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「お、お前、何しにここに……」
俺はあわてて、手を引っ込めた。ユリィと手を握り合っているところを見られるとか、恥ずかしすぎるからな!
「クラス委員長ですから。進捗状況の確認は当然でしょう」
「シンチョク状況て」
お前はどこのビジネスマンだ。
「しかし、なぜ、
「そ、それはその……」
ユリィはとたんにひどくうろたえたようだった。
「つ、使えないんです、わたし。ごめんなさい……」
「おかしいですね。あなたは魔力はとても素晴らしいものを持っているはずです。それに、魔法の使い方も十分に心得ているはずでしょう。あれだけ、テストでよい成績をおさめたのですから」
「いや、こいつはその、ちょっと訳ありで――」
と、俺が口をはさんだとたん、
「ああ、なるほど。そういうことだったのですね」
ルーシアは何か勝手に納得したようだった。
「本当は使えるのに、この状況ではあえて
「え、それは、その――」
ユリィはとたんに耳まで真っ赤になって、うまく口から言葉が出なくなったようだった。俺も、いきなりそんなふうに言われて、恥ずかしいやらうれしいやらで顔が熱くなってしまった。恋人ですって、俺たち!
「ち、違うんだ、ルーシア。俺たちは別に付き合ってるとかじゃない」
とはいえ、誤解には違いないので、あわてて訂正した。
「そうなのですか? それにしては、先ほどはずいぶん親し気に手を握り合っているようでしたが?」
「あ、あれは、こいつに手相を見てもらってただけなの!」
くそ、あの現場もばっちり目撃されてたのかよ。
「それに、昼休みは、ユリィさんが平手打ちされたとたん、さっそうとトモキ君が現れ、彼女を守ろうとしたではないですか。まるで姫を守る騎士のように。あの行動は、どう見ても恋人のそれとしか――」
「ち、ちが! 俺たち仲間だから! ファミリーだから! 誰か一人が危ない目にあったら、すぐに助けに行かなくちゃいけない鉄のオキテあるから!」
「……なるほど。わかりました。お二人は微妙な関係というやつなのですね」
「微妙?」
「はい。いわゆる一つの、友達以上恋人未満という」
「え、いや、そのう――」
「いいのです。もう下手な言い訳はしなくても。これ以上何か言うのもヤボというものです」
「ここまで一方的に詮索しておいて、ヤボもクソもない気がするんだが」
めっちゃ恥ずかしいし! ユリィはさっきから赤くなってうつむいたまま何も言わないし!
「とにかく、俺たちは別に恋人同士ってわけでもないんだからな」
改めて、念を押しておく。
「なるほど、わかりました。では、ユリィさんが
「は、はい……」
「なぜです? そう難しい魔法ではないはずですが?」
「それはその……」
「こいつは今スランプなんだよ。魔法を使いたくても、うまく使えない状態なんだ」
と、答えに窮しているユリィの代わりに俺が説明した。実際、そんなようなもんのはずだしな。
「……まあ、そういうことでしたら、仕方ないですね」
ルーシアはすぐに何か訳ありな空気を察したようだった。
「しかし、事情がどうであれ、作業がずっと滞っているのも、クラス委員長としては見過ごせませんね。
なんか知らんが、勇者岩の修復を手伝ってくれるらしい。俺たちは言われるがまま、勇者岩から離れた。ルーシアは岩の跡地に向かって手をかざし、何か小声で詠唱した。たちまち、俺たちが積み上げた岩の破片は、次々に岩の跡地に飛んで戻って行った。未回収の岩の破片も辺りから集まってきた。
やがて、それはきれいに重なり、一つの岩の形になった。
「
ルーシアは俺たちに指示した。俺はすぐに石工用ボンドをそんな岩の表面に塗りたくった。
やがて、ボンドは乾いて固まり、岩も元の形に戻ったようだった。少なくとも見た目は。
「おそらく中は割れたままでしょうが、誰かがふざけて勇者岩に乗ったりしないかぎりは問題ないでしょう」
ルーシアは岩の表面を点検するように見ながら言った。ふざけてじゃなくて、本能で岩に登りたがる野獣なら一匹知ってるが、あとで事情を説明しておくか。
「あの、本当にありがとうございます。ルーシアさん」
ユリィはルーシアに深々と頭を下げたが、
「いえ、私はクラス委員長ですからね。クラスの誰かが困っているのなら、助けるのは当然のことですよ」
ルーシアはなんだか感謝を素直に受け取らないような、お高くとまった態度だ。
でも、こいつ、言葉だとトゲトゲしいところがあったり、感じ悪かったりするけど、実際はただのいいやつだよな? 今助けてくれたのもそうだが、昼休みの時も、ユリィへのいびりを止めようとしていたし、廃村でもおっさん助けてたし。まあ、やたらとクラス委員長アピールしてくるところがちょっとうざいが。お前はちびまる子ちゃんの丸尾君かよ。
と、俺がぼんやり考えていたそのとき、
「おお、修復が終わっていますねえ。すばらしい!」
リュクサンドールが俺たちの前にやってきた。上から。
そう、やつは、黒いコウモリのような羽を背中から生やし、俺たちの頭上から飛んできたのだった。
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