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その翌日の放課後、俺たちは予定通り、女帝様に会いに行くことになった。
女帝様のいらっしゃる王宮までは、徒歩で行った。お迎えの使者は来たが、送迎の馬車とかないのだった。まあ、近いし。最年少のラティーナの歩く速度に合わせて行っても、学院からたったの十分で着いたし。
俺たちは制服のままだったが、レオは今日は褐色イケメンの人間の姿だった。なんでも、王宮にはやつの幻術が効かないような魔法耐性の高い人間がそれなりにいる可能性があり、いつものままだとヤギバレしてしまう危険性があるそうだ。
また、昨日レオに聞いた話とは違い、俺、レオ、ラティーナ、リュクサンドールにくわえ、どういうわけかルーシアも一緒だった。
「お前、クラス委員長の用事があるから来れないんじゃなかったのかよ?」
向かう途中の道のりでルーシアに尋ねてみると、
「確かに今日はクラス委員長の仕事がありましたが、陛下にご招待いただいていると聞いていれば、それを理由に断るわけないでしょう!」
ルーシアは近くにいるリュクサンドールをにらみながら言った。
「いや、僕はちゃんと、ルーシア君に、今日の放課後の予定が空いているか聞いたんですが……」
この間抜け教師、どうやら女帝様のご招待ことはきちんと言わずに、ルーシアに、今日の放課後の予定だけ聞いたらしい。それで「どうしても外せないクラス委員長の仕事がある」と返事をもらって、ルーシアが出席できないと勝手に判断したらしい。さすが期待を裏切らないアホだ。普通に考えて、学校の委員の仕事よりも、女帝様のお招きのほうが大事に決まってるだろうがよ。
「へえ、ルーシアって、サンディー先生に任命されたクラス委員長の仕事より大事なものあったんだー?」
と、ラティーナがそんなルーシアをからかうように言った。
「大好きな先生に任命されたから、張り切ってがんばってるのにね!」
また直球でとんでもねえこと言うロリだ。その大好きな先生の前だっちゅうのに。
「何を言ってるのですか、ラティーナさん。意味が分かりませんね」
しかし、ルーシアは平静を装っているのか涼しい顔だ。まあ、内心はどうなってるのか知らんが。
「私はただ、任された仕事を、きちんと責任を持って果たそうとしているだけですよ」
「わあ、すごい! ルーシアって言ってることもすごいオトナで優秀! ねえ、先生も思うでしょ? ルーシアって優秀でいい子だって」
「そうですねー」
間抜けはこの話の流れから何一つ察してない様子でのんきにうなずいた。
「サンディー先生は、優秀なルーシアのこと、好き?」
「はい、もちろん好きですよ」
「え……」
と、ルーシアが一瞬そのポーカーフェイスを崩して動揺したようだったが、
「ラティーナのことも好き?」
「はい、好きですよ。あなたも優秀ですからね」
「レオ君のことも好き?」
「もちろん、彼も優秀ですからね」
この一連のやりとりで、一気にテンションが下がったのか、またもとの涼しい顔に戻った。リュクサンドール、なぜお前は、こんなにも生徒の評価が雑なんだ。
やがて、王宮に着き、俺たちは使者に案内されるがまままま中に入った。レイナートの王宮は絢爛豪華な感じだったが、このドノヴォンの王宮は派手さはあまりなく、荘厳で落ち着いた雰囲気だった。王宮というより、神殿のような雰囲気だった。
そう、建物いっぱいに聖なる魔力が満ちているような……?
「うう……。やっぱりここはすごく息苦しいですね」
廊下を歩いているうちに、近くの不死族の男の顔色がどんどん悪くなっていくのが見えた。やっぱ、神聖魔法の加護かなんかかかってんのか、この空間。
「なんで、先生みたいな残念な闇の生き物が、学院の教師代表として呼ばれたんですか? 場違いにもほどがあるんじゃないですか?」
「それが、他の先生はいろいろ用事があって忙しいみたいで」
「なるほど」
説得力しかない答えだ。こいつ、ヒマそうだしな。
「それに、僕だって、ちゃんとあのとき活躍したじゃないですか。ご招待される資格はあるはずですよ」
「活躍って、マドレーヌの化け物出して勝手に自滅したアレ?」
「違いますよ! 物理障壁でみんなを守ったでしょう!」
「ああ、クラス委員長様に言われてようやく気付いたアレね」
やっとレジェンド・モンスターの能力を役立てることができたってやつか。
「せめて呪術が使えたら、僕ももっとお役に立てたはずなんですけどね。例えば、自分の周りを冥府の業火で焼き尽くすような術で、みんなを守ることができたはず――」
「守れるわけないだろ、そんな術で!」
それ使ってたら、確実にあの場にいた生徒、全滅じゃねえか。つか、こいつの話を聞く限り、呪術ってどんだけ自爆テロみてえな術がそろってんだよ。さすが各国で禁術になるだけのことはある。
やがて、そんなこんなで俺たちは女帝様のお待ちしているという謁見の間の前まで到着した。そう、謁見の間。レイナートではろくな思い出のない場所。この国でははたしてどうなんだろう。
「どうぞ」
使者は重厚な扉を開け、俺たちを中に招き入れた。そして、すぐに退出してしまった。
謁見の間の奥の玉座には、小柄な女性が座っているようだったが、御簾のようなヴェールがまわりに張られていて、よく中が見えなかった。また、俺たちとその女帝様以外に、人影はなかった。どういうことだろう? 護衛の近衛兵とか普通そばに置いてるもんだろうがよ。
と、俺たちが要領もわからず立ち尽くしていると、ヴェールの奥の女帝様のほうが動いた。なんと、女帝様自ら立ち上がり、自らヴェールの奥から出てきたのだ。
頭に王冠を戴き、錫杖を携え、きらびやかなドレスを身にまとったそのお姿はやはり小柄で……というか、どう見ても十一歳ぐらいのロリっ子そのもので、輝くようなプラチナブロンドの短い髪に、澄んだエメラルド色の瞳をしていて、とてもかわいらしい顔立ちをしていた――って、あれ? こいつの顔、俺のすぐそばにいる、クソ生意気なロリっ子にそっくりじゃん?
「ラティーナ、お前――」
と、俺が声をかけようとした瞬間、
「リュシアーナ、今日はどうだった? なんか変わったことあったー?」
ラティーナは自分とそっくりの目の前のロリっ子に近づいていく。とても親し気なタメ口で。
「ああ、今日は例の騎士団長様がお見えになりました」
さっきまで玉座に座っていたロリっ子は、ラティーナに答える。とても慇懃な口調で。
「あいつが? どーせ、更迭の話をなかったことにしてって、お願いに来たんでしょ?」
ラティーナはやはり玉座に座っていたロリっ子に対し、圧倒的タメ口だ。
「おとといの襲撃といい、彼の往生際の悪さも相当ですね」
「そうそう! あんなんで自分の地位が守れるわけないのにねー。うぷぷー、マジカッコ悪いおじさん!」
ラティーナは意地悪そうに笑った。
直後、その目の前の慇懃口調のロリっ子が自分の頭から王冠を取り、ラティーナの頭の上に置いた。さらに錫杖も手渡した。
「陛下、そこのお二人が、なんのことかわからずに呆然としているようです。そろそろ、ちゃんと説明してさしあげないと」
「えー、めんどい。っていうか、今の状況でだいたい空気読めるでしょ? ねー、トモキ君? ねー、ルーシア?」
ラティーナは錫杖を俺とルーシアに代わる代わる向けながら言った。まるで、一国の為政者のように、堂々と胸を張りながら――。
って、まるで、じゃねえじゃねえか! どう考えてもこの状況!
「ラティーナ、お前、この国の女帝様だったんかい!」
「そーだよ。びっくりした?」
「するに決まってんだろ!」
俺は叫ばずにはいられなかった。俺の近くにいるルーシアも、やはり俺と同様、愕然としているようだった。
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