◆ ロナとファッション 前編

「とりあえず一軒目はここだな」



 宿を出てから、俺達は婦人服屋へと辿り着いた。

 この店の他にもあと三軒くらい把握しているが、ロナの好みのものが一番多いのはおそらくここだろう。


 ロナは何故か首を傾げている。



「一軒目……? 私の服だけで他に何軒かまわるつもりなの?」

「ああ、そういうもんじゃないか?」

「都会ってそうなんだ。私達は服専門の行商の人から買ったり、王都から帰郷してきた人のお土産としてもらったり……って感じだったから、よくわかんないや」



 ……実は俺もなんだ。

 服はお土産や行商人頼りってことは流石になかったが、村に服屋は二、三軒しかなかった。


 俺が村から持ってきた服だって、仕立て屋のご婦人に、俺の好みの服を着た登場人物が居る本の挿絵を見せながら特注で作ってもらったものだ。既存品の中には俺好みのが少なかったからな。


 その挿絵を基準に色や軽微な装飾だけ変えてもらいながら、似たようなものを計五着。(一着、骸骨との戦いでボロボロになったが)

 俺が今まで使っていた防具だって、デザインがそれ基準であしらわれたものだしな。


 だから正直、俺もよくわからん。

 ただ、ただ、レディを紳士的にエスコートするために勉強はしてきたつもりだ。



「ま、まぁ……ここに来るまでに何軒か服屋を見ただろ? そんなたくさんあるってことは、そういうことなんだぜ。ま、ここだけで決まりきればそれで問題ないがな。何セット買うつもりなんだ?」

「あぁ、なるほどね! うん、今は服が四日分、下着が二日分あるから、それぞれ一週間分になるように、かな? いや、下着はもっと余分に買っておこうかな……」


 

 昨日の夜聞いた話だが、ロナは元々、故郷からこの王都に来る際に持ってきた衣服は三日分であったらしい。

 そのうちワンセットが《大物狩り》の件でボロボロになったんだ。


 やっぱり、やけに故郷から出るにしては準備が足りなさすぎる気がするな。人それぞれだろうが……考えすぎか?


 まあ、それはさておき。加えて私服が減ったロナを思ってカカ嬢とドロシア嬢からギルドに居る間にお古を一着ずつくれたようだ。


 ……カカ状のスタイルのものが、ロナにも入るんだ。

 ありとあらゆる箇所のサイズが違いすぎるのにな……これは勝手にサイズを合わせる効果がある故にできることだ。

 職人の技術ってのはすごいな。


 また、ロナの持つボトムスは全てスカート、あるいはワンピースであり、それも膝丈未満の長さのものはない。

 やはり、竜族の尻尾との兼ね合いで、丈が短すぎるものは着れないのかもしれない。


 あ、あとトップスも胸元が空いていたり、肩出し、へそだしなんてのも一切ない。総じて、露出がほとんどないものばっかりだ。



「よ、よぉし……入るよっ」

「ああ」



 俺がジェントルに扉を開けると、鈴の音がカランコロンと心地よく響く。

 ロナは気張った表情を見せながら、俺に小さくお礼を言いつつ、中に入った。


 窓から見てわかっていたことだが、店員さんは全員レディだ。服装ももちろん、とても洒落ている。

 店の雰囲気や炊いている香も女性好みのもの……こういう雰囲気、俺はかなり好きだぜ。



「いらっしゃいませー! ……ぅわぁ! かっわい……エルフ族? じゃない、え、竜族ですかぁ⁉︎」

「は、はい! そうです……」

「ほんとだ、可愛いっ! エルフ族みたい! ね、店長!」

「ええ……珍しいし、素晴らしいわ」

「いや、いや、そんなっ。えへへ……」



 店員さん達がロナを取り囲み、囃し立てる。世辞を言っている訳じゃないのはわかるな。

 しかし、相変わらず褒められ慣れないロナはさっきの気張りは何処へやら、いつもみたいにオドオドし始めた。



「長年この店やってるけど、竜族の女の子なんて初めて見たわ。彼氏さんと一緒に選びに来たのかしら……ふふっ」

「か、彼氏……! ま、まだ、そんなんじゃないんですけれど……えっと、はい、その、あのぉ」

「あー……では俺から。この子は今月、故郷からこの街に来たばかりで、この王都に住む準備をしている最中でね。着る服も少ない状態だから3セットほど着る物を探しに来たってわけさ。ちなみに俺は、ちょっとシャイな彼女のための付き添いなんだよ」

「へー、そう……なるほどねぇ……」

「あ、あと……し、下着も……」

「ふんふん、わかったわ。それじゃあ上京ガールにファッションを叩き込んであげようかしら。とりあえずご要望はこっちでお聞きするわ。ついてきなさい。あと坊やも、彼女のファッションショー、ご覧になるでしょ?」

「ああ、ぜひ見させてもらうぜ」

「えっ、あっ……」



 ロナはこの店の店主にどこかへ連れ去られていった。

 どんな姿になって戻ってくるか楽しみだな。



「ねぇ、帽子のお兄さん。あんな可愛い子、どこで見つけたんですかぁ?」 


 

 販売員のレディがニヤッとしながらそう話しかけてくる。

 説明が難しい。



「たまたま知り合ったんだ、たまたまな。思えば中々運命的な出会いだったよ」

「ひゅー、キザぁ〜。でもお兄さん、実はウブでしょ、違う? あの子が……言い間違いなのか、わざとなのか知らないけど、『まだ』そんな関係じゃないって言った時、眉毛ピクピク動いてたよー」

「はは、まぁ……あれだけ美しければね。気にはなるさ」



 慌ててる最中のロナのことだから多分、深い意味を持って発言していないが、そこそこ気にしてたところを突っ込まれるとは。

 俺もまだまだ未熟だな。



「あ、戻ってきましたよ〜」



 早いな。








=====


実はもう第二部の序盤の構想は練り終えたのでかき始めたいんですが、えぇ、見ての通り閑話がいいところでして。

中々始められないですねぇ。


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