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それから俺は寄宿舎に戻り、ルームメイトのヤギに、魔法についていろいろ教わった。やる気を出しているユリィを見ていると、俺も何か、がんばりたくなってきたのだ。ヤギの教え方は丁寧でわかりやすかったが、その声が聞こえるのは俺の頭の上からだった。もうすでに、そこが、俺が部屋にいる時のやつの定位置になってしまったようだった。重い。が、勉強を教えてもらえるのはありがたいので我慢することにする。
やがて翌日、らしくないほど頭に知識を詰め込んだ俺は、寝不足のまま登校した。
しかし、俺が自分の席に腰を落としたところで、見慣れない女子が俺に話しかけてきた。
「ねー、君、レオ君とすごく仲がいいって、ほんと?」
それはどう見ても十一、二歳くらいの女児だった。それが、この学院の制服を着て立っていた。髪は短く、輝くようなプラチナブロンドで、瞳は澄み切ったエメラルド色の、人形のようにかわいらしい少女だ。なぜこんなのがここにいるんだ。
「お前、まさかこのクラスの生徒か?」
「そーだよ。ドノヴォン国立学院、一年四組、出席番号二十四番、ラティーナちゃんだよー!」
ロリっ子、ラティーナは、元気いっぱいに自己紹介した。
「そうか。俺はトモキ・ニノミヤだ。よろしくな……と、言いたいところだが、なんでお前みたいなガキんちょが、こんな学校に来てるんだ? どう見ても、俺たちと歳が違うだろ?」
「えへへ。ラティーナってば、特別扱いで通ってるんだよ。だから、みんなと歳が違っててもいいんだよ?」
「特別扱い? 飛びぬけて頭がいいとかか? 飛び級みたいな?」
「それもあるけど……やっぱ、お金の力かなあ?」
「金?」
「うん。ラティーナのおうち、すごくお金持ちなの。この学院にもたくさんお金を出してるんだよ」
「そ、そうか……」
金持ちの令嬢が金の力で強引に通ってるってわけか。
「それより、トモキ君、レオ君とのことだよ。ねえ、教えて。二人は本当に恋人同士なの?」
と、ラティーナは小声で尋ねてきた。俺の隣ですでに席に座っているレオのほうをチラっと見ながら。
「んなわけないだろ」
俺は苦笑いして首を振った。
すると、
「だよねー。トモキ君ってどう見ても、カプリクルス受けする感じじゃないもん」
ラティーナはさらに小声で俺に耳打ちしてきた。
カプリクルスって……こいつ、レオの正体知ってるのか。
「ラティーナだっけ。お前、もしかして魔法の能力すごく高かったりするのか?」
「うん。だから、悪いモンスターの幻術なんか、全然効かないんだよ」
と、ラティーナは今度は、レオにわざと聞こえるぐらいの大きな声で言った。
「ラティーナ。新入りの編入生が珍しいのはわかるが、そろそろ自分の席に戻ったらどうだ。ホームルームが始まるぞ」
レオはちょっとむっとしたような口調で言ったが、
「だいじょーぶだよ。サンディー先生ってば、いっつも時間より少し遅れてくるって、ラティーナ知ってるもん」
ラティーナはいかにも子供っぽい口ぶりで反論した――って、なんか唐突に知らない人名が?
「サンディー先生ってなんだよ、ラティーナ。このクラスの担任はリュクサンドールってやつだぞ」
「うん。だから、リュクサンドール先生の名前を縮めてサンディー先生なんだよ。今、女の子たちの間で、先生のことをそう呼ぶのが流行ってるの。そのままだと長ったらしい名前だから、呼びにくいもんね」
「ああ、愛称ってやつか」
エリザベスがリズになるみたいなもんか。しかし、サンディーって響きは妙にポップで、あの男には合わない感じだな。まあ、どうでもいいか。
やがて噂のサンディー先生が教室に入ってきたので、ラティーナは俺たちとは遠く離れた自分の席に戻ってしまった。
その後、一時間目の魔術の授業が始まったところで、俺は隣のヤギに、メモで、ラティーナについて尋ねてみた。昨日まで教室にいなかったのはなぜなのかと。答えのメモはすぐ返ってきた。なんでも、家の事情で忙しくてあまり学校に通えないということだった。金持ちの家らしいし、上流階級同士の付き合いとかあるんだろうか。
魔術の授業で教鞭を執るのはやはりアーニャ先生だったが、その教え方はわかりやすかった。また、授業中に人それぞれ魔力の属性が違うという話になったので、俺は思い切って手を上げ、自分の属性を知らないので教えてほしいと言ってみた。やっぱり何気に気になってたんだよな、このことは。
すると、
「ああ、トモキ君の属性なら、編入手続きの時の検査でわかってるわ。無属性よ」
なんと、無ですって! 当たりなのか、外れなのか、よくわからない……。
「無属性であっても、勉強すれば他の属性の魔法は使えるわ。それぞれの魔力の属性っていうのは、ようは、その人に向いてる魔法ってことだから」
なるほど。炎タイプのポケモンは炎技が強くなるけど、ノーマルタイプの技とかも通常倍率で使える、みたいな話か。わかるわかる。
「無属性だと、向いているのは空間魔法ね。極めれば、瞬間移動したり、隕石を落とすような大魔法も使えるようになるわよ」
「おおっ!」
なんかすごそう。当たりっぽい、この属性!
「あと、俗に無属性の人は、前世の行いがとても清らかでストイックだったから、そうなるって言われてるわよ」
「そ、そうですか……」
その情報はあまり必要じゃなかったような。童貞のまま死んでいった前世を思い出して、複雑な気持ちになるんだが?
俺の質疑が終わったところで、アーニャ先生はまた授業を再開したが、やがて俺の席にメモが回ってきた。今度は隣のヤギからではなく、遠く離れた席のラティーナからだった。
見ると、
『うぷぷー。トモキ君、きっと前世で全然モテなかったんだねー。やーい、やーい、清らか太郎ー!』
と、俺のことをいかにも小ばかにしたようなことが書かれていた。
「き、清らか太郎って」
なにその煽り文句! 地味にいらっとするんですけど!
俺はただちに顔を上げ、遠く離れた席のラティーナをにらんだ。彼女はちょうど俺のほうを見ていたが、俺と視線が合うと、びくっと体を震わせ、すぐに目をそらしてしまった。
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