第32話 底辺冒険者とドジっ娘ファイター①
「うぐふっ……」
思わぬ形で魔力攻撃を受けた俺は、背中のアリシアもろとも地面に突っ伏す。
魔力の矢はやがて光に帰したが、傷跡はざっくりと俺の体に残った。
「ユーヤ!? だ、大丈夫ですか!?」
「わぁーッ!? ユーヤが血だらけにィーッ!? なにこれ、もしかして事故!?」
「おいこら、エルお前……この期に及んでまだこれが劇の演出だと思ってるのか……?」
「え、違うの?」
もういい。お前なんてもう知らん。
というか、なぜピンポイントで俺ばかりに矢が刺さる!?
流れ矢ってレベルじゃないぞ!?
「なんかよくわからんが、相手には当たったみたいでっせ、アニキ」
「そうみたいだな。この調子で撃ちまくるぞ!」
負傷した俺を見て俄然やる気になる黒マントたち。
「まずいです! 次の攻撃が来ます!」
「ッ!?」
いやホントにまずい……。この状態でまたあんなの喰らったら今度こそ死んでしまう!
逃げなければ……!
俺は痛みをこらえて立ち上がり、少しずつ後ずさる。
「「喰らえ! ≪
今度は2人同時に威力のある矢を放ってきた。
「させません!!」
ランも対抗して、両の手に棍を持つ二刀流の構えで応戦する。
へ? 応戦?
「いや、待――」
「――《
二本の棍で翼を広げるように薙ぎ払う。
すると、先ほどのスキルとは比にならないほどの豪風がランの周りで吹きすさぶ。
その風を受けた相手の矢はいとも簡単に四方へと弾き返された。
よし、今度は矢が当たってくる心配はなさそうだ……と思った瞬間。
スポン。
と間の抜けたような音が聞こえた。
振り切ったランの両手から滑るように棍がすっぽ抜ける。
「あっ、やば――」
スキルを放った勢いそのままに放たれる2本の棍。
「おいまさか――」
逃げようとするが、足が動かない。
「ねえユーヤ? なんかこっちに向かって飛んできて――」
エルが言い終わるのを待つことなく、高速に横回転を加えられた棍の柄の部分が俺とエルの腹にそれぞれクリティカルヒットした。
「「ごぶふッ!?」」
腹部にめり込むしなやかな柄。
一瞬気を失いかけるが、連続的に襲う痛みに再び目が覚める。
俺とエルは棍を腹にめり込ませたまま立ち尽くす。
「「「…………」」」
訪れる沈黙。
誰もこの状況をうまく飲み込めていないのだろう。
「あ、えっと……」
ランが俺たちの顔色をうかがうようにチラ見する。
棍がその勢いを緩めてようやく体から離れると、俺とエルは地面に落ちゆく棍と一緒に、仲良くその場に倒れ込んだ。
「ユーヤ! エル!」
慌ててランが駆け寄る。
その時、吐血から回復したアリシアがやっと目を覚ました。
「うーん……ってええ!? だ、大丈夫ですか!? ユーヤさん、エルさん!?」
うずくまる俺とエルを見るやいなや、困惑混じりに声をかけてくる。
「ど、どどどどうなってるんですかかか!?」
パニックになりろれつが回らないアリシア。
無理もない。
買い物して、気絶して、目覚めたら自分の仲間が倒れていたのだから。
「だ、誰にやられたんですか!? も、もしかして、あそこにいるあからさまに悪そうな黒いマスクの人たちですか!?」
俺とエルは腹部の激痛に耐えなから、プルプルと手を上げて指差す。
「「こいつ(ランちゃん)にやられた」」
「わ、私ですか!?」
「あ……当たり前だ、このバカ! 1度ならず2度までも!」
「わ、わざとじゃないんです、わざとじゃ!?」
両手を挙げて故意でないことを主張するランに、アリシアがずんずんと詰め寄る。
「ワンさん!」
「ランです!」
「ラ、ランさん! あなたが犯人だったんですね!」
「誤解です! 信じてください!」
被害者が2人いて、その被害者が同一の犯人を指しているのだから誤解も何もない。
今すぐアリシアの魔法で燃やしてもらいたい。
「う……お昼のサンドイッチが……うぷ」
エルが涙目で口を抑える。
元はと言えば、俺がこんな目にあっているのは全部エルのせいだ。
もっと痛い目を見るべきだと思う。
「おい、てめーら! 俺たちを無視して話進めてんじゃねえ!」
「アニキの言うとおりだぞ! こっちだってお前らなんて無視して早くズラかりたいんだからな!」
うるさいやつらだな……。
お前らの相手をしてやれるほど体力は残っていないってのに。
俺は腹痛耐え耐えのかすれ声で黒マントたちに声をかける。
「た、頼む……俺のことを助けると思って、早くズラかってくれ……」
「「ふざけんな!!」」
もうお前らは逃げたいのか戦いたいのかどっちなんだ……。
「舐められたまま逃げられるか!」
再び弓を構える黒マントに、ランも戦闘態勢に戻る。
「ここは私に任せ――って……どうしたんですか? なぜ私の手を掴むのです、ユーヤ?」
「どうもこうもない……。ラン。お前はもう、動くな……」
「わ、私のことを心配してくださるのですか!?」
「は? いやちが――」
「うぅ……これがチームワークというものなのですね……師匠……」
なぜかランがスーツの裾に目をあてておいおいと涙ぐむ。
明らかに勘違いしている。
「いや、だからちが――」
「私のことなら大丈夫です! 必ずあいつらを倒してみせますとも! チームワークに誓って!!」
俺の言葉を無視して、拳を握るラン。
軽々と俺の静止を振り払うと、一直線に黒マスクたちに向かっていった。
「ちょっ、待っ――!?」
「うおおおぉぉぉ!! チームワァァーークッ!!!!」
遠のくランの背中に手を伸ばす。
だが、俺の思いと言葉は彼女に届くことはなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後はまさに、"地獄"の一言だった。
「「ヒョエェェェ!!?」」
矢が飛び交う戦場で、火の上を走り回るようにあたふたと逃げ惑う俺たち。
しかしそれは、黒マスクの攻撃からではない。
「ハッ!」
ランが相手の攻撃を弾けば、俺かエルのどちらかに矢が当たり、
「セイッ!」
スキルを使えば矢と共に棍が一緒に飛んでくる。
まさに地獄。
なにが地獄かって、俺たちは全く手を出していないのにも関わらず、この中で1番ダメージをくらっていることだ。
「うわぁぁぁん! もうイヤだぁぁぁ〜!」
エルが泣きながら一心不乱に駆け回る。
さすがのエルも、これが劇の演出でないことだけはわかったようだ。
「いったい、なにが起こっている……?」
そこら中に傷を負って朦朧とする意識の中、レオンが吐き捨てたあの言葉をふと思い出す。
『スライム1匹倒している間にやられた……ッ!』
『こいつに俺たちのパーティーは全滅させられたんだぁッ!』
得体のしれない何かに怯えるような声。
うずまいていた疑惑が1つの確信へと変わる。
「ああ、やはりあいつは正真正銘の"戦力外娘"ってことか……」
謎のカンフー少女、ラン。
その正体は、動けば動くほど仲間がやられていく――超弩級の"ドジっ娘ファイター"だったのだ……。
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