第65話 プロアマトーナメント②

 プロアマトーナメントが開幕して、俺は初日の前半ハーフ九ホールを終えた時点で4バーディ、ノーボギーの四アンダーのスコアでスタートすると言う絶好の出足だった。


 ハーフ終了時点の全体のスコアでも、二位タイの出足となりテレビ局の人達も、これは視聴率が取れそうだと喜んでいた。

 因みに初日と二日目の予選ラウンドなんて、通常は放送なんてありえないんだけど今回は生中継でインターネット局の放送と録画のダイジェスト版が地上波の深夜枠で放送される。


 まぁ期待してくれてる人が居る以上、全力で頑張るぜ!


 後半がスタートする。

 アウトの一番ホールからのスタートだ。

 オナーは俺だ。


 一番ホール 三百九十八ヤード パー4

 若干左へドッグレッグしたホールで、ティーからはグリーンが見えない。

 木の高さも絶妙でまっすぐグリーン方向へ狙おうとするとバンカーが取り囲んでいるので、グリーン手前のフェアウエイを狙うのが正解みたいだ。


 初日だし無理をする必要も無いから、グリーンまで七十ヤード以内を狙う事にした。

 俺の飛距離を考えるとドライバーよりもスプーンと呼ばれる三番ウッドを選択した。


 若干弾道が高くなるけど、今日は風が強くないから問題ないだろう。

 俺は、ティショットを打ち出した。


「ナイスショット」と倉田さんが口にした。


 ほぼ狙い通りだが若干ショートしてグリーンまでは八十ヤードほど残してる。


 真中さんと佐藤さんもフェアウエイをキープして順調な滑り出しだ。

 だがこのホールはグリーンの周りをびっしりとバンカーが取り囲んでいる。


 止まるボールをグリーンに確実に突き刺すには八十ヤードの距離は少し長いな。

 俺より手前に付けた二人から、二打目を打つ。

 二人ともグリーン手前に刻んで3オン狙いだ。


 俺は勝負に出る。

 サンドウェッジを全力で振ると、俺だと百ヤード程の飛距離になるが、止まるボールを打つためにはしっかりボールの下を振りぬく必要があり、丁度八十ヤード程の飛距離になる筈だ。


 サンドウェッジでアプローチに入り思いっきりよくボールの下を振りぬいた。

 思ったより少し高く上がりすぎたがピン奥十メートル程の地点に落下して、強烈なバックスピンでカップに向かった。


 惜しくもカップインにはならなかったが、ピンそば五十センチメートルのスーパーショットとなった。

 このホールの結果は……


真中 4 -3

佐藤 4 -2

俺  3 -5


 と、なり全体トップへと並んだ。

 ギャラリーはとても盛り上がってる。


 俺はホール毎に違うカラーのハンカチに取り換えて、汗を拭うのを怠らないぜ!

 メーカーさんにもいっぱいお世話になってるからね!


 二番ホール 三百九十ヤード パー4


真中 5 -2

佐藤 4 -2

俺  4 -5

 

 三番ホール 百七十ヤード パー3


真中 3 -2

佐藤 2 -3

俺  3 -5


四番ホール 三百八十八ヤード パー4


真中 3 -3

佐藤 4 -3

俺  5 -4


 と、ここに来て初めてのボギーを叩いてしまった。

 原因は二打目のアプローチをオーバー気味に奥のバンカーに取られ、打ち戻しの三打目を再び反対側のバンカーへ入れてしまった注意力散漫としか言いようの無いミスショットだった。


 折角苦手のパターを倉田さんのアシストでうまく乗り切れてるのに、得意だと思っていたアプローチでミスったら駄目だよね。


 気を取り直して次のホールだ!


五番ホール 四百九十五ヤード パー5


 ここは、俺が勝負所になると思っていたロングホールだ。

 今日は明日以降の参考になる様に、ぎりぎりの位置を狙って2オンを狙うぜ!


 フェアウェイが絶妙な位置で途切れていて、手前のフェアウェイからだと2オンは難しい。

 敢えてフェアウェイでは無いけど、グリーンから140ヤード程度の位置を狙ってドライバーで狙う。


 ラフだから着地点から転がっていく可能性は低いのでキャリー(ノーバウンドで稼げる距離)次第でほぼ命運は決まる。


 前二人は堅実に手前フェアウェイを捉え3オン狙いだ。

 俺は思い切ってドライバーを振りぬいた。

 キャリーで三百三十ヤードを超えるショットとなり、上手くショートカットにもなったので残り百二十ヤード程度のラフへと着弾した。


 ラフからのショットになるので少し余裕を持った九番アイアンで、2オンを狙う。

 狙いはばっちりだ。

 ピンそば三メートルへと付けイーグルチャンスを手に入れたぜ!


 倉田さんが慎重にラインを読み、指示通りに放ったパットはカップへ吸い込まれた。


真中 6 -2

佐藤 5 -3

俺  3 -6


 周りからの声援は今日一番の盛り上がりを見せた。

 初日は、残りを無難にまとめ最終的にはこうだ。

 

真中 -2

佐藤 -1

俺  -7


 と言う公式戦デビューではありえない程の好成績でフィニッシュした。

 一番最初にスタートした組で、最後の組が上がってくるまでは大分時間に余裕があるので、黛さんに休憩室を用意して貰ってそこで、必死にサインを書いて過ごした。


 倉田さんは、今日の反省点や明日の対策を色々ノートに書きだしていた。

 見た目は豪快な感じの人だけど、やる事は結構繊細だよな。


 そして最終組が上がって来た時には午後五時前になっていた。

 初日の結果は総合でトップタイだった。


 明日の組み合わせを確認すると、有名なトッププロの二人と同じ組で回れるぜ!

 勉強させてもらっちゃおう。


 ◇◆◇◆ 


 そして翌日、今日は急遽運び込まれたハンカチセットは、千セットでそのうち二百セットに俺の直筆サイン入りが含まれる二十パーセントの確率だ。


 黛さんが申し訳なさそうに「時間のある時にまたハンカチにサインして貰って良いかな?」と、言って来た。


「簡単なアップだけしたら、書いておきますね」と、枚数は明言せずに受けて置いた。

 黛さんは美人だからしょうがないぜ! 巨乳だしね!!


 そして、二日目はなんと最終組でのスタートだ。

 そう言えば昨日の深夜枠のダイジェスト番組は二十三時スタートに関わらず、二十パーセント超えの高視聴率だったらしいよ。


 スポーツ新聞も久しぶりに一面が俺の写真だった。

 昨日一緒に回った、真中さんと佐藤さんも、今日は真ん中あたりの組からのスタートみたいだ。二人とも頑張れ!

 

 今日の組は、片岡さんと言う国内のトッププロの人と、アーサーと言う全米のツアーにも参加している世界ランキング五位のイギリスの選手だ。


 アーサーさんは「Heyオリンピックヒーロー、サインプリーズ」って思いっきり笑顔で握手を求めて来た。

 なんか気さくな人だな。

 片岡さんは、寡黙な人でマスコミ嫌いなところもあるから、実力がある割に人気は今一つな選手だ。


「今日はよろしくお願いします」と、頭を下げて握手を求めたけど、さっさと後を向いて行ってしまった。


 この人はキャディもハウスキャディを荷物持ちだけに使い、ラインなどは全て自分だけで判断する。


 対して、アーサーはチームで一丸となる形で優秀なスタッフを伴っている。


 初日は、アーサーは俺と同じ7アンダーで回っていて、片岡さんは単独三位の6アンダーだ。


 今日はアウトスタートで、初日とはカップの位置が変更してある。

 

 インターネットテレビ局のライブ中継は朝の九時からのスタートで、俺達がスタートする頃にはすでに放送が始まっていた。


 何故か今日のゲストは、進学塾の森先生だった。

 先生ってゴルフなんかやるの? と思ったけど、何でも詳しい人だからきっと大丈夫なんだろう?


 倉田さんは昨日のラウンドでの反省点を子細にまとめて「今日は昨日以上のスコアを出させるぞ!」と朝から燃えている。

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