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「ちっ! めんどくせえな!」


 仕方なく、俺は大蛇たちを回避し続けた。一応、よけながらその辺に転がっている石を投げたり、真空の刃を飛ばしてみたりしたが、いずれもやはり大蛇たちの体をすり抜けるだけだった。


 そして一方で、それらの巨体は俺に迫りながら近くにあるガーゴイルの像なんかを破壊し続けていた。やはり幻ではなくちゃんと実体のあるものらしい。やつが言う通り、錬金術で俺からの攻撃だけ当たり判定を消している状態に間違いなさそうだ。


 しかし、錬金術でこんな戦い方ができるとはな……。


 正直、少しばかり感心する思いだった。特定の相手からの攻撃だけ無効化するという効果もすごいが、驚くべきはその術の処理速度だ。俺の超マッハの攻撃に完全に追い付いてやがる。おかしいだろ、この術の起動の速さ。やっぱチートかよ、クソが。


 だが、幸いなことに、そのチート術は防御面にしか使われていない。大蛇たちの攻撃はヘナチョコのままだ。やつらの動きも鈍い。ということはつまり……このまま逃げ続けて、相手の魔力がなくなれば俺の勝ちか?


「って、ないわー」


 と、直後、思わずセルフツッコミを入れてしまった。


 そうよ、そうわよ。相手が普通の人間だったらそういう戦い方もありかもしれないけど、どう考えてもあの人(?)、明らかに魔力お化けでしょ。ってか、俺氏、これと同じことデューク・デーモンとかいうモンスターと戦った時も考えたよね? で、無理ってすぐに気づいたよね? それと同じよ。バカなの、俺!


 と、俺が考えていた時だった。突如、俺の足元の床が水に変わった!


「ぬわっ!」


 とっさに体を前に倒し、水になっていない床に手をついてそこから抜け出したが、その直後、横から大蛇たちが突進してきた!


「ちっ、うぜえな!」


 俺は瞬時に身をひねり、やつらの突進を回避した。だが、その直後、今度はやつらの巨体の影から黒鎧の男が飛び出してきた。槍を携え、猛烈な勢いで。


「お、お前も来るのかよっ!」


 かろうじてその槍の直撃をかわしたが、マジで紙一重の回避だった。錬金術で足場を崩したうえで、過去の俺の体の超スペック使って突撃してくるとか、戦いにくいにもほどがあるだろ!


「……今の攻撃をかわすとは、さすが勇者アルドレイ様です。やはりあなたは、私がずっと欲してきた方に間違いないようだ」


 ラファディは過去の俺の顔をゆがませ、不気味に笑った。


「きめえこと言いやがって。男に求められる趣味はねえよ」


 とりあえずやつから距離を取り、体勢を立て直しながらこう言ったが、内心はいつまた足元が水になって崩れるかヒヤヒヤものだった。よく考えりゃ、この場所ってやつの腹の中にいるようなもんだったしな。周りの床やら壁やらにはやつの本体の水がしみ込んでるらしいし、錬金術の効き目もさぞやいいことだろう。


 って、んん? ちょっと待てよ? さらによく考えるとだな、ここって……?


「ふふ、そんな強がりを言わずに。早く私に殺されて、その魂を私に捧げてくださいませ!」


 と、叫ぶや否や、ラファディはまたしても俺の立っている場所を水に変えやがった。今度はかなり広い範囲で。


 さらにその水の中には凶暴なワニっぽいモンスターがすでに何匹も潜んでいた。これも錬金術で作ったものなんだろうか。俺の体は瞬時に水没し、やつらに襲われた。


 だが俺はもう、やつの呼び出したモンスターから逃げなかった。そんなん無駄だし。その代わりに俺がやったのは、水中でゴミ魔剣を思いっきりぶん回しながらコマのように回転することだった。どりゃあああっ!


 もちろん、水中でブン回した剣はワニたちの体をすり抜けていったが、そんなことはどうでもよかった。大事なのはそう、水を、いや今俺の周りにあるすべての物質を遠くに吹き飛ばすことだ! そのための回転なんだ!


「はあああっ!」


 やがてすぐに俺の周りの水は消し飛んでいき、ワニたちもゴミ剣の大回転から生じた風圧で弾き飛ばされていった。しかし俺はそこで動きを止めることはなかった。ゴミ魔剣にある厳命を与えたのち瞬時にスコップの形に変えさせると、今度はひたすらその場を掘り続けた。掘って掘って掘りまくるぞ、どりゃー!


 やがて、キィンという音が響き、スコップの先に何か固いものが当たった。


「はっはー、やっぱりこのすぐ下にあったか!」


 さらにスコップを猛烈な勢いで動かし、その固いものを露出させた。それは――何か巨大な生き物の甲羅の一部のようだった。


「それは……」


 それを見るなり、ラファディはしまったという顔をした。どうやら、こいつ的には出しちゃいけないものだったようだ。


 まあ、それがわかっていた俺だから、あえて出して差し上げたんだがな!


「なあ、お前の錬金術って、このベルガドとかいうクソデカ亀には通用するのか?」


 俺は足元の甲羅を軽く踏みつけながら、ラファディを見上げた。あまり強く踏みつけるとレジェンド特有の物理障壁で吹っ飛ばされるので、慎重に。

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