194

 よし、まずはこの一方的にやられているだけの状況をなんとかしなくては……。


 俺は、必死に体を動かし、少しでもレーザーをまともに食らわないようにしながら、考えを巡らせた。未来解析眼球ラプラスゴーストの予測精度は確かに高いようだが、百発百中でもなかった。レーザーを外すこともあった。やつがご親切に解説してくれた通り、俺の未来が完全に見えているというわけではなさそうだ。


 そう、やつはこう言っていた。やつ自身が見聞きした俺のすべての情報を予測に使っていると。だったら……その予測が働かなくなるぐらいのおかしな動きをすればいいのかも?


 よし、いちかばちか、やってみるか!


「行くぜ! リズムに乗るぜ! ひゃっはー!」


 そう、すかさず華麗にダンス! ダンス、ステップ、ダンス! それも超高速で! どうよ、この激しい腰使い? さすがのあの眼球さんも、この俺の輝きの舞いにはついてこれまい――と、思ったわけだが、


 シュビビビビッ!


 無情にもそんな俺の足元から暗黒レーザーが発射されてきたでござる……。痛い痛い痛い!


 ただ、ダンスを始めたばかりの十秒ほどの間は、未来予測眼球カメラは明らかに俺の動きに対応できてないようで、レーザーを外しまくりだった。おそらく、開始十秒のうちに俺のダンスの動きを解析し終えたのだろう。おそるべき処理の速さ。スパコンか何かか、あれ?


 やはり、まずはあの未来予測眼球カメラをなんとかしないと――。


 そこで、俺は再び上空の男に声をかけてみた。明後日の方向を指さしながら。


「あ、あそこにいるの、呪術の化身じゃね?」

「えっ!」


 と、またしても俺に乗せられ、俺の指さす方向を見てしまう男だった。こいつ、学習能力ないのかよ。


 だが、おかげで俺にとっては絶好のチャンスだった。そのスキに、頭上の未来予測眼球カメラに向けて、魔剣をブン投げた! 超素早く、ギリギリまで投擲だと悟られないモーションで。


 だが、そうやって念には念を入れた投擲攻撃だったにもかかわらず、未来予測眼球カメラは魔剣をすーっとかわしてしまった。魔剣はそのまま奥に、夜空のかなたに飛んでいき――でもなかった。女帝様が魔法で壁を作っていたので、それに当たって下に落ちただけだった。


「チッ、外したか!」


 そういえば、俺の投擲の動作は、リュクサンドールに見られてたっけ。武術の時間にモンスターが襲来してきたとき、サルの真似して色々投げつけて攻撃してたしなあ。だから、眼球にも見切られたってことだろうか。


 だが、今のはまったく収穫ゼロの攻撃というわけでもなかった。眼球がそれをよけたということは、やはり当たると痛い攻撃だったんだろう。魔剣が外れた直後、試しにそのへんの石を眼球に向けて投げつけてみたが、それはレジェンド固有能力の物理障壁にはじかれた。魔剣を投げたときはこれは出てこなかったわけで、つまり……魔剣をブン投げるだけでも、この物理障壁は突破できるってことか。さす俺の魔剣。というか、魔剣による攻撃ならなんでも物理障壁は突破できる感じかな?


 よし、だったら……。


 俺は魔剣を回収すると、再び暗黒レーザー回避に専念した。いや、正確には、回避に専念しているフリをした。


「トモキ君、またひどいです! 呪術の化身なんてどこにもいないじゃないですか!」


 と、上から怒った男の声が聞こえてきて、いっそう激しく俺に始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスを使ってきた。


 だが、その冷静さを失った連続攻撃は俺にとってチャンスそのものだった。何発目かのそのレーザー攻撃をあえて、そう自分からあえて食らった瞬間、俺はその光に包まれながら魔剣を大きく振った! 頭上の眼球めがけて!


 バシュンッ!


 直後、俺の魔剣の刀身から真空の刃が放たれ、それは未来予測眼球カメラを一刀両断した!


「な――」


 リュクサンドールは俺の予想外過ぎる攻撃にぎょっとしたようだった。とたんにスキだらけになった。


 よし、ここでさらに追い打ちだ! 俺はすぐさま大きくジャンプし、呆然としているやつのすぐ近くまで飛ぶと、魔剣でその体をバラバラにしてやった。どりゃ、死にさらせ!


 そして、


「……またつまらぬモノを斬ってしまった」


 と、かっこつけつつ、床に着地した。ふふ、どうよ、今の華麗なコンビネーション攻撃? まさかこんなところで、前世で編み出したショボ技が役に立つとはな。それがこいつに知られてないのも幸いしたぜ。


 まあ、しかし、魔剣でバラバラにした程度で死ぬ男でもないわけで、


「すばらしいですね、トモキ君。まさか、未来解析眼球ラプラスゴーストをやぶるとは」


 と、すぐ近くに転がっているバラバラ死体の首に、褒められる始末だった。元気いっぱいの声で。やはりこの程度ではほぼノーダメのようだ。見ると、その左目もすでに再生している。もしかして、未来予測眼球カメラ使いたい放題か、こいつ? 同じ手は二度は通用しないだろうし、また使われるとさすがに俺もヤバイ……。


 だが、そんな俺の警戒をよそに、リュクサンドールは違う術を使うようだった。


「こうやって、君に解体されてしまったのも何かの縁です。せっかくなので、この状態から使える、特別な召喚呪術をお見せしましょう!」


 と、生首状態のまま叫ぶや否や、転がっているヤツの体の一部が闇の翼の力で動き出した。見ると、それは両足と両腕の全部で四つで、それが俺の周りに等間隔で配置されたようだった。


 そして、直後、やつは詠唱した。


「いにしえの国々をうち滅ぼした業深き魂よ、今ここに受肉し顕現せよ! 悪逆なる四兄弟、ガイエス、マイエス、フス、ディアス!」


 とたんに、やつの四つの体のパーツは四人の巨人へと姿を変えた! それぞれ、顔に眼帯をつけていたり、頭巾をかぶっていたりで、微妙に特徴が異なるようだ。


「は! 何を呼ぶかと思えば、ただ図体がでかいだけのヤツらじゃねえか!」


 それらの気配は、リュクサンドールがここに来る前に戦わされた巨人系モンスターに酷似しており、戦闘力もおそらく近いように思われた。つまり、この俺の敵ではなかった。やつらが何か仕掛けてくる前に、四体すべてを魔剣で斬り捨て、倒すことは簡単だった。最強勇者様をなめんじゃねえ!


 やがて、その場に残る四つの巨人の死体――と、そこで、


「彼らをほんの一瞬で倒すとは! すばらしい! 本当に君はすばらしい!」


 何か興奮しきった様子で、生首がまた叫んだ。


 そして、


「おかげで、今夜は念願の彼女を呼ぶことができそうです! 本当にありがとうございます!」


 とかなんとか、言っている……って、彼女って何さ?


「おい、今のはどういう――」

「愛しの子らの屍に母の慟哭はついえることはないだろう! 嘆きの母よ、今ここに顕現せよ! 貪婪なる母性ヘル・グレートマザーレティス!」


 リュクサンドールは俺の言葉なんかもう聞いちゃいなかった。早口でこう詠唱するだけだった。なぜか生首状態で俺のすぐ近くまで飛んできながら。


 直後、俺たちの足元に大きな魔法陣が浮かび上がった。そして、すぐにそこから巨大な口のようなものが出てきて、俺たち全部――そう俺、リュクサンドールの生首、四人の巨人の死体全部を一気に飲み込んでしまった!


「うわっ!」


 ちょ、なんなん、これ! またわけわからん術使われたっぽいけど、いったいどうなる、俺ェ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る