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 と、そこで、


「ねえ、レオ。今日もまた……あれ、いいかしら?」


 リュシアーナが、何やらそわそわした感じで黒ヤギに尋ねた。


「ああ、かまわない。好きに乗るといい」

「ありがとう!」


 リュシアーナはとてもうれしそうに笑い、勢いよく目の前の黒ヤギの背中の上に乗った。しかし、よっぽどはしゃいでいたのか、乘った瞬間、彼女はバランスを崩して、黒ヤギの背中から危うく落ちそうになった。とっさに踏ん張ってそれは回避したが、はずみでその頭からカツラがずるっと落ちた。その下にはふんわりとした長い巻き毛がおさまっていたようで、それはすぐに背中にこぼれた。色はロリババア女帝と同じプラチナブロンドだ。


「なあ、あいつって、お前の影武者だよな? どういう関係なんだ?」


 近くの女帝様に尋ねてみたら、


「リュシアーナはファニファの遠い親戚の子なの。ああ見えて、歳は十六歳で、けっこうオトナなんだよ。胸だってちゃんとあるんだから。今は、布できつく巻いて隠してるけど」

「あれで十六?」


 見た目、めっちゃロリなんだが、俺より年上? つか、俺と女帝が話している間に、そのリュシアーナは黒ヤギの背中にまたがって、とても楽しそうに謁見の間をぐるぐるしているみたいなんだが。まるで遊園地の遊具に乘ってる子供みたいに。


「わあ、やっぱりレオと一緒にこうして歩き回るの、すごく楽しいわね!」


 黒ヤギの背中で、きゃっきゃはしゃいでるし。黒ヤギもなんかご満悦な表情で、リュシアーナを背中に乗せたまま、歩き回り続けてるし。なんだあの偽ロリっ子(その2)は。


 いやでも、さっきロリババア女帝と話してた時の口調は、落ち着いた感じだったな。あれだと十六歳だと思えなくもないか。話し方だけならもっと年上な感じもしたが。


「リュシアーナ、このままどこかに登ってみるのはどうだ?」


 と、黒ヤギが何やら背中の偽ロリっ子(その2)に声をかけた。


「え、登るって、レオが登れそうなものなんて、ここにはないみたいだけど?」

「あるぞ。そこに」


 黒ヤギはそこで、首を俺のほうに向けた。


 って、なぜそこで俺のほうを見る、草食動物。


「まさか、お前が登れるものって……」

「そうだ。トモキ、お前の体は実に頑健だ。俺とリュシアーナを一緒に頭に乗せても、決して折れはしないだろう」

「え、いや、それはちょっと――」


 勘弁、と、言いたいところだったが、黒ヤギは以前のように素早く俺の背後に回り、あっというまに俺の頭頂に登頂してしまったのだった。なぜお前はそうまでして俺に登りたがるんだ。


「わあ、ここ、すごく高いですね! 謁見の間全体が見渡せます!」


 俺の頭の上からこんな楽しそうな声が聞こえてきた。俺、レオ、リュシアーナの三段重ねになってる状態だから、高いのは当然か。ブレーメンの音楽隊じゃねえんだから。


「トモキさん、でしたっけ? 首のほうは大丈夫ですか?」

「ああ、これぐらいどうってことないぜ」


 まあ重いんだけどな。


「では、このまま歩いてもらっていいですか?」

「え」

「動いたほうが楽しいでしょう、こういうのは!」

「ああ、うん。そうね……」


 しずしず。言われた通り、そのまま謁見の間をゆっくり歩きまわってみた。相変わらず重いが、レオのバランス感覚は抜群のようで、少々首を揺らしても落ちる気配はみじんもなかった。


「……こ、この光景はいったい?」


 と、そこで近くからルーシアの声が聞こえてきた。ちらっとその顔を見ると、目の前のシュールすぎる三段重ね(謁見の間をぐるぐる移動中)に呆然としているようだ。まあ、そうだよな。俺だって好きでこんなことしてるわけじゃねえし。


「トモキ君、あなたはなぜこのようなことができるのですか! 常人ならば首が折れていることですよ!」

「いや、だからさっきレオが言っただろ。俺、普通の人間より頑丈だから」

「頑丈と、一言で説明できるレベルでは……」


 と、ルーシアがつぶやいたところで、


「トモキ君は、そりゃあ、勇者アルドレイの生まれ変わりですからね。体が丈夫に決まってますよ」


 リュクサンドールがのほほんとした口調で、俺の正体をばらしやがった! お前、いきなり何言ってんだよ!


「ト、トモキ君が、勇者アルドレイの生まれ変わり? そんな……」

「あ、それ、本当だよ、ルーシア。ファニファもそのこと、エリーからちゃんと聞いてるもん」


 さらに女帝様も、俺の正体をばらして追い打ちかけてんだが! つか、エリーもこんなロリババアに俺の正体ばらしてんじゃねえよ!


「ま、まさかそんな……粗暴で短絡的で愚鈍さの塊のようなトモキ君が、あの伝説の勇者アルドレイの生まれ変わりだったとは……」


 ルーシアはよほどショックを受けたのだろう、真っ青な顔になり、床に手をつき、 orz の失意体前屈のポーズになってしまった。こいつ、さっきから俺たちのカミングアウトに衝撃を受けすぎだろ。


「ラ、ラティーナさんは実は女帝陛下で、レオローン君は実は聖獣カプリクルスで、トモキ君は実は勇者アルドレイの生まれ変わり……。わ、私はクラス委員長として、これらの事実をどう受け止めればいいのでしょう? わからない……」


 床に向かってなんかもうひたすらブツブツ言ってる。


「ねえねえ、ルーシア君。こう見えて、実は僕も不死族のモンスターなんですよ! ダンピール・プリンスと言いまして、三度の吸血より呪術が好き! まあ、誰かから血を吸ったことは一度もないんですが――」

「それは知ってます」

「あ、そうですね……」


 ルーシアにリアクションがもらえず、リュクサンドールはショボーンとして、うつむいてしまった。俺たち三人と違って、自分の正体だけ驚いてもらえなかったのに、がっかりしたようだった。

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