392
さて、その後、俺たちがたどりついたのは円形のホールだった。中央に棺が一つ置かれているのでここも霊廟とやらなんだろうが、さっきの場所とは違い壁際に魔法の照明がついていて明るかった。また、置かれている棺も中央の一つだけで、見た目もゴージャスで立派な感じだった。中身はお偉いさんのゾンビだろうか?
というか、ここ……、
「先に進む通路がねえな?」
俺は周りを見回し、はっと気づいた。そう、道はここで途絶えている。
「ということは、この棺の中にいるのがラファディって男じゃね? 他の場所は全部探したんだし」
なるほどなー。どおりでいかにも偉い人用の棺桶なわけだ。ここの城主が入ってるんだもんなー、はは。
「勇者様、そう決めるのはまだ早いわ。もっとよく調べてから――」
「いいからいいから。このフタを開けて中にいるやつを倒せば、今回の討伐ミッションはクリアだから。ね、簡単でしょ?」
ぱかっとな。俺はそのまま棺のフタを開けた。
だが、中にはラファディという男はいなかった。棺はからっぽだったのだ。
「あ、あれ?」
中の人、お出かけですか、レレレのレー。
そして、その直後、俺たちの足元に大きな、不気味な魔法陣が浮かび上がった。ホールいっぱいに。逃げ場がないくらいに。
「きゃあっ」
最初に悲鳴を上げたのはシャラだった。その魔法陣から照射されてくる紫色の光を浴びたとたん、真っ青な顔をしてその場に崩れ落ちてしまった。
「おい、どうしたんだよ?」
「ま、魔力が吸い取られていくみたいなの……」
「え、マジか?」
そこであわてて周りを見てみると、変態女とヒューヴも同様に苦しそうにその場にうずくまっていた。この魔法陣の効果で、シャラと同様に魔力を吸われているんだろうか。二人とも魔力キャラだしな。
ただ、同様に魔力キャラのはずのリュクサンドールはけろっとした顔で立っていた。
「お前、この魔法陣に魔力吸われてるんじゃねえのかよ」
「はあ。なんとなく体の内側がぞわぞわしますし、そんな感じですかね?」
「そんだけかよ」
もしやこの男、魔力が高すぎて、この謎の魔法陣でも吸いつくせないのか。
「うーん、この感じ、たとえて言うなら、昔受けた拷問に似てますね? 確か、おなかを裂いて生きた吸血ヒルを中に入れられるというもので、おなかの中でヒルがうねうね動く感覚がなかなか気持ち悪かっ――」
「もういいから! どさくさにまた狂った武勇伝語るのやめてぇ!」
もうやだ、この変態。いちいちこんな気分の悪い話しかしないんだもん!
「とりあえず、この魔法陣をぶっこわしてみんなを助けるぞ。お前、なんかやれ」
「じゃあ、
「いや、この場で自爆してどうするんだよ! みんな吹っ飛んじまうだろがよ!」
「なるほど。では、ツァドでこの魔法陣の効果そのものを消せばいいんじゃないですかね。なんせ、あらゆるものからエネルギーを奪う最高呪術ですからね。陛下には使っちゃダメって言われましたけど、ちょっとぐらいなら――」
「ダメに決まってるだろ!」
さらに巻き添えを増やしてどうするんだよ。俺まで死にかける術じゃねえか。
「そうじゃ! ツァドのような危険極まりない術をここで使えば、まずワシが死ぬぞ! 頼むからよそでやるのじゃ!」
亀妖精も必死に呪術オタを止めた。ああ、そういやここ、このババア亀の上だったな。いや、もう内部にほんのり入ってきているのかもしれないけど。
「困りましたねえ。呪術はあくまで暗い気持ちで他者を呪って、嫌がらせをするためのものなんですよ。誰かを助けるなんてこと、呪術の精神に反します」
「……マジで最低な術だな」
攻撃にしか使えないとか。しかも、そのやり方もグロテスクで悪趣味ときている。
と、そこで、
「……サンディー、ちょっとこっちに来て」
変態女が苦しそうな顔をしながら、リュクサンドールに手招きした。
「はい、なんでしょう、サキさん?」
リュクサンドールはそのまま変態女に近づいていく。
すると、
「……あなたの魔力を少し借りるわ」
変態女はうずくまったままリュクサンドールの腕をつかみ、もう一方の手を魔法陣にかざし、何か集中し始めた。
そして、直後、まるではじけるように謎の魔法陣は消えた。変態女が何か解除の術を使ったようだった。
「おお、さすがだな!」
俺は素直に感心した……が、
「あ、あとはお願い……」
変態女はそう言い残すと、その場に倒れ、動かなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます