第72話 俺達と査定結果

「それでは、査定の方に移りたいと思いますー。少々この場でお待ちください」

「ああ、よろしく頼んだ」



 鑑定士は白い手袋をつけると、『トレジア』を丁寧に手に取って眺め始めた。

 広げたり、裏返してみたり、職人っぽい片眼鏡モノクルらしき器具まで着けてじーっくりと。


 一方で黒鍵の方は全然見なかったが……そうこうして五分ほど経った頃に、彼は作業を止めた。どうやら結果が出たようだ。



「えー、お待たせしました。査定が終わりました。売却は未定で結果だけとのことですが……まず、こちらの『トレジア』からですねー」

「は、はいっ」

「ほぼ新品で、かなりの美品となっておりまして、加えて近年、高ランクの冒険者の方々に需要が高い一品ですので……こちら七千八百万ベルとー、なりますねー」

「おおぉ……!」

「じゃあ、鍵の方は?」

「実は『解呪の黒鍵』は。残り回数で値段が決まるんですよねー。一律で一回分につき一千万ベル。お持ちいただいたものは三回ですので、三千万ベルとなります」

「ああ、だから黒鍵は『トレジア』ほど調べなかったのか」

「ええ、おっしゃる通りですー」



 そうかぁ……贔屓ひいきにしてるあの店主が言った額とほぼ同じか。彼は古い情報だとか言ってたが、そうでもなかったようだ。


 となると、どこにもって行っても大体同じ結果になりそうだな。

 ま、今回は初めての試みだから予定通り、あの店主教えてもらった店にも行ってみるが。



「それでー、いかがでしょ? このまま売却するというのは……」

「もう少し考えてみるよ。三日以内に来なかったら売らないんだなと思ってくれ」

「さようですかー、承知いたしました」

「じゃあ今日はこの辺で。ありがとう、参考になったよ」

「あ、終わりなんだね? ありがとうございました!」

「またのご利用をお待ちしておりますー。ささ、どうぞ」



 お礼を言いつつ俺とロナがソファから立とうとすると、鑑定士は素早く先じて動き、扉を開けてくれた。


 国家鑑定士って鑑定の勉強に加えてマナーやら礼儀やらも叩き込まれてるんだろうから、大変そうな仕事だよな。


 あ、そうだ。最後にこれだけ言っておくか。



「忘れてた。去る前に最後にお願いがあるんだが……俺の【呪い無効】についてはくれぐれも秘密にな」

「ご安心ください、我々は守秘義務がありますのでー」

「頼んだぜ」



 こうして今回のここでの用は済んだので、俺達は二号室から退出し、取引所もとい第五番館から外に出た。


 時刻は午後一時を少し過ぎている。だが、ランチタイムとしては許容範囲内だろう。



「色々あるが……ひとまず、食事にしないか?」

「うん、そだね!」



 さて、俺はこの近辺にある店について詳しくないからな。

 午後二時になる前に、ロナの微笑む顔が見られるような美味くて高すぎない料理屋が見つかればいいが……。



◆◆◆



「──── というわけだ。悪かった、説明不足で困惑させてしまったな」

「ううん、大丈夫だよ! 私の方こそ交渉とか取引とか……頭使うこと、いつも任せっきりでごめんね? 私なら絶対そのまま、『ダンジョン攻略してます』って答えちゃってたなー」



 美術館から離れ、黄色い屋根の店の店主から紹介された宝具の店の近辺を探し、ロナの興味を引いたので入った、牛魔物ステーキの専門店にて。

 俺は、頼んだステーキが来る間に、彼女に鑑定士への説明で驚かせてしまったことに対する謝罪を済ませることができた。


 ロナの性格上、怒りはしないだろうとは思っていたが、逆に謝られるとはな。なんと寛容な心……まさに淑女レディだ。



「俺は、俺なりにできることをしているだけだしな。謝られることじゃないさ。……で、もし今後、俺の秘密を知ってる人間以外に宝具の出所でどころを訊かれたら、ああ答えてもいいかな?」

「うん、それがいいよ。あ、でもそうすると私、なんでザンの隣にいるんだろって思われないかな……? 宝箱開けるのはザン一人でできるわけだし?」

「それは護衛って名目でいいだろう。宝具を大量にもってるのに、呪われた身で無防備な方が不自然だからな」

「ああ~、なるほど! やっぱりザンは頭いいね!」

「はは、そうか? ……と、ステーキのお出ましだな」



 運ばれてきたのは角切りステーキのランチセット(ガーリックチップ抜き)一つと、総計5Kキロのステーキ、大盛りポテトサラダ付きだ。……もちろん前者が俺のだ。


 しかし……5K分の肉ってのはこう、見た目のインパクトがすごいな。料理の皿がずらっと並ぶのとはまた違う凄みがある。ちなみに値段ももの凄かったぞ。


 そしていつも通り、ロナは店中の視線を集めてる。そろそろこの王都中で大食いクイーンとして有名になる日も近いんじゃなかろうか。

 もしそうなったら……ぜひ、本人の可憐な美貌にも注目してほしいものだ。



「いただきま……ぱくっ。んー、おいしいっ……! こういう肉肉しいの、私大好き!」

「そうか。でも俺はやっぱ、美味しそうにいっぱい食べるロナの表情の方が好きだぜ」

「……っ! あむっ。そ、そう……? そうかぁ……えへへ……そっか、えへへへ……あむあむ」



 好物を食べて幸せそうな顔、褒められて照れてる顔、それらが重なりあいつつも食事の手は止まっていない。

 家を買うんだったらステーキショップが近くにないかも考慮すべきだろうか……?

 

 


=====


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