第95話 俺達と懸賞金

「それにしても驚いたのですよ、まさかロナちゃんが《竜星》の姪っ子さんだったなんて!」



 他愛のない雑談を交わしていた中、ザスターの話になった。


 なんでも、ブリギオがあの叔父さんと酒をよく飲む仲らしく、一昨日、ロナが姪であることや俺達に家を一件渡したことを彼に話したらしい。


 だからドロシア嬢とカカ嬢は、俺らがこの家に住み始めたことを把握し、ここまでやってこれたそうだ。


 たしかにブリギオは以前、竜族の友人が居ると言っていたような気がする。まさかそれがザスターだとは思わなかったぜ。

 あの堅物そうな見た目で、案外、顔が広いのもしれないな。



「彼には、私達もお世話になった……いろんな、意味で」

「やっぱ喧嘩売られたのか?」

「うん……一人ずつでも、パーティー全員でも、コテンパン」



 ほんとにSランク四人相手して一人でそれに打ち勝てるのか……やっぱトップクラスなだけあって異常な強さだなザスターは。


 でも、俺はまだステータスをフルに活かして彼が戦ってるところを見ていないんだよな。講義中に技だけなら見せてもらったが。

 いつか、お目にかかれることがあればいいなぁ。



「ご、ごめんなさい! 叔父の無理を聞かせちゃったみたいで」

「だいじょーぶ……良くも、してもらってるから。主にブリギオが」

「あの人は喧嘩屋さんだけど、それ以上に相当な世話好きなのですよ」



 それからも、叔父さんが主題のトークはしばらく続いた。

 ロナは自分の自慢の叔父の話題を故郷以外の人間と共有できるのが嬉しかったのか、それはもうニッコニコで喋りまくった。


 二週間前まで友達が一人として居ないと言っていたレディが、こうして俺以外と楽しく話をしている光景は、ちょっと寂しいが……正直ホッとする。


 この調子で徐々に友達を増やしていってほしいもんだ。

 その結果、俺がないがしろにされたとしても……いや、それはヤダな。嫉妬は紳士として見苦しいがかなりヤダな。うん。



「……あっ! 長居しすぎたのです!」



 しばらくして、ふとした様子で懐中時計を見たカカ嬢が慌ててそう言いだした。

 それに釣られて、ドロシア嬢も自分の時計を眺める。



「……そうだ、ね。予定より三十分」

「だ、大丈夫なんですか?」

「大した問題は、ないよ……。このあとの予定は、中心街でカカとお買い物、するだけ……今日は、そういう日」

「奇遇ですねっ! 私達もそうなんですよ」

「そうなのですか! じゃあお昼ご飯は四人で一緒にどうなのです?」

「おお、いいね。是非、ご一緒させてもらおう……!」

「じゃ、そう……しよっか」



 や……やったぜ!

 まさか紅茶だけでなく、ランチまでレディ達と共にできるとは。

 それもこれも、普段の俺の行いが良いからこそだろう。紳士を貫くって素晴らしいな、やっぱ。



「でも、行く前に……本題」

「そうなのです、アタシ達、ただ遊びに来たわけじゃないのですよー。ちゃんとした用事があるのです……んしょっと」



 カカ嬢は腰につけていた物入れから、ちょっとした細工が見られる特別な巾着袋を取り出した。


 『大金貨袋』。

 数千万ベル単位のを取引するときに用いられ、大金貨(一つ十万ベル)がちょうど百枚まで入るようになっている代物だ。


 袋の中のカネの金額が一千万ベルぴったりにならないと、巾着の口を閉じられないというシステムも備わっている。

 

 そしてカカ嬢が持つそれは、しっかりと口が閉じられていた。

 つまり、あの中には確実に一千万ベルが入っているということになるな。


 で、最終的に彼女はそれを合計で六つも出し……。

 さらに加えて五百万ベル分となる『半大金貨袋』一つと、大金貨十枚をそのまま机の上に乗せた。



「ふぅ。占めて六千六百万ベル。受け取ってほしいのですよ!」

「な、なんですかこれ⁉︎」

「うん。今から、訳を話す……よ」



 ドロシア嬢が、この謎の大金についての説明をし始めた。

 まず、これは《大物狩り》を倒したことによる懸賞金けんしょうきんなのだとか。


 ……俺達が奴に襲われ逆に返り討ちにしてやった、その前日。


 AランクやSランクの実力者ばかりが襲われ、宝具を奪われている事態を重く見たこの国のお偉いさんや、ギルド・傭兵の組合は《大物狩り》に賞金をかけたのだと言う。


 それこそがこの六千六百万ベルの正体という訳だ。


 しかしその手配書を刷り、大々的に公開するよりも前に奴が俺たちによって捕らえられたため、世間にはこの賞金の存在は知らされなかったらしい。

 

 で、それが昨日、表向きには手柄を立てたことになっている『ヘレストロイア』の四人の元に律儀に届いた。


 そしてさらに実際に奴を討伐したのは俺とロナのため、彼女らも律儀にその六千六百万ベルをそのままそっくり俺たちに渡すことにした……ってな感じだ。



「な、なるほど。そんなことが……!」

「だから、これは、ザン君とロナちゃんが……受け取るべき、正当な報酬。おさめて」

「……ああ、そういうことなら素直に受け取っておくぜ」



 思ってもみなかった、完全に予想外の臨時収入だ……いや、臨時の収入にしては大金すぎるって。

 先日、古道具屋のエルフの老婦人と二枚目の『トレジア』の取引が無事に終わり、八千万ベルをふところにおさめたばっかりだってのに。


 この短期間で、合計一億四千万ベル強か。しかも、もう家も買わなくて済んだときたもんだ。

 節約すれば二人で二十年弱は何もしなくとも暮らしていけるな。

 


「とにかく、わざわざありがとよ」

「ううん、お礼を言うべきなのはこちらなのですよ。……アタシ達も、いつかしっかりとお礼をしなきゃなのです」

「そう、『呪わせてしまった小僧に解散の危機だけでなく、命まで救われて恥ずかしくないのか、情けないぞ貴様らッ!』って、《竜星》に怒られた。ブリギオが。私達も、その通り……実際そう思ってる」



 ああ、たしかにあの人ならそう説教するだろう。簡単に想像できる。

 ただ本人達もそう思ってるのに、代表して叔父さんからお叱りを無駄に受けたブリギオはちょっとかわいそうかもな。


 俺としちゃ、至高のジェントルマンとして当然のことをクールにこなしただけだから礼なんて不要だ。

 でもな、少なくともそれを態度で示してくれる人達は信用に値することは確かだ。


 ああ、そうだ。

 信用できる人でいてくれる……もしかしたら、これが一番のお礼なのかもしれない。

 大金よりも価値があるものだろうぜ。



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