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「あ、そういえば、学院のみんなが噂してたよね。トモキ君がハリセン仮面じゃないかって」


 ぎくっ! 女帝様いきなり何言ってんだよ!


「ねえねえ、どうなの、そのへん? トモキ君って、実はハリセン仮面だったりするの?」


 ファニファローゼは俺の顔をじーっとながめて尋ねてくる。その顔はやはりあどけないが……エメラルドのような緑色の瞳の奥は、鋭く光っているようにも見えた。


「ち、違うに決まってんだろ!」

「あ、そうだよね。トモキ君は、勇者アルドレイ様だから強いってだけだもんねー」

「そうだよ!」


 そうそう。それでこの話は終わりってわけだ。


「まー、仮にそうだとしても、ここで正直に言う理由なんて、全然ないよね。ファニファさっき、ハリセン仮面は絶対死刑って言っちゃったしー」


 幼い顔でまた残酷なことをいうファニファローゼだ。


「でもね、ちゃんと反省して、正直にごめんなさいって言ったら、ファニファだってちょっとは考えるもんだよ?」

「マ、マジか?」


 許してくれるのか、この俺を? とっさにその言葉に反応してしまったが、


「そうだよ。ちゃんと自分から罪を認めたら、死刑執行までの待遇をすごくよくしてあげる。毎日おやつあげたり」

「死刑執行は変わらないのかよ!」


 何か期待した俺がバカだった。


「えー、死ぬ前に毎日おやつ食べられるって、超お得だよー? おやつ抜きで死んじゃうより絶対いいよ。あと、死刑の種類もいろいろあるから、特別に、すごく楽しい奴選んであげる!」

「ばかばかしい。どのみち死刑になるのに何の違いがあるんだよ。つか、俺、別にハリセン仮面じゃねーし!」

「そうですよ、陛下。今日はそんなことをおっしゃるために、彼や他の方たちをお呼びしたわけではないでしょう?」


 と、リュシアーナが俺の助け舟を出すように、ロリババア女帝をいさめた。


「あ、そうだよね! ごめーん、トモキ君」


 ファニファローゼはまた小憎たらしくテヘペロした。


「じゃあ、あらためて。みんな、このあいだは、悪いモンスターたちからドノヴォン国立学院を守ってくれて、どうもありがとー! 女帝様、心からみんなにお礼を言っちゃうよ!」


 頭に王冠載せてるだけの制服姿の女児にこう言われてもなあ。ありがたみゼロすぎる。


「特にそこのトモキ君、すごい活躍だったよね、ほめてつかわす!」

「お、おう」


 まあ、俺的にはたいした仕事でもなかったがな……と、思ってると、


「ま、トモキ君いなくても、ファニファだけでなんとかなったけどね、あれぐらいの数のモンスター」


 なんか女帝様がまた生意気な口を利いてらっしゃるんだが?


「お前、人に礼を言った直後にそれはないだろ」

「だって、事実だもん。ファニファの超つよ神聖魔法の絶対守護者エル・ガーディアンで、みんなを守るくらい簡単だもん」

「ああ、お前、なんかそういうチート神聖魔法使えるんだっけか」


 確か、三つあったな。


絶対守護者エル・ガーディアンっつうのは、その名の通り、防御魔法か?」

「そーだよ。ほとんどすべての攻撃もモンスターもはじく、超強力なバリアを張れちゃうんだよ。すごい広い範囲に」

「ふうん? いかにもザ・防御って感じの魔法だな」


 確かにそれ使えば、あの場にいるモンスターからは生徒たちを守れただろうな。


「他の二つの神聖魔法はどういうものなんだ?」

「一つは大いなる祝福エル・グレイス。治療魔法だけど、そこのサンディー先生みたいな不浄な魔物には大ダメージだよ」


 ファニファローゼがにっこり笑ってそう言ったとたん、リュクサンドールは「うぐぅ」と、何やら苦しそうにうめいた。その大いなる祝福エル・グレイスとやらを食らったのがトラウマになっているようだった。


「そして、残る一つは神花繚乱エル・ブロッサム。この効果は……なんだっけ?」


 と、いきなり首をかしげる女帝様だった。おいおい、自分の専用魔法だろうがよ。


「防御、回復と来たんだから、普通に考えりゃ、神聖属性の攻撃魔法だろ」

「そうだったかなー? ファニファ、実はこれ、ずっと使ったことないんだよね。継承してからずっと」

「まあ、女帝様じきじきに誰かに攻撃魔法ぶっぱなす機会なんて、そうそうないか」


 チェスのコマじゃねーしな。どこぞの不死族だけは自ら回復魔法でお仕置きしたみたいだが。


「あ、陛下、あれを皆様にお渡ししないと」


 と、リュシアーナがはっとしたようにファニファローゼに言った。


 おお、この口調、まさか金一封でももらえちゃうのか! と、思ったわけだが……、


「そうそう! みんなにお礼の勲章あげなきゃね!」


 もらえるのは、勲章とかいうクソどうでもいいものだった。俺はため息をついた。ばかばかしい、はよ帰ろう、こんなところ。

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