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「き、貴様……やはり我を裏切ると言うのか!」


 残されたマーくんこと、暴虐の黄金竜マーハティカティは当然、リュクサンドールの手のひら返しにガチ切れしたようだった。


「何が『我を味方になる』だ! 何が『我を守る』だ! そんなのはすべて偽りだったというのか!」

「ええ、まあ。気が変わりましたので」


 と、けろっと答えるリュクサンドールだった。うーん、邪悪の権化相手にこの台詞。こいつこそ真の邪悪か。


「ふ、ふざけるな! 聞けば、貴様、仕事を失いたくがないために、我の味方をやめるというではないか! 我と仕事とどっちが大事というのだ!」

「仕事ですね」

「うわあああああっ!」


 どすどす。ショックのあまりまた地団駄を踏みまくる暴マーだった。なにこの痴話げんかみたいな会話。


「ところで、トモキ君、あのマーくんはどうするつもりなの?」


 と、そこで女帝様のホログラムが尋ねてきた。


「だいたいの事情はファニファにもわかってるけど、あのまま放置ってわけにもいかないよね? トモキ君が復活させたんだから、トモキ君がちゃんとお片付けしないとダメだよね?」

「う……」


 正論すぎて返す言葉もない。


「いや、ただあいつを倒すだけなら簡単なんだが……色々特性が面倒でな」

「そーだね。一撃で倒したら呪われちゃうし、一撃で倒さないと即全快されちゃうし」

「そうそう! お前もよくわかってんじゃねえか!」


 俺、マジ手も足も出せない状態なんだってばよー。


「なんかいいアイデアないか? お前、見た目はロリだけど、無駄に年食ってるんだし、何かあるだろ、こう……何か?」

「うーん、そうだね? 今のファニファができるのは、おとぎ話を教えてあげることぐらいかなー?」

「おとぎ話?」

「うん。題名は『呪われし祝福者』だったかなー」

「なんだその『健康のためなら死ねる』みたいな矛盾タイトル」

「あっは。実際そういうお話なんだよ。いいから聞いて。教えてあげるから」


 ごにょごにょ。女帝様は俺の耳に口を近づけ、そのおとぎ話とやらを話し始めた。


 なんでも、昔々あるところに、神様の祝福を受けて不死身になった男がいたのだという。だが、その話を聞きつけた悪い貴族に捕まり、不死身なのをいいことに様々な人体実験に使われることになったのだという。(「亜人」かよ)それはまさに地獄の日々で、男はすぐに不死身である自分の体を恨めしく思い始めたそうな。


 そして、そんなある日、祝福を与えた神様が再び男の前に現れた。男の境遇を哀れんだ神は、すぐに男に救いの手を差し伸べた。「不死身のお主が確実に自殺できる呪文を教えてやろう」と……って、何その救済手段。神なんだからもっと他にやりようあるんじゃないか?


 だが、おそらくはすでにまともな判断能力もつっこむ気力も失われていたのだろう、男はすぐにその呪文を使い、自殺することに成功した。こうして、男は延々と続く苦痛の日々から解放されたのだった。めでたし、めでたし……?


「どう? なかなか刺激的なお話でしょ?」

「……これ、本当におとぎ話か?」


 子供に語るストーリーじゃねえ。笑ゥせぇるすまん系じゃねえか。


「ええと、つまり? 祝福というのは一歩間違えると呪いに等しくなると? この話には、こんな感じの含蓄があるわけか?」

「そのとーりー」

「ん? 呪いですと!」


 と、呪術オタがいきなりこっちに近づいてきた。うぜえ。


「で、ファニファ、思うんだよね。あのマーくんの回復能力って、このおとぎ話の主人公君の祝福とおんなじじゃない?」

「あ」


 と、そこでようやく女帝様が何を言いたいのかわかった俺だった。


「つまり、あいつをいたぶりつくして、自殺に追い込めば勝ちってことか!」

「そーそー。これからマーくんを、いっぱいいじめちゃお♪」


 無邪気に笑いながら残酷なことを言う女帝様だった。

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