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その後しばらく、俺と氷の巨人との空振りだらけの不毛なバトルは続いた。相手の攻撃はしょせんパクリ芸で大したもんじゃないし、俺には当たらない。しかし、俺の攻撃もやつの
というか、ここに来てはっきりわかったが、このラファディとかいう錬金術師の恐ろしさは、術の威力でも魔法の知識でも死人の能力をパクれるということでもない。やつがずばぬけているのは、その術の圧倒的な起動の速さと反応速度だ。そう、魔術師キャラなのにこの俺をほんのちょっぴり(あくまでほんのちょっぴりだぞ!)上回っている速さ。チート魔導書のフォルセティでも装備してるのかよ、クソが!
「ちっ! あと一歩ってところなんだがなあ!」
氷を砕きながら、舌打ちせずにはいられなかった。これじゃ、俺ってただのかき氷製造機じゃないの。
と、しかしそのときだった。
「アル! こいつを倒せばいいんだな! オレも助太刀するぜ!」
近くからこんな声がした。はっとして声のしたほうを見ると、ヒューヴが今まさにブラストボウをつがえて
「おお!」
俺は感動した。この素早さ勝負において、まさに素早さ特化型の力強い援軍キター! しかも
と、一瞬のうちに俺は勝利を確信したわけだったが、
「ハ、ハックション!」
直後、ヒューヴは空中で大きなくしゃみをした。そして、そのはずみでブラストボウの矢はあさってのほうに飛んで行ってしまった……。
「って、お前、何外してるんだよ!」
「え、だって、今なんかめちゃくちゃ寒い……」
ヒューヴは空中で身を縮こまらせて震えている。その顔色は蒼白で、唇は紫色だ。
「そりゃ氷だらけだから寒いだろうが、これぐらい我慢しろよ――」
『現在の外気温はマイナス50度くらいですネー』
「えっ、そんなに低いのかよ」
ゴミ魔剣の声にぎょっとしてしまった。さっきからなんか寒いなとは思っていたが、いつのまにそんなに冷え冷えになっていたのか。これじゃ、バナナで釘が打てちゃう極寒地帯じゃん。
『マスターは各種耐性がぶっとんでいるのデ、マイナス273度までは問題なく活動できそうですが、そこの鳥頭はそうでもなさそうですネ。あの様子じゃあ、手がかじかんで射撃するどころではないですネー』
「って、結局あいつも役に立たねえのかよ!」
頼もしい援軍だと思ったのに、結局使えないのかよ!
なお、魔法使い三人のほうをチラ見すると、呪術オタが
そして、ヒューヴもすぐにふらふらとそっちに行ってしまった。やっぱり肝心な時に頼りにならないやつだなあ、クソ!
「まあいい、俺一人でなんとかしてやるぜ!」
俺の孤独な戦いが再び始まった。魔力切れやらなんやらで、安全地帯でぬくぬくしてるだけの使えない仲間のことは忘れるに限る!
しかしまあ、状況は何も変わらず、俺の攻撃は空振りし続けるだけだった。くそう、いったいどうすれば。あともう少し、ほんのちょっぴりでも俺に速さがあれば! くうう……速さ速さ速さ――。
と、そのときだった。上にぽっかり空いた穴から風が流れ込んできて、俺の頬をくすぐった。
「風……はっ、そうか!」
瞬間、俺ははっと閃いた。この状況を打破できるかもしれない、唯一の作戦を。
だがその作戦はあまりにも代償が大きく……って、迷っている暇はない!
「こ、これでどうだああっ!」
直後、覚悟を決めた俺はすぐにその作戦を実行した。そう、覚悟を決めて――ズボンとパンツを脱ぎ捨てた! フルチンになった!
ヒュウウウ……マイナス50度の凍てつく風が俺のむきだしの股間に吹き付けていく。
「よし! この感じだ! これならいける!」
俺は確信した。この、玉袋のしわの一つ一つに外気が当たる感覚、それはまさにあのときと同じ――そう、上空でヒューヴとフルチンバトルした時と全く同じものだ!
つまり、俺は今、あのとき編み出した奥義「フルチン風の舞」を発動し、速さが大幅にアップしたのだ! うおおお、俺は今、風になる!
「きゃあっ、あの男、なんて格好をしているの!」
と、向こうからシャラの悲鳴が聞こえたが、無視だ!
「あらやだ、勇者様ったら大胆ねえ」
と、サキの声も聞こえてきたが、無視だ!
「うわあ。敵と戦っている最中に急に下半身をさらけ出すなんて、トモキ君は頭がおかしくなってしまったんですねえ」
と、呪術オタの声も聞こえてきたが無視だ……って、その台詞、お前にだけは言われたくないわ!
「クソッ! 役立たずどもが勝手なことばっかり言いやがって!」
やはり代償は大きかったが、もはややつらに弁解している暇はなかった。股間に風の守護を受け速さが上昇した俺は、ゴミ魔剣を握りしめ再び氷の巨人に向かっていった。
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