攻略対象はサイボーグで幽霊でバグな侵入者

紅灯空呼

第1部

【0章】正男の姉がやっているゲーム

∞.桃太郎に例えられてもわからない

 生命体の成分は、大きく分けて二種類がある。

 一つはボディつまり生命体球。もう一つはソウルつまり生命体魂。


 今の正男は、後者のみになってしまっている。


 ~目を醒ますのですマサオ(うぅ、だ、誰だ?)

 ~女神マサコです(ここは?)

 ~大学の医務室です(オレは?)

 ~魔導士マサオです(マジか!)


 このように、声は正男の生命体魂に直接響いてくる。


 ~別のサイボーグボディを用意しました(え?)

 ~生命体魂をインストール開始(うっ、痛い!)

 ~我慢なさい男の子でしょ(オ、オレ我慢する!)

 ~偉いですよマサオ(えへへ♪)


 スペア生命体球に、正男の生命体魂がインスール完了。

 こうして、一時しのぎのサイボーグ正男が起動する。

 故障してしまった生命体球はリサイクルボックスへ送られる。俗に言う「ゴミ箱行き」になるのだ。


「正男、お姉ちゃんよ。わかる?」

「姉ちゃん!」

「気分はどう?」

「左頬がヒリヒリ痛い」

「あんたのボディは取り替えたわ。中古品だけどね」

「は?」


 痛みの記憶は残っている。サイボーグも痛みは覚えるものだ。

 女性に張り手を食らわされた記憶は残っていない。サイボーグもつらい過去は忘れようとするものだ。


「時間がないから端的に説明するわ」

「なにを?」

「黙って聞きなさい!」

「わかった……」


 姉の話を黙って聞かされた。

 ここは無料オンライン乙女ゲーム『女神マサコの講義お姉ちゃんパワー注入ミリオン%』(エムコテクノゲームス)の世界なのだ。


 姉はこのゲームをクリアして、二周目を始めた。

 だが、どうしても途中から脇役の視点になってストーリーが進んでしまい、とてもイラついている。

 そこでヒロインの弟である魔導士マサオ(正男)が抜擢されたのだ。


 乙女ゲームをしたことのない正男に、手っ取り早くゲームのシステムとストーリーを理解させるために、姉は『桃太郎』に例えた。


 まず配役〔ゲーム内でどういうキャラか〕はこうなる。

 ・桃太郎〔大学の女神と呼ばれる美人講師でヒロイン、職業:女神〕

 ・犬〔ヒロインの弟で理科一類の一年生マサオ、職業:魔導士〕

 ・猿〔マサオの知人で地味系女子、職業:勇者〕

 ・雉〔購買部ギルドのマスター、職業:妖精〕

 ・鬼〔その他の学生、職業:鬼〕

 ・鬼の大将〔工学部ギルドのマスター、職業:魔王〕

 ・きびだんご〔お姉ちゃんパワー、効果:思考力回復〕


 そして物語〔ゲームのストーリー〕はこうだ。

 昔々、主役〔視点〕の桃太郎〔女神〕が、きびだんご〔思考力回復〕を与えて、犬〔魔導士〕と猿〔勇者〕と雉〔妖精〕を引き連れ、鬼ヶ島〔大学〕へ鬼〔鬼〕を退治〔攻略〕しに行った。

 桃太郎〔女神〕が鬼〔鬼〕を三匹退治〔攻略〕し、さらに犬〔魔導士〕も退治〔攻略〕し、故郷へ帰った〔ゲームをクリアした〕。

 しかし、まだ鬼の大将〔魔王〕を退治〔攻略〕していないから、めでたしめでたしとは言えない〔ベストエンドを観ていない〕。だから、再び鬼退治に行くことにした〔ゲームの二周目を始めた〕。

 ところが、出発して〔オープニングストーリーをスキップして〕少し経つと、猿〔勇者〕が主役〔視点〕を奪ってしまう。桃太郎〔女神〕はとても悔しい。それで犬〔魔導士〕に命令して、猿〔勇者〕から主役〔視点〕を奪い返してもらうことにした。


「わかった?」

「わかるか!」


 こうして、犬〔魔導士〕は鬼ヶ島〔大学〕へ旅立ったのである。

 あとはよろしく。


「勝手に旅立たせるな!」

「あとはよろしく」

「おーい!」


 サイボーグボディのバッテリーが上がった。これだから中古品は困る。

 再び生命体魂のみになった正男は、しばらく亜空間を漂う。そして七度目の転移をして、別の宇宙へ行くことになる。

 あとはよろしく。

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