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「く……かくなる上は……」
放置!
そうそう。別にあいつら、無理して俺が倒さなくてもいいだろ。呪いも解けたんだし。ここにはもう用はないな。はっはー。俺はすかさず、その場でくるりと向きを変え、出口(と思われるほう?)に向かった――が、
「勇者様! あんな邪悪なモンスター達を放っておいていいの!」
変態女がそんな俺の行く手を阻んだ。ぐぬぬ。
「そーだぞ、アル。あんなやつらとっとと倒しちゃえよ。お前、最強なんだからなー」
どさくさに、バカの鳥人間も便乗してくるし!
「確かに、あんな禍々しい存在を復活させておいて、このまま何もせずに立ち去るというのはあまりに……」
と、シャラ。
「ワシの責任問題にもなるじゃろが! とっととあの竜と不死族を始末せい!」
あげくに亀妖精も出てきて文句を言いやがる。クソッ、てめえら好き放題嫌がって。
「い、いや! あの竜はもともと俺が倒したやつだぞ! 俺が生き返らせようと、その後放置しようと、俺の勝手だろ! プラマイゼロだろ! あの竜の存在がこの世界に何か悪い影響があるのなら、お前らで勝手に倒すなりなんなりすればいいだろ!」
「それができたら苦労はしないわよ! 何のためにあなたがこの世界に呼び戻されたのか考えなさいよ! 勇者様のバカ! サンディーまであっち側に行っちゃうし、ほんとバカバカバカ!」
ぽかぽかぽか。顔を真っ赤にし、両手の拳で俺を叩きまくる変態女だった。こいつほんと、怒るとやたらとガキっぽくなるよな。
「だいたい、このままあの竜が完全復活したら、勇者様の存在って何? 結局、世界を救うために何もできなかったってことじゃない。最強勇者どころか、ただの役立たずの童貞男じゃない!」
「う……」
言われてみれば確かに……って、どさくさにDT発言はやめろ!
『アッハ。そんなんじゃ、あのユリィとかいう娘に顔向けできないんじゃないですかネー』
「うっ!」
さすがにそのゴミ魔剣の言葉は胸に刺さった。ユリィは間違いなく、俺が「世界を救った最強勇者」だから慕ってくれているのだ。その肩書がなくなってしまったら、幻滅され、見放されてしまうに違いない!
それに、よく考えたら今まで、「世界を救った最強勇者」ということで、俺ってば色々いい思いもしてきたじゃないか。おっパブのおっぱいとか。おっぱい野菜スティックとか。おっぱいおしくらまんじゅうとか。
今ここで暴マー他を放置して立ち去れば、もう二度とそんないい思いはできなくなる! それはなんとしても避けなければならない!
「わ、わかったよ。とにかく、俺があいつらをなんとかすればいいんだろ!」
と叫びながら、高速で元の立ち位置に戻った。ゴミ魔剣をしっかり両手で握って。
しかし、普通に剣で斬って倒すわけにはいかない相手だし、どうすれば……。
と、手をこまねいていると、こんな会話が聞こえてきた。
「ほら、僕はこうしてあなたの味方になったわけですし、そろそろバッドエンド呪いについて教えてくださいよ」
「うるさい! 貴様のようなやつに話すことなど何もない!」
「そこをなんとか」
「黙れ!」
どうやら、俺が変態女たちに引き止められている間、こいつらはこいつらで、ずっとこんなやりとりをしていたようだ。邪悪チーム、普通に仲悪すぎか。
というか、これだけ仲が険悪ならば、そこにつけいるスキはあるのでは? よし、ここは一芝居うつか!
「はっは、さすが暴虐のマーなんとかさんだなァ! 味方のふりをしてあざむこうとしているそこの呪術師の猿芝居を見抜いてやがる!」
暴マーをびしっと指さしながら、大声で言った。ハッタリかましてやった。
「な、何だと! この不死族の男は、我を欺こうといるだと!」
「そうだ!」
と、愕然とする暴マーに俺は力強くうなずくが、
「うーん、どうなんですかねー」
肝心の不死族のリアクションが微妙だ。てめえ、俺が適当にハッタリかましたんだから、ここは全力で驚くなり、必死に否定するなりしろよ、頭ゆるキャラめ。
「貴様、我の味方になると言ったのは嘘だったのか!」
「そうですね……。よく考えたら僕、マーハティカティさんご自身のことはよく知らないんですよね」
「はあ?」
「それなのに、味方になるって言っちゃったのは、結局、マーハティカティさんの使ったバッドエンド呪いについて知りたいがためで、それって本当の意味で味方になったって言えるのかなあと」
「つまり、貴様は下心だけで我に近づいたというのか!」
「はい」
「そ、それは我に対する裏切りではないか! 誠意がないにもほどがある!」
「はい」
「うわあああああっ!」
涙目になって地団駄を踏む暴マーだった。こいつ、意外と味方ができてうれしかったのかよ。こんな男でも心開きかけてたのかよ。
まあ、暴マーの胸中はともかく、計画通りに事が運んでるみたいだしいいか。このまま仲間割れしてもらえば、討伐の難易度はぐっと下がる……はず。
と、思ったわけだったが、
「あ、わかりましたよ、マーハティカティさん! ようするにあなたにちゃんと誠意を見せればいいんですよね!」
リュクサンドールが何か閃いたようだった。
「とりあえず、僕が、そこのトモキ君からあなたを守ることにしましょう!」
「え」
「トモキ君は魔剣を握りしめて、いかにもマーハティカティさんを倒す気マンマンのようですからね!」
「い……いやいやいや!」
なんでこの男の思考はこんなに急カーブするの! ここは、ちゃんと仲間割れしてよお!
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