第8話 覚醒の片鱗

 村の中央広間には、いまだに怒りの収まらないカイが部下に怒りをぶちまけていた。



「おい、エドはまだ戻ってこないのか⁉」


「は、はい。ほかの者共も帰ってきてはおりません」



 とある少女を追いかけていた部下が戻ってこないことに、カイは舌打ちする。

 すると、一人の男が燃え盛る家屋のほうから息を切らしながら走ってきた。



「た、大変だ、かしらッ! む、むこうのやつら全員、や、やられちまいやした」



 彼は、カイが連れてきた盗賊の一人。

 まるで、恐ろしいものでも見たかのように、声がふるえ目の焦点しょうてんもあっていない。



「オマエ、それでノコノコ戻ってきたのか? 敵なのか? 数はどのくらいだ!?」


「敵の数はひ、一人。そいつに全員首を……」


「たった一人!? 数はこっちのほうが多いんだからとっとと押し切っちまえ」


「だ、だけど、あ、あいつは化けも……、グハぁッ」



 その盗賊の背中から剣がつらぬかれた。

 カイと彼を守る護衛は一瞬、動揺どうようするが、すぐに警戒の態勢をとった。

 盗賊の背後から人影が現れる。盗賊の背中に刺さった剣を抜き、カイたちの前に死体をころがす。

 燃える村から単身出てきたのは、ひどい火傷を負ったレオンだった。

 


「オマエらか、村をおそったのは?」



          ※



 レオンは剣についた血を振り落としながら前に進んだ。

 目の前には複数の兵士と、彼らの中央にレオンと同じ年くらいの青年がいた。

 先ほどの盗賊よりも装備がととのっているように見える。

 青年がレオンの前に姿を見せ、突然笑いだした。



「た、たしかに、似ているな。ク、クク、ギャハハハハハッ! お前がレオンか?」


「!?」



 姿を現したのはレオンと瓜二うりふたつの顔をした男で、なぜかレオンの名前を知っていた。



「なんで自分の名前を、って顔だな。そこにねっころがっている奴らが、このカイ様にむかって、レオン、レオンなんて叫んでいたからな。ああ、やっと納得なっとくできたぜ」



 カイと呼ばれた青年が指し示した方向を見ると、村人たちが広間のうえに両手をしばられたまま倒れていた。

 全員すでに動く気配はしない。

 レオンによくしてくれた近所のおじさんや村長、村の人たちだった。



「オマエが殺したのか……?」



 その青年はみにくい笑みをうかべて。



「そうだ、コイツらがずっとわめくからだまらせた。おかげで今は気分がいい」


「……、殺してやる」



 レオンは静かにつぶやきながら剣を構えなおす。

 敵兵も剣を構えて走りせまってくる。

 数は30人弱。



「オマエら、そいつを殺せ、今すぐに‼」



 その命令と同時に敵がりかかってきた。



(……じいちゃんよりも遅い)



 多勢たぜい無勢ぶぜいな状況だがレオンは落ち着いていた。

 敵が剣を振り上げる前に、レオンはそいつのふところにもぐり素早く剣を振りぬく。

 敵は防御するひまもなく、振り上げた両腕を斬られてしまう。

 次から次へとわいてくる敵の攻撃をかわし、首を剣でき、腕を切り落とし、よろいごと心臓を貫いた。

 30人近くいた敵が瞬殺され、後ろで笑っていたカイの顔も徐々にゆがんでいった。



「は、早く俺様を助けろ、のろまどもッ! たった一人だぞッ、すぐに終わらせろ!」



 しかし、全員倒されてその命令に従える者は残っていなかった。レオンは兵の胸に突き刺さった剣を引き抜く。



「もう誰も残っていないな」


「ま、待て、あ、あやまるから、命だけは取るな……」


「謝られたって意味がない。お前のような奴を見逃せば他の村も攻めるつもりだろ? だから、オマエはここで」



 レオンは敵大将の目の前まで歩いていき剣先を首にあてた。

 決着がつく、まさにその瞬間。



「おっと、そこまでにしてくれないか? その王子はまだ必要なんだ」



 聞いたことのない声とともに、レオンは横方向から急な衝撃しょうげきに襲われ、炎がたちこめる家屋のかべにうちつけられる。

 それによって倒壊した建物の瓦礫がれきがレオンの上にのしかかってきた。



(ウ、ソだろ、魔甲まこう間一髪かんいっぱつ、間に合ったと思ったのに……)



 薄れていく意識の中で、手の中に一本の剣が形成されたことにレオンは気付かなかった。

 


 その剣は炎に照らされ、黒紫色に怪しく発光していた。

 


         ※



 レオンをり飛ばしたのはエドだった。

 エドはカイのほうを振り返り。



「すみません、他の兵は盗賊もろともクマにやられました」



 エドが来てくれ、先程のおびえが消え去ったのか、カイは再び強気な態度をとる。


「おっせーよ、このノロマ!! まあいい、アイツは死んだか?」


「どうでしょうね?」


「いや、絶対に死んだ。俺様に歯向はむかったんだからな。おい、すぐにでもキリアに戻るぞ」


「すみませんが王子、まだやり残したことがあるので……」



 エドが何か言いかけたとき、爆風とともに強大な魔力がエドのもとに伝わってきた。

 強大な魔力の出所は、エドに飛ばされたはずのレオンだった。

 レオンの手には黒紫色の剣、『破滅剣ルーイナー』が握られていた。

 レオンの魔力は異常なほどにふくれあがっており、殺気がひしひしと伝わってくる。



「マジかよ」



 エドは緊張の表情を見せるが、生気のないレオンの顔を見て、口の端をわずかにり上げる。



「なんてラッキーなんだ。まさか、こんな辺境へんきょうの村にいるなんて」



 殺気を振りまくレオンにエドが大剣をかまえなおすと、



「ウワぁあアアああぁァアアアッッ!!!」



 レオンは人間のものとは思えない雄叫おたけびをあげながら、エドとの距離きょりを詰めてきた。

 レオンから発せられる殺気にエドが怖気付く。

 まるで金縛かなしばりにあったかのような感覚に襲われるエド。



「おいおい、オレがガキに圧倒されるとか情けねえじゃねえかッ!!」




 エドはなんとかレオンの攻撃をよけたが、辺りに吹きあれた衝撃波でエドもカイもとばされてしまった。

 エドの不手際ふてぎわにカイはまた怒りが込み上げてきたらしい。



「おい、エド。はやくアイツを倒せよ!」



 しかし、カイの言葉はエドの耳に全く入ってこなかった。



「さっきの攻撃で瓦礫がれきに埋もれて、気絶したとばかり思ってたが、魔甲まこうで俺の攻撃を防いでいたのか。うちの王子とは大違いだッ!」



「ウあああぁァアアぁァッ」



 レオンの握っていた大剣が禍々まがまがしく光った。

 膨大な魔力がまとわりついた剣、『破滅剣はめつけんルーイナー』の紫光のかがやきが増した。

 レオンは、それを十字を描くようにふりまわすと、地面をえぐるほどのカマイタチが発生した。



「こっちも魔甲まこうで応戦しなきゃ、ヤベえな」



 エドは、自身の大剣に大量の魔力をそそぎ、魔甲まこうを展開してカマイタチを迎え撃つ。

 カマイタチにも魔力が付与されており、威力がエドの予想をはるかにこえていた。

 なんとか相殺そうさいできたが見事に大剣は刃が折れてしまう。



「おいおい、どんだけ強いんだよ、今の」



 エドは使い物にならなくなった得物をなげすて、死んでいる兵士が持っていた剣で応戦する。

 しかし、どれだけ魔甲まこうでおおっても、それを貫通かんつうするように、エドの剣は『破滅剣ルーイナー』にたたき折られた。

 子供が落ちている小枝でも折るように、いとも簡単に。

 決して、レオンの攻撃が強いわけじゃない。



「……あれは、普通の剣じゃないな。いちばちか、やってみるか」



 武器を手にしたとしても、あの剣にれるだけで使い物にならなくなる。

 エドはそう直感し武器を地面に投げ捨て、レオンに向き直った。



「グゥァアアぁァアアぁァッ……ッ!!!!!!」



 レオンは距離をつめ、エドの顔めがけて突きをくりだした。

 風圧だけで地面をえぐる突き。まともに食らえばエドの首から上はなくなっていただろう。

 エドは、それを左にかわす。風圧で彼の右頬みぎほほから出血する。



「クソッ、だが、これで……!」



 前方向に体重をかけていたレオンは体勢をくずし、エドの前にレオンの背中が無防備むぼうびな状態でむきだしになる。

 その背中をめがけて、エドは両手で一つの拳を作りふりおろした。



「ありったけの魔力、受け取りやがれッ!」



 エドは全魔力を注ぎ込んで、両手を魔甲まこうでおおう。

 それがレオンの背中に直撃すると、レオンを中心に大きなクレーターが形成された。

 今の攻撃で、レオンは地面深くまでまって、動かなくなる。

 エドの魔力が底をつき、彼はめまいを覚えレオンの横でひざをつく。



「はあ、はあ……。やっと、静かになったか」



 エドは一息つこうとするも、そばまで歩み寄って来ていたカイが命令する



「エド、よくやった!! ソイツに止めをさせ!」


「そうだな」



 そう言ってエドはカイの前で止まる。

 その手には剣が握られていた。



「おい、何やってるんだよ、アイツを殺せよ!」


「おうよ、だけど先にやっておきたいことがあるんすよ」



 エドの大きさに対してその剣は小枝ほどの大きさだったが、それで十分だった。



「な、なにをするつもりだ、おまえ⁉」


「いや―――、あの少年が、兵も盗賊も皆殺みなごろしにしてくれたおかげで、動きやすかったぜ」



 そのままカイの身体をきりつける。

 カイの右半身が、肩から腹に沿って血液が勢いよく噴射ふんしゃする。



「ぎ、ぎゃああああああ、いたい、いたいッ!? 何するんだ、テメえええええええ!?」


「アンタに苦しめられた奴らと、同じくらいの痛みを与えてるんだ。こんなんじゃ手向たむけには物足ものたりねえけど」


「エドおおおおォォォッ!」



 エドはさけび続けているカイの首を大剣でりおとした。

 カイの断末魔だんまつまがおさまると、エドは地面にまったレオンをり起こす。



「さて、このガキを連れて帰るかな」



 エドは、自分が気絶させたレオンを肩にかついで、その場をはなれたのだった。



           ※



 後書きになります。

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