バッドエンド勇者の強くて異世界転生《ニューゲーム》

真木ハヌイ

一章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

プロローグ

「俺、この戦いに勝ったら、姫様に告白するんだ……」


 勇者アルドレイは、うす暗い、朽ちた神殿の奥地でぼそっとつぶやいた。彼の周りには二人の女と、一人の男がいた。みな、アルドレイと同様に、きっちり武装している。


「アル、そういうことは思っていても口に出さないほうがいいんじゃ」

「不吉よ」

「つか、この状況で唐突に色ボケとかマジありえないんですけど!」


 男と二人の女から矢継ぎ早にツッコミが飛んできた。「う、うるさい!」アルドレイは顔を赤くして怒鳴った。


「人間どもめ、何をさえずっておる!」


 と、そこで彼らの倒すべき敵が現れた。神殿の床を突き破って、彼らの足元から。


 それは一匹の巨大なドラゴンだった。


「確かに今はおしゃべりしてる暇はなさそうだな!」


 アルドレイ他三名は、すぐにコメディモードからシリアスモードにスイッチを入れ替え、それぞれの武器を構えた。


 そしてすぐに、気合の掛け声とともにドラゴンに攻撃した!


「うおおおっ!」 


 ゆうしゃアルドレイのこうげき! かいしんのいちげき!


 わりとすぐにドラゴンを倒すことができた。


「いきなりクリティカルで1ターンキルとか、あっけなさすぎなんですけど!」

「俺にも仕事させろよなー」

「拍子抜けね」

「いやあ、ちょっとレベリングしすぎたかなあ」


 ドラゴンの帰り血を浴びながら、四人は和気あいあいとハイタッチしあった。彼らの長き戦いは終わった。悪しきドラゴンは死に、人類は破滅の危機から救われたのだった……完!


 と、綺麗に終わってもいいところだったが、彼らの話には続きがあった。そう、アルドレイの立てた死亡フラグである。


 ドラゴンを見事倒し、王都に凱旋した彼らを待ち受けていたのは、民衆から多大な賞賛と、王からの褒美の金銀財宝だった。


 そして、その晩、城のバルコニーで姫と二人きりになったアルドレイは、有言実行とばかりに告白したわけだが……。


「ごめんなさい。勇者様……」


 ぐさ! なんと姫にナイフで刺されてしまった!


「え、なんで――」


 意味わからんし! 俺、殺される理由ないし! 全力でツッコミたいが、的確に急所を突かれたらしく、力が入らない。素人のくせにやりおる、姫ぇ……。


「お父様に命令されたんです。勇者様を殺せと……」

「な……」


 なにそれえ……。へろへろになってその場に崩れちゃうアルドレイだった。


「本当にごめんなさい。ごめんなさい……」


 姫は泣いていた。しかし、泣いて済む問題ではない。いかな絶大な効能を秘めた乙女の涙といえど、殺人行為を正当化できるわけはない。


 アルドレイは朦朧としながら、なぜこんなことになってしまったのか考えた。


 俺、どこかで選択肢間違ったかな……。


 やがて彼は絶命した。





 さて、以上が、俺が頻繁に夢に見る、勇者アルドレイのバッドエンドの物語だ。それはまるで前世の記憶のように鮮明だ。


 だが、前世と呼ぶには、俺とアルドレイとでは生きている世界が違いすぎた。俺は現代日本に生きる、男子高校生、二宮智樹にのみや・ともき。アルドレイみたいなファンタジー世界には生きていないのだ。


 したがってこの謎の記憶は、俺の妄想なんだろうと思う。あるいは、どこかで見聞きした物語の断片か。そう、現実に起こったことじゃないんだ。世界を救ったのに、愛しの姫に殺された勇者なんていないはずなんだ。


 だが、その日、俺のクラスに転校してきた女子は、俺を見るなり、こう言った。


「勇者アルドレイ様。どうかまた世界を救ってください」


 朝のホームルームの真っ最中で、周りには他の生徒も教師もいるのに、そいつは俺のすぐ前にやってきて、真顔でそう言ったのだ。そして、俺に跪きやがった!


「な、何言ってんの、お前……」


 俺はぽかんとするほかなかった。


「あの竜が再び目覚めたのです。倒せるのはもはや、アルドレイ様達しかいません」


 その女子はやはり真剣そのものだった。長くつややかな黒髪をポニーテールにしてまとめた、すらりとした長身の少女だ。切れ長の涼しげな目をしていて、顔立ちはよく整っている。美少女と言ってもいい。


「そんなこと急に言われても……」


 意味わからんし! 


「時間がありません。詳しい説明は後でします」


 と、ポニテ美少女はそこですっと立ち上がり、ポケットから水晶の球を取り出して真上に放り投げた。


 たちまち、強い光がそこから迸った! うお、まぶし!


「さあ、アルドレイ様、行きましょう!」


 まぶしくて何も見えない中、ポニテ美少女は俺の手をつかみ、ぐいっと引っ張った。そして、その瞬間、俺達は大きな穴の中にでも吸い込まれてしまったようだった。


「うわああっ!」


 ぐにゃあ、と、一瞬周りの光が歪んだように見えた。そして、直後、俺とポニテ美少女は何もない草原に立っていた。俺は制服のままだが、ポニテ少女はローブ姿に変わっている。


「あ、あれ?」


 俺ってば教室にいたはずなんですけど。きょろきょろ周りを見回すが、やはりそこは原っぱだ。空は青く澄んでいて、小鳥のさえずりが遠く聞こえる。


「ここはアルドレイ様の生まれ故郷の世界、ルーンブリーデルです」

「え、何それ? 地球じゃないの?」

「はい。アルドレイ様が先ほどまでいらした世界ではない、いわゆる一つの異世界というやつです」

「えええええ!」


 なんだこの急展開! 超展開! 唐突にもほどがあるだろ! ただひたすら度肝を抜かれる俺だった。

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