なさそうに帰りはほかの車に乗ると告げてきた。


 最新式のIHを兼ね備えたキッチンも、空調が完備され過ごしやすいリビングも、キャンプ味がないと判断されたのか、人気のないまま。

 唯一使われると期待していた冷蔵庫も、食材や飲料が現地で調達可能だったため、使われずじまいだった。



 そんなこんながあって最初に戻る。

 広いキャンピングカーに俺一人。


 確かに別の車に乗った同僚の気持ちも分かる。

 運転席とリビングの距離が離れているからどうしても会話がしづらい。

 それに慣れたキャンプ仲間なら、そんなことを気にせずくつろいでいるのだが、めったにないキャンプを心待ちにしていた同僚たちからすれば物足りないのだろう。


「暇だなあ・・・」


 通いなれたキャンプ場であったため、運転中の景色も見慣れたもので全く新鮮味がない。

 山道ではないが、周りに建物は見えずひたすら田んぼや街路図が植わっているだけだ。


『しばらく直進です。』


 カーナビがそう告げる。

 ナビを付けなくても道は分かるのだが、寂しさを紛らわすために解散場所までの道を案内してもらっている。


 直進かぁ、などとぼんやり運転している時だった。


「なんだ!?道がないぞっ!」


 自分でも何を言っているのか理解できなかったのだが、実際に道はないのだ。

 ナビでは直進となっているし、記憶の中でもここはしばらく直進だったはずだ。


「工事でもあったのかよ!ついてない!」


 気を抜いていた、と後悔するがそれも今更。急いでハンドルを切るが、大きなキャンピングカーは急な動きをすることが難しい。


 間に合わない・・・!


 そう思い目を閉じると、しばらくして俺の体が浮遊感に包まれる。


 そしてそのまま俺は気を失ったのだった。



 ------



「冬樹さん!冬樹さん!起きてください!」


「なかなか起きませんねぇ。電気でも流してやりましょうか。」


 不穏な言葉が聞こえて気絶から目を覚ます。


「やっと起きましたか。朝ではありませんが、おはようございます!」


 重い体を動かして助手席やリビングの方を見るが誰もいない。


「そっちじゃないですよ~ここですよ!ここ!ここ!」


 少しうざいテンションにイラっとしながら声の元を探していると、どうやら今居る運転席のすぐそば、カーナビから声が聞こえてきているようだった。


 どういうことだ?頭でも打って幻聴でも聞こえているのだろうか?


 重い頭を急いで振ってカーナビの方を見ると、カーナビには地図でもなくメニュー画面でもなく、神々しい女神のような恰好をした女性が映っていた。


「・・・どなたでしょうか?」

「初めまして。地球を含むいくつかの星を管理している女神の一人、フローラです!」

「はぁ・・・」


 女神を名乗る美少女がカーナビから話しかけてくる。

 どう考えても俺の頭がおかしくなったとしか考えられない。


「安心してください!冬樹さんの頭がおかしくなったのではなく、本当に女神がカーナビの中から話しかけているのです!」


 考えていることを読まれた!?


「申し訳ないですが読ませてもらいました。このまま私が神だと信じてもらえないのも面倒ですので!私が女神であることは理解していただけましたか?」

「はい・・・。」


 異常な事態ではあるが、幽霊や神の存在を信じている俺は、女神が話しかけてくることもあるのかもしれないと受け入れることにした。


「ところで冬樹さん。今の状況は把握されていますか?」


 頭を打ったのか、女神から話しかけられたからなのか、頭が少し混乱していた俺は記憶を整理することにする。


 そうだ。俺はキャンプからの帰りに愛車を運転していて、道がなくなっていて、そのまま気を失ったんだったか。


 思い出した俺は慌ててフロントガラスや窓の外を見まわす。


「森の中・・・」


 周りが木に囲まれていたため、崖からでも落ちたのかと思ったが、ギリギリ愛車が2台すれ違うことができそうな土で固められた道の上で、どうやら愛車は無事で、俺自身も怪我はしていなかった。


「そうです。森の中です。」


 女神がいきなり真面目な口調と落ち着いたテンションで話し出す。


「冬樹さんに謝らなければならないことがあるのです。」

「何でしょうか・・・。」

「実は寝ぼけて次元の狭間を地球に発生させてしまい、それがたまたま冬樹さんの車の前に出現してしまったのです。」

「はぁ・・・。え?」

「ごめんなさい!!!」


 俺の少し怒った顔に気付いたのか、そこから数分間女神は平謝りを続けた。

 俺がもういいよと言っても、謝り続ける。



「だって顔が怒っていたんですもん。」


 結局女神が謝ることを止めたのは10分ほど経ってからのことであった。

 余りにも長過ぎて、もんっていう言葉も女神が使えば違和感ないな、などと関係のないことを考える。


 今更ながら女神の容姿を説明すると、淡いピンクの髪とエメラルドグリーンの目をし、スタイルが超絶よく、街中で見かけたら10人中10人が必ず振り向く、そんな容姿だ。

 あくまで画面上ではあるが。


「もう謝らなくていいから事情の説明を続けてくれ。」

「ごめんなさい。冬樹さんは次元の狭間を回避しきれず車ごと飲み込まれてしまったのですが、私がそのまま眠ってしまったのと、寝ぼけていて覚えていなかったので、冬樹さんを次元の狭間から救出したのは、その、申し訳ないんですが地球時間で数百年が経った後だったのです。」


 はい?数百年??いや、俺は今ここに存在しているし。


 あまりもの衝撃で言葉が出なくなる。


「幸いなことに次元の狭間では老化や劣化といった概念が存在しないので、そのままの状態で発見することができました。ですが外では普通に時間が進んでいて、数百年経ってしまっていたという訳なのです。」

「つまり、ここは数百年後の地球という事ですか?」


 女神という存在に出会ったからなのか、地球にあまり未練がなかったからなのか、案外すんなりと受け入れることができた。


「いえ、それは違います。冬樹さんの生活を調べさせてもらって、異世界転生や転移といった小説やアニメに興味があることが分かりました。そのため、数百年後の地球ではなく、私たちの管理する別の世界、科学が発達していなく、魔法や魔物が存在する『アースランド』に転移していただきました。」

「なるほど。・・・ちなみに地球はどうなったのですか?」

「・・・それは知らない方がいいでしょう。」


「まぁ、とにかく!ここはアースランドです。見てもらったらわかるように、馬車での移動が当たり前のため、道も広く整備されています。」

「つまりこの愛車で移動が可能ってことですね?」

「はい!それにお詫びとして私にできる限りの特典を差し上げます。」


 女神が説明してくれた特典を簡単にまとめるとこうだ。


 まずは俺自身にレベル制とステータス制の導入。

 残念ながら地球人のため魔法に適性があまりないらしいのだが、魔物を倒しレベルを上げることで、少しは使えるようになるらしい。


 次に愛車であるキャンピングカーの装備アイテム化。

 俺と同様レベル制やステータス制の導入に加え、レベルが上がった際にもらえるポイントを使って様々な機能や能力を追加することができるようだ。

 女神が例として挙げたのは、仲間の支援やアイテムボックスなどだ。

 そしてどうやら耐久力は爆上げされ、マップなどのいくつかの機能もデフォルトで追加されているらしい。


「では、冬樹さん。このカーナビの画面を操作してステータスを開いてみてください。」

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