◆ 2020年5月

暗号めいた先生の言葉(ツツジ、堤防、夕日)

 先生の書く字は、クセが強くて解読が大変だ。何でもカタカナで残すからというのもあるが、考えよぎったものをこぼすまいとして走り書くせいで文字が混ざってしまうことが大きい。

 僕は慣れたもので、コツを掴んでからはスラスラ読める。

 たとえばこの、一見すると『ツツジホツト』に見えるメモも、解読すると「執事シツジほしいホシイ」だと分かる。僕の仕事内容がまさに執事みたいなものなのだけれど、それもまた偏屈へんくつタコ先生のことだから「働きのほうでなく格好や態度の話だよ、〝不可能〟くん」とでも言うに違いない。

 勝手に捨てても怒るかねるかされてしまうので、ノートの左側に揃えて貼り付け、日付ごとにファイリングしていく。メモが外れてしまったときや別のページに移動したいときのために、日付と回収場所をスタンプで記録する面倒な作業も忘れない。


「先生、週末の分のまとめ終わりました」

『あいよ。ゴローン』

「それで今日はどちらに? また堤防とか」

ー。フくんもョにツジすう? マいよ』

「残業代いただけるならご一緒しましょう」

『イだよぉ、イズだなぁ。ダッツコしゅしてすぐカインすればテジでがれるよぉ』

「それ絶対〈星海ほしうみ〉のほうじゃないですか。運河ならまだしもそんな遠いとこに今からなんて行きませんよ。僕は定時で帰らせていただきます」

『そっかー、デキイならシタナ

「まさか! 僕はできるほうの加納かのうですから」


 もちろん字は違いますけどね。と、いつものように笑った。

 まぁ、たまには夕日でも見に行こうか。あそこは故郷の星も見えるから僕も好きなんだ。滅びてもなお青い宝石があけに染まるさまを眺めて、センチに浸る日も必要さ。




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【暗号めいた先生の言葉】 2020.06.13 作


夕月檸檬さんからのお題

「ツツジ、堤防、夕日」にて創作

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* さすがに意味不明かとルビを振りましたが、これはこれで読みにくい…そのうちルビ消すかもしれません。「シツ」「ソン」「イト」「ナメ」「カヤ」「アマ」「ユコ」あたりは、走り書くとけっこう混ざるかなと。でもこれ――朗読できないんじゃあ?(2020.06.13)


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