518話 女子旅 part2 ② (オーガの村へ)




バーガーウルフでのアイリーンとロージーの騒動の後、アイリーンは ラ・マリエの集落にロージーを訪ねて行った。


あんなことがあった後では、ロージーは仕事に来づらいだろうし、生活だってあるんだ。

急に収入がなくなる苦しさはアイリーンにはよくわかるから。


しかし、ロージーは 恋人で冒険者のケベックと共に旅立った後だった。


素早い。


アイリーンの人気は地に落ちるかと思いきや テンコの暴走を見ていた客が″お狐サマを鎮めた聖女″ とふれまわり、天使度が増し、

″アイリーンに怒られ隊″ など、コアなファンまで出現する始末。


ランの発言も手伝って、今 話題になっているのは――




「で?ファースト・キスだったの?」


これだ。


お狐サマを鎮めたアイリーンのキス。


「そんなわけ無いじゃない」


ラ・マリエの通路を歩きながら アイリーンがサクラに返事をした。

まったく、村に話題が少なすぎるからこんなことがあるとすぐに広まる。


「テンコといい雰囲気なのに、いいの~?合コンなんか行って」


サクラはアイリーンにいつもイシルの事を言われているから ここぞとはかりにアイリーンをつつく。


「別に、つきあってるわけじゃないし。アタシが欲しいのは有望な結婚相手よ!」


はじめて会った時からブレてないね、アイリーン。

好きです、その性格。


「テンコじゃダメなの?」


「……ダメじゃないけど、、」


あの後、、

テンコと迦寓屋かぐやでわかれた後、アイリーンは色々考えてしまった。


「違いすぎるのよ、テンコと私じゃ」


アイリーンがとつとつと サクラに話す。


まず、食べ物の好みが違いすぎる。

ウサギの生肉?アイリーンは食べられない。

食べなければいいだけだけど、相手に好きなものを我慢させたくない。


アイリーンがいないところでテンコが好きなものを食べる?

それでもいいよ。

お互い歩み寄ればいい、二人なら。


でも、子供が出来たら?

子供が生肉を欲しがったら?

アイリーンには不要でも 半分キツネの子供には必要な栄養があるのかもしれない。

生肉の味の良し悪しなんて アイリーンにはわからない。


愛があれば乗り越えられる?

そうかもしれない。

でもアイリーンはそんな冒険したくない。

平凡で幸せな家庭が欲しい。

夫と子供の世話を焼き、料理を作り、あったかくて笑顔のたえない家庭を作る。


本音はテンコと恋愛したい。

でも、、


「テンコは長生きだからいいよ。でも、私には80年しかないのよ。テンコが強くなるまで待ってられないわ」


命短し恋せよ乙女。

結婚と恋愛は違うと思う。


感情を優先してしまう『恋愛』

生活を優先する『結婚』


アイリーンはそう思っている。

テンコとは実生活を共に過ごすイメージがわかないのだ。


「あんたも同じじゃない、サクラ」


「えっ?」


「好きなのに諦めてるんでしょ、イシルの事」


アイリーンをつついていたはずなのに 矛先がサクラに帰って来た。


「いや、私の事は、、」


サクラが怯んだのを見て アイリーンが仕返しとばかりに痛いところをつつきだす。


「イシルと『恋愛』すらしないのは イシルとの『結婚』を想像出来ちゃうからでしょ」


「ちょ///ちょっと、アイリーン!!」


飾らないサクラを受け止めてくれ、一緒にいて楽しい。

当たり前のように隣にいる、それが自然に感じる。

水のように 深くサクラの心に染み込み乾かないイシルの存在。


「求められたら拒めなさそうだから距離を置くのよね」


「もとめ///何を言って、、」


あわあわとサクラが顔を真っ赤にして辺りを見回す。

誰もいないって(←アスには聞こえる)


年上の癖にこういうとこが可愛いサクラ。

素直で、感情に嘘がなくて、人として、好きだ。

ついからかいたくなってしまう。


「そのうち襲われるわよ、しびれを切らしたアイツに」


「もう///ヤメテ――!!」


トークが女子旅らしくなってきましたね♪楽しい♪







サクラとアイリーンは アスの館『ラ・マリエ』から繋がっているヨーコの回廊を渡り、ヨーコの温泉宿『迦寓屋かぐや』へとワープする。


今日は『迦寓屋かぐや』に用事はないから、そのままオーガの村へと 更にワープした。


ヒナは旅支度の為に昨日からオーガの村へと帰っていたから、オーガの村の門前で待ち合わせをしている。


「あ、いた!ヒナ~」


サクラは門前にいたヒナに呼びかけた。

いつもの巫女服でも、バーガーウルフの制服でもない、短めの着物の旅仕様は くノ一かっ?


髪は高目のツインテール、着物の下は動きやすいミニのスカート、

肩は出しているのにバングルで腕につけた着物の袖がはためいて何だかセクシー。

胸、、大きいね、ヒナさんや。


かわいい!

ちょっぴりはずかしそうにしているところがまたたまらん!

ドワーフの村でこの格好してたら鼻血の雨が降りますよ?


そして、そのヒナの前には、、


「ヨーコ様!?」


ヒナの隣には 同じくくノ一仕様に 髪をポニーテールにしたヨーコがいた。


「イシル殿に頼まれての、同行する」


心配性のイシルさん。

自分は行けないから、ヨーコにお目付け役を頼んだようだ。


「まったく、あのアホエルフは……」


苦笑いをするアイリーンだが、、


「なんて素敵なの!!」


前回一緒に行けなかったヨーコの女子旅参加に テンションMAXです。





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↑旅仕様ヨーコ様。





◇◆◇◆◇





警備隊の早朝鍛練組に入っていたランは 相手の組手をのらりくらりとかわしていた。

こんなのちっとも鍛練になんかならない。


(ハルもいねーしな)


ギルロスがやってきて 召集をかける。


あくびをしながら 召集に応じると、ギルロスがニヤニヤしながら口を開いた。


「いつも同じ相手だとつまらねーだろ、今日は特別講師を連れてきてやったぜ」


十人程いるメンバーがキョロキョロする。が、ギルロス以外に人はいない。


「誰だよ、特別講師って」


「僕ですよ」


突然 すぐ後ろで 声がして ランはぞっと首をすくめた。


「い、イシル~!?」


気配が まったく無かった。


「全員でかかってらっしゃい、一太刀でも当たったら 昼を奢りますよ」


イシルは全員にそう言いながらも 目はランにロックオン。


(オレ、なんかした?)















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