第104話 俺達とダンジョンの茶会

「お待たせ、レディ達」

「んーっ! いい香りじゃ……」



 ケーキと淹れたての紅茶を配り、俺も席に着く。


 俺の右側にはロナという美少女が。左側には美しすぎるハーピィのお姉さんが。両手に花とはまさにこのこと。

 加えて二人とも髪の色が同じ紅色だ。情熱的な赤い薔薇バラ彷彿ほうふつとさせるぜ……。



「では、さっそく頂こう」



 お姉さんは紅茶を一口すすると、その瞬間、目をカッと見開いた。このレディは感情を目で表す癖があるな。



「じ、実に美味っ……! 茶葉も良いが、これはお主の腕の賜物か。なんじゃお主、茶店か何かをやっとるのか? ともすれば、相当な名店なのじゃろう」

「そこまで喜んでもらえて光栄だ。ただ、紅茶は単なる趣味だぜレディ」

「ほぉ! 趣味でよくここまで極めたものじゃ。……うむ、久方ぶりに口にするに相応しい茶だった。褒めてつかわすっ!」



 そう……ハーピィのお姉さんにベタ褒めされた瞬間、久しぶりに頭の中に文字が浮かんできた。



<称号獲得:【紅茶を極めし者】>

<能力進化:『料理上手』→『料理名人』>



 どうやら新しい称号の獲得に加え、料理の能力が成長したようだ。

 なぜこの場で一気に……。もしや、ダンジョンの魔物のトップに腕を認められたからか?


 前者は俺ならもうちょっと早く習得していても良かった気がするが、後者は単純に嬉しいな。今後、もっと美味しい料理を相棒に振る舞えるぜ。



「あ、あの……」

「なんじゃ、娘」

「気になることがあるんですが、お聞きしても……」

「おうおう、今の妾はお喋りしたい気分じゃ。なんでも聞くがよい」



 上機嫌なお姉さんはロナの問いに快く頷いた。

 たしかに、こんな貴重な機会は滅多にないだろうし聞きたいことは聞いておいた方がいいか。


 内容によっては人類が未だ解明していない謎なんかも判明したりするかも……ま、質問責めにしすぎて楽しいティータイムが損なわれないようにしなくちゃいけないがな。


 

「えっと、骨の剣士さんから私達のこと聞いたって言ってましたがダンジョンのボス同士で直接会ってお話ししてるんですか?」

「いや、妾達は各々の部屋から出れぬ。ゆえに魂みたいなのをビュンって飛ばしてやり取りしておるのじゃ、ビュンって。……妾もよくはわからん。だがそんな感じじゃ。ま、こんなことできるのは我々七柱のみじゃな」



 なるほど、この部屋から出られないなら、お姉さんが紅茶とケーキに喜ぶのも納得だ。

 でも、それならなんで紅茶を飲んだ経験は以前にもあるような口ぶりだったんだ? ここで生まれたわけではないってことなのか? 

 

 ……これは考え出したらキリがなさそうだ。


 それに、レディの過去を無駄に掘り返すのはノットジェントル。それは一応魔物ということになってる彼女に対しても変わらない。この疑問はここで切り上げておこう。



「じ、じゃあ……あの、もしできれば剣士さんに私達からのお礼を言ってもらうことってできますか?」

「ああ、そういえば娘は彼奴から剣を受け取ったのじゃったな。そんなに役に立ってるか。ま、確かにそんじゃそこらの武具とは比べ物にならんじゃろうが」

「はい! それに、ただそれだけじゃなくてあの剣士さんから私達が学んだものが多かったっていうか……」



 あの骨にお礼が言いたいとは、恩義を大切にするロナらしいな。

 でも確かにあの剣士から得たものは思えば決して少なくない。


 受け取ったこの帽子はすっかりロナに次ぐ相棒だと言っていいし、そもそもこれがなきゃ俺は弱体化以外何もできないしな。

 うん、ここはロナに便乗しておこう。バカと言われたことを気にしてないわけじゃあないが。



「そうだな。初めてのダンジョン攻略の相手だったし、俺の力の弱点に初めて気がついたのもアイツだ。おかげで俺たちの戦い方も決まった。そう考えると随分世話になったな」

「ほう」



 ハーピィのお姉さんはなぜか眉をしかめると、それから足と腕を組み、何かを考えるような素振りを見せた。

 機嫌が悪くなったというより、おそらくこれは……。



「……つまらぬ、彼奴だけ主らに感謝されるのは気に食わん。よし、妾も二人に一つずつ武具を分けてやるとしよう」 

「い、いいんですか⁉︎」



 やっぱり嫉妬か、しかし随分と景気の良い嫉妬だな。

 素直にプレゼントを受け取って、喜ぶ顔を見せた方が本人にとって良さそうだ。無論、俺たちにとっても。



「ああ、茶の礼もかねてな。そのかわり妾に対して深く、ふか~く感謝するがよい!」



 そう言って、まず彼女は自分の髪につけていた金色の髪飾りを外し、それをロナに渡した。

 不死鳥か、あるいはその翼をモチーフにしたデザインだと思われる。間違いなくロナに似合うはずだ。



「娘と妾の髪の色は同じ。お主に合うことは、付けなくともわかる。……元より、お主も同じような髪飾りをつけていたようじゃしな」

「わぁ! すごく嬉しいです、ありがとうございます!」

「ふふん! そうじゃろう、嬉しいじゃろう!」



 さっそくロナは元からつけていた、叔父がくれたと言う髪飾りを鞄へしまい、今もらったものへ付け替えた。

 もはや似合いすぎてなんの違和感もない。めっちゃ馴染んでいる。


 それにしてもこれ、宝具なのは間違いないよな? どんな効果があるのだろうか。

 ……まあ、でも鑑定はウチへ帰ったらにしよう。

 好意でもらったものを目の前で調べるのは紳士的じゃない。



「さて、次はお主じゃ」

「レディからのプレゼントはなんだって嬉しいぜ」

「ふふ、テキトーには渡さん。お主に非常に役立つものがある。……が今、妾の手元には無い。ここを出る時に箱の中に入れておいてやる。妾ほどになれば、ある程度は箱の中身もいじれるのじゃ。期待しておれ」

「わかった、楽しみにしておくぜレディ」



 なるほど、ハーピィのお姉さんが宝箱の中身をいじれるってことは、同格の骨の剣士もそうしたかもしれないな。

 <月光風斬>とか『ソーサ』とか俺たちにとって相性のいいものばっかりだったし。


 ここまで親切にしてもらったなら、もう、バカって言ったことは忘れてやっても……。



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