第44話 俺達と頭痛

「ロナっ‼︎」



 椅子から落ちそうになる彼女の身体を俺は慌てて支えた。


 歯を食いしばり、手で顔を抑え、強く目をつむっているロナを見るにおそらくリオとブリギオと同じ激しい頭痛に見舞われているのだろう。


 しかしこのフラフラとした動き、俺はどこかで……。



「うぐ……はぁはぁ……んぅ……」

「大丈夫か、痛むか」

「ん……!」



 俺にもたれかかったまま、ロナは痛みを耐えるように俺の肩を力強く握りしめる。

 ……はずなのに、俺の肩は壊れない。痛くもない。


 本来ならばロナが本気で俺を掴んだら、骨が砕けてもおかしくないはずだ。

 となると、頭痛がするだけでなく身体の力まで抜けているのか。



「こ、これは……むぅ」

「うぷっ……。ま、まさか……! なぜなのです⁉︎」

「おいおいおい……」



 ドロシア嬢とカカ嬢が二人揃って顔を青くし、まるで吐き気に耐えるかのように自分の口を抑えた。

 ついにこの二人までがやられたのか。

 ただ、他三人のようにうずくまるほどの苦痛ではないようだ。

 

 ……ふぅ。よし、落ち着け俺。

 クレバーに……そうだ、冷静に分析しろ。考えるのは得意なはずだ。今まともに思考できそうなのは俺だけなのだから、ここは俺が何とかしなければ。


 まず頭痛や吐き気に見舞われているのは俺以外のこの場にいる人物のみのようだ。


 このベンチは街から少し奥まった場所にあり、出入り口通路はひとつしかない。

 その通路から人々の行き交いが見えるが、誰もこの五人のように気分を悪くしているようにはみえない。


 いや、そもそもだ。


 明らかに倒れている男が二人も居るのに、なぜ誰もこちらを見ない? 

 普通は助けに来ずともせめて目線をこちらに向けるくらいはするはずだ。

 親切心だとかは関係なく、人は非日常な状況に目がつられるもの。

 俺が犬族の少女を助けた時だって、野次馬があれほど集まっていたのだから、それが普通だ。


 となると、通路の間に俺たちだけが見えなくなるような壁か何かがあるのだと考えられるよな……。


 これらは何者かによる攻撃、しかもわざわざ俺達を狙ったものであることは確定でいいだろう。


 次に、五人が陥っている症状はなにか……だが。

 ロナ、リオ、ブリギオの三人が重症で、ドロシア嬢とカカ嬢の二人はその三人に比べたらまだマシな状況とみれる。


 この差は性別ではないだろう。間違いなくロナは立派にレディだし。

 となれば、重症の三人が近接戦闘するタイプで、マシな二人は魔法が得意なタイプであることに関係があるか? 


 『ヘレストロイア』の四人の役職のことはよく知らないが、カカ嬢はさっき俺にかなり効果が高いであろう回復魔法を使ってくれたし、二人ともリオやブリギオのように金属の装備品をあまりつけていない。おそらくそれで合っているはずだ。


 近接戦闘するタイプと、魔法を使うタイプ、この二組に差があるとしたら……例えば魔力の使う頻度だろうか。

 見えない何者かは、魔力に関わる何かしらの攻撃をしたという風に考えることができるかもしれない。


 ……あ、そうだ。

 さっきロナを支えた時に感じたあの既視感は、魔力の欠乏によるフラつきに近かった。


 そうだよ。それなら立てられる仮説は、こうなるんじゃないか?


 相手の攻撃は魔力を一気に減らすものであり、近接タイプの三人はその影響を強く受け、酷い激痛に見舞われている。

 そして普段からよく魔法を使い、おそらく魔力が足りない症状に能力などである程度抵抗がある二人は倒れずに済んだ……と。


 さらに、俺に全く影響がないのは、そもそも魔力がほとんどない上に【最弱の呪い】でその数値が変わることもないからだとすれば、辻褄が合うな。


 ……はは、まあ、そんなこと考えたところで、動けるのが俺だけなのは変わらないんだけどな。


 そうだ。むしろ仮説通りなら五人を守るのは尚更、俺にしかできない。

 ここはエレガントに、騎士のように、レディ達とその他二人を守ろうじゃないか……なあ、俺という紳士よ。


 とりあえず、こんな状況を作りやがった犯人、そいつが姿さえ俺に見せれば、『強制互角』を発動できる。

 その条件を整えるなら、油断を誘うのが一番か?



「ぐ、ぐおおお……お、俺もォ⁉︎」


 

 俺は『シューノ』に手を突っ込み、皆んなを守るための『バイルト』と、迎え撃つための『ハムン』を掴みつつ、もたれかかってきていたロナの上半身をベンチの背もたれの方に預けながら、全身の力を抜いて、へたりこんだ。

 


「うおー、ぐおー」

「う、そ……ざ……ん……まで……」

「み、みんな……はぁはぁ……こ、これ魔力欠乏症なのですよ……!」

「ま……ぢ、か……おぇ……」

「な、……い、い、きなり……!」



 さあ、どう出る。

 さあ、どう来る。


 内心で汗をかきつつ、そう考えている間に……。

 このベンチから左に離れた場所に、瞬間的に何者かが出現した。


 ああ、何もない空間からいきなりだった。

 俺は決して瞬きなどはしていない、間違いなく瞬間的にその場に現れたんだ。



「フハハハハハハハ、イイ、イイですよ、過去一番の大量です!」



 大きな笑い声をあげながら、俺達の前に姿を現したそれは。


 全身が黒づくめのローブで覆われており、頭部は不自然なほどに長くトンガっている。


 ローブの影で顔は見えず、声も魔法が何かで加工しており。


 片手には三角の筒の形をした、螺旋模様のついた短槍を携えていた。



「運がいい、運がいいですよ、ええ。こんなに上手くいくとは。大人しく……いや、大人しくせざるおえないこの場で、存分に狩られなさい、ヘレストロイアとその他よ」



 こりゃあ間違いないだろうな。

 昨日店主が言ってたあれだ、《大物狩り》とかいう盗人ぬすっとだ。


 AランクやSランクの実力者ばかりを襲って、意識不明の重体にし、アイテムを狩っている。そんな、大犯罪者やべーやつ……。















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