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 翌日、俺たちは約束通り、いったん学院の校門の前で待ち合わせして、一緒に街に遊びに行った。休日に、若い男女が二人きりで出かける――よく考えなくてもやはりデートと呼ぶ以外の何物でもなかったが、思い返してみれば、俺たちは出会った時からちょくちょく二人きりで行動しているのだ。ほんの数日前までは宿屋の同じ部屋で寝泊まりしてたものだし、い、今更、何も緊張することはない……。そうだ、今日のはあくまで、ユリィの機嫌を取るために一緒に飯を食うだけのイベント……。


「ど、どんなの食うか、考えてきたか、ユリィ!」


 しかし、ユリィと一緒に並んで道を歩きながら、俺はやはり緊張せずにはいられなかった。思わず声がうわずってしまう。デートって意識しちゃうとどうもダメだ。俺ってばこういうイベント、全然経験ないんだ。


「一応、寄宿舎のみなさんに、評判のいいお店は聞いてきましたけど、トモキ様は、どこか行きたいお店とか、食べたい料理とかはないんですか?」

「な、ないぞ!」


 というか、俺も一応ルームメイトのヤギにそのへんのことは聞いてみたんだが、「美味い新芽が食える穴場のスポット」くらいしか情報を聞き出せなかった。これだから草食動物は。


「じゃあ、わたしの聞いたお店に行ってみましょうか」

「そ、そうだな!」


 二つ返事でうなずいた。正直、ユリィと二人きりで飯が食えるなら、どんな店でもいい気がしたし。デートだしな、えへへ……。


 なお、俺たちの服装はともに制服だった。昨日の一件で、学院からの通達があり、学生たちはしばらくはプライベートでも安全性の高い制服でいろということだった。まあ、確かに、いつあんなモンスターが襲ってくるかわからん状態だし、いろいろ耐性マシマシになっている学院の制服を着ていたほうがいいだろう。なんか汚れても自動できれいになるみたいで、洗濯もいらないみたいだし。便利すぎかよ。


「お前が教えてもらった店ってどういうところなんだ?」

「すごく豪華でおいしいフルコースの料理が、二千ゴンスという、とても庶民的な価格で食べられるお店だそうです」

「え、何その優良店」


 ちょっと怖いな? フルコースの料理が日本円で千円相当?


「誰からそんな話を聞いたんだよ」

「編入初日にわたしに魔占球を使わせてくれた方たちです」

「え、あのいじわる三人組の女?」

「ああ、あのときは、みなさんなんだか怖い印象でしたけれど、昨日わたしに声をかけていただいたときは、すごくやさしい感じでした。わたしが魔占球を壊してしまったことも、全然怒ってない様子で、そのお店のことを教えてくれたんですよ」

「そ、そう……」


 なんかめっちゃ怪しいな、オイ! 


「なんでも、知る人ぞ知る、隠れた人気店だそうです。そんなお店のことを教えてくれるなんて、みなさんすごく親切ですね」


 ユリィはすっかりその話を信じ切っている様子だ。お前はなぜ、そんなにも人を疑うことを知らないんだ……。


 まあいい、その話が本当かちょっと気になるし、変な店ならユリィをかついでダッシュで逃げればいいか。


「じゃあ、さっそくその店に行ってみようぜ」

「はい」


 俺はユリィに案内されるまま、その謎の店に向かった。

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