98話 シャモア鍋
ドワーフ村の門前広場では 大きな鍋が二つ並んでグツグツ煮えていた。
巨大鶏ガラでダシをとり、コラーゲンたっぷりぷるぷる鍋。
水炊きなので、常温の水に鶏肉を入れた状態から火にかけ、じっくりと煮出していく。
水から煮ることにより、鶏肉ならではのあっさりとしたうまみと、鶏ガラから出る濃厚なコクの両方を、最大限に引き出すのだ。
臭み消しに 生姜、ネギ、酒をいれ、丁寧に灰汁をとる。
鍋を火にかけっぱなしにしていると、匂いにつられて 村人が集まってきた。
それぞれが持ち寄った食材を白濁した鍋に入れる。
白菜、大根、人参、ニラ、キノコ……それ、なに?
キクラゲか、びっくりした。
もう、水炊きというより闇鍋である。
待ちきれないのか、焚き火の中に芋を入れて暖をとるもの
酒盛りをはじめるものもいる。
もう一つの鍋
この匂いは……味噌チゲだ。
うま辛!コク深!
じゃがいも、たまねぎ、ズッキーニ?
カレーでも作るの?随分ボリューミーな具材ですね。
「どう?調子」
三時頃に店を締め、カウンターで大鍋大会の準備の様子を眺めていたサクラに アイリーンが話しかける。
今日もバーガーウルフは大盛況でした。
「うん、美味しそうだよ」
「鍋じゃなくて あんたの調子よ」
ああ、と、サクラが笑う
「ありがとう。アイリーンは?大丈夫?」
「まあね、びっくりしたけど。イシルって毎回
「イシルさん?」
「心配しすぎでしょ」
「私、
アイリーンがハテナ顔をする。
「サクラは外国からきたの?」
「うん。私の国では、魔獣とかいなかったし、危険度がいまいちわかんないから、イシルさん心配してくれるんだよ」
「えっ!そんな国があるの!?」
「うん」
魔法もない。
科学の発達した世界。
「心配なだけって感じじゃなかったけどね~」
アイリーンは あんな束縛男 お断りだという言葉をのみ込む。
(独占欲の塊のイシルと超鈍感サクラで 釣り合いがとれているのか。納得)
「あ!アイリーン、いた!まだダメですよ」
二人でぼんやり鍋の方を眺めていると、
リズがメジャーを持って走ってきた。
「あ、もう終わったと思ってた!ゴメンね」
てへっ、と、アイリーンがリズに笑う。
あんた誰?
まだでっかい猫を被っているんだね。
リズが アイリーンを採寸し、いそいそと 戻っていく。
「
ちょっと照れ臭そうにアイリーンが呟く。
「こんな可愛い服……着たことない」
結構気に入ってるんだね。
「リズとスノーの前では 自然体でいいんじゃない?」
「何言ってんのよ」
アイリーンがサクラを睨む。あんたバカなの?という目付きだ。
「
うん。でっかいエール工場みたよ。
外からだけど。
それで?
「兄貴が5人も居んのよ!」
おっと、狙いはそこでしたか。
「今夜の鍋の振舞いに来るはず」
アイリーンの拳に ぐっと力が入る。
狩りの準備ですか、やる気満々ですね。
「エールが
おお!なるほど!堅実だね、アイリーン。
農家の嫁でもいいんだ。
アイリーン、すっごい働くんだろうなぁ……
◇◆◇◆◇
さあ、始まりました!飲めや歌えや大宴会。
村人旅人入り乱れ、もう、誰が何処にいるのやら……
ランが 色んなところに顔を出しては 酒を貰いまくってるのを見たよ。
世渡り上手だな……
サンミも今日は店を閉めて飲んでる模様。
旦那さんと一緒に豪快にエールをあおってるよ。
ラルゴはイシルさんを探し回ってたけど、みつからなかったのかな?
モルガンや村長さんたちに酒を注がれまくっている。
サクラはというと、リズとスノーの家族に挨拶し、アイリーンの合コン(?)に巻き込まれそうになったのを回避し、鍋二種類ゲットして 逃れてきたところだ。
明日は
薬をもらうだけとはいえ、酒は控えたい。
早速水炊きをいただく。
(いただきます……ふーっ、ズズッ)
やっぱり鍋は まずはスープから。
(はぁ~///)
鶏白湯あっさりスープ。
冬の寒さにほっこり身に染みる。
お外だから さらにうまし!!
あの闘鶏からこんな濃厚なダシがでるとは!
″かぷっ……ぷりん″
「んんっ!?」
なんだこの弾力は!!
軍鶏肉にかぶりつくと、ぷりんとした弾力。
きめの細かい肉質……もっちもちだ!
もっち、もっち と口いっぱいに鶏肉と戦う。
″はむっ″
「うんっ?」
さらに肉をもうひとつ。
さっきと違う……コリコリしてる。
部位が違うのかな?さっきのは胸肉、これはモモ?
なんですかこの歯ごたえ!噛めば噛むほど染み出てくる旨味!
最高の品種!
これがあの凶悪なシャモア?
闘うニワトリは脂肪がすくない。
なのにゼラチン質が非常に豊富で、とってもヘルシー!
いかん、肉ばっかり食べてた。
野菜も食べる。春菊の苦味がいいわぁ~
水炊きといえばポン酢が欲しくなるところ。
でもいりませんよ。野菜の旨味もとけだし、グイグイくる味。
そのまま食べなきゃ勿体ない!
「ふは~///」
スープを飲み干し、味わい尽くす。
第二弾に突入します。
こちらは赤い鍋。
やっぱりスープからデショ。
(ふーっ、ズズッ)
「あ~///」
キター!禁断のジャガイモさんよ!
これはいわゆる カムジャタンだ。
ピリ辛味噌味に ジャガイモが溶けて とろっと……
「あったまる……」
口のなかにざらりとジャガイモのつぶが甘みを残す。
現世では 味噌汁にコチュジャンを加えて 即席チゲにしてたなぁ。
″はむっ″
軍鶏肉に甘辛味噌味。
「くふっ///」
手羽先の部分なのか、肉がほろっと溶けた。
負けてない……軍鶏肉の旨味も、甘辛味も、どっちも負けてない!
ジャガイモ、一個だけ食べよう。
″もくっ、ホロッ″
まったりと 口にとろける。
熱々で、肉じゃが風
うーわー!米が食いたい!!
キムチ、入れたい……
だがしかし、これ以上食べる訳にはイカン!
でも、残すわけにもイカン……
サクラはカムジャタン風鍋の器を前に 己の食欲と理性の狭間にはさまる。
「美味しそうに食べるね」
「え?」
いつの間にか、ランより少し年下風の男がサクラのとなりに座っていた。
「それ、食べないの?」
男は ニコニコ笑って サクラに話しかける。
可愛らしい顔立ちの いわゆるイケメンですね。
くりくりの瞳、ふわふわ天使の髪。やさしい顔立ち。
女の子のようなやわらかい雰囲気。
子犬を思わせるような男は 辛味噌鍋を食べたそうにしている。
「食べますか?」
食べかけですが。
「うん!」
男は サクラから器をもらうと、美味しそうに食べだした。
……誰?
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