第35話 俺達と取引 中編

「こちらです」

「こういうお店の裏って、こうなってるんだぁ」



 俺達は店主に連れられ、店の地下室にやってきた。

 そして厳重に鎖が巻かれ、他のアイテムとは明らかに隔離されて置いてある四つのパンドラの箱の前に立つ。


 ガッチガチに固定して多少の衝撃じゃ絶対に開かないようにしているのだとか。

 ま、人によっては爆弾以上の危険物だ。これくらいして当然なんだろうな。



「少し前までは六つあったのですが開封屋の予約が取れたお客様が購入なさっていきました。それでもまだ四つ……」

「開けられてないこの箱を、これだけ身近に置いておくのって、こわいですよね」

「そうです、その通りではあるんですがね」



 開けられてないパンドラの箱は、こういう店にとっては基本的に厄介者以外の何者でもないらしい。


 客からの買取価格の相場は数百万、しかし買い取った後は危険が付き纏い、国の法律で安易に捨てることもできず、『呪い無効』もちの人間が希少なため、中々さばくこともできない。


 ゆえに買取拒否してる店も多いようだ。

 ただ、この店の店主は全部わかった上でより利益を求め、半ば賭けのつもりでこうして引き取っているらしい。


 強欲と言うべきなのか、客に優しいと言うべきなのか。

 しかしその賭けは成功し、こうして俺という人間が現れたわけだ。

 そういうハートフルなのは嫌いじゃないぜ。



「あれ、でも専門の箱を開ける人って、昔聞いた話だと、一箱につき一千万ベルくらい貰うらしいけど……あの、全部で四千万ベル、ザンに支払うってことですか? お願いじゃなくて依頼って言ってましたし」



 ロナが小首を傾げながら店主にそう訊いた。

 またSランクの親戚の情報か。ロナもよく覚えてるものだぜ。

 しかし、店主は軽く首を振った。



「ええ、その通りです。ただ、一千万は流石にかなり高いですな。本来は八百万ベル前後が普通です。……それでも三千万越え、流石にそれだけの手持ちはありません。そのため今から一ヶ月後にお願いしたいなと……」



 ふむ。待てよ、何かいい代案が思いつきそうだ。クレバーにな。


 正直、俺達は三千万ベル稼ごうと思えば、ダンジョンを二つくらいクリアして、宝具含め手に入れたもの全部売却してしまえば簡単に達成できるだろう。


 ああ、宝具ってのはいい。

 当たりだったら強力な逸品だし、いらなければ基本的に百万ベルを下らせることなく換金できる。

 下手をすれば数億得られる場合もあるはずだ、たぶん。


 ならば、大金より宝具が貰えた方が得なんじゃないか?

 だから、そうだな。こんなのはどうだろうか──。



「いや、まて。今すぐ全部タダで開けてもい」

「な、なんと⁉︎」

「え⁉︎ いつもの紳士だから……ってやつ?」

「はは、俺はたしかに紳士だが、流石に打算がないわけじゃないぜ。そもそも俺が無償の愛を振り撒くのはレディに対してのみだからな」

「そ、そうなんだ」

「うん、つまり俺たちにもそれ相応の利益が出るような取引を思いついたんだ。およそ三千二百万ベルをチャラにする代わりに……その宝箱の半分を、丸ごと俺達にくれないか?」



 そう問うと、店主は数秒考えこんだ後、首を軽く揺らしながら答え始めた。

 中々早い返事だ。



「よろしい! ではそうしましょう」

「いいんですか?」

「ふほほ。ええ、非常に良い提案ですよ」



 それもそのはず。


 パンドラの箱は数百万で取引されるため、店主が四つ手に入れるまでに、一千万ベル、いや、もっと費やした可能性がある。


 加えてそこに三千万強だ。合計すると洒落にならない金額だろう。

 だが、この提案はそんな大幅な追加の出費がなくなる。


 得られる宝具が本来の半分になるのは事実だ。


 だが逆に彼から見ると、パンドラの箱そのもの四つ分の代金だけで、安全かつ確実に、虹の宝箱二箱分も宝具が手に入ると捉えられるってわけだな。


 一ヶ月も危険物を身近に置いておかなくていいと言うオマケ付きで。

 ……ま、店主の性格からしてそれは気にしてないかも知れないが。


 そして下手に断ればこの俺こと、『呪い無効』を持ってる貴重な人脈から愛想をつかれてしまうのでは、という懸念だってあるだろう。


 ふっ……だから高い確率でこの話を飲んでくれると踏んでいたぜ。そして思った通りになった。

 いやー、俺ってやっぱり紳士的かつ最高にクレバーだなぁ。



「じゃあどう分けるの? 右半分と、左半分みたいな感じ?」

「そうするか」

「ええ、そうしましょう。ロナさん、もし良ければそのまま選んでいただきたく」

「ああ、俺達のような商人組は、利益の追求を求めて選ぶのに時間がかかるかも知れない。ここはロナが直感でビシッと決めてくれ」

「えぇっ⁉︎」



 俺と店主の二人から指名されたロナは、黄色い目を大きく見開き、アワアワと口を開けてうろたえる。


 ノットジェントルでイジワルなお願いだったか? だが効率的に考えたら第三者に任せるのが一番だしな。


 いや、それより。

 やっぱりこうして慌てると、愛玩魔物みたいな可愛さを放つのが見てて癒されるんだ……。竜だけど。

 


「ぇええ……。でも……うん、わ、わわわ、わかったよぉ……。じ、じゃあザンが……うーんと、うーーんと……右半分で!」

「オーケイ」

「では私が左半分を」



 それから俺は、店主から鎖を止めている錠前の鍵を受け取って箱達の前に立ち、左右二手に分けた。

 その後、二人には別室に移動してもらう。


 俺以外の安全が確保できたところで、一つずつ、巻かれている鎖を精密操作の練習がてら指輪で操って剥いていき、十数分後には、立派に禍々しさを放ついつでも開けられる状態のパンドラの箱を揃えることができた。


 ……俺はこの呪いの塊達を、四つ一気に解き放つ。



「ぐっ……ぅおおおおおッ……⁉︎ おえ、ゲホッ……ゲホッゴホッ……おぐぉ⁉︎」



 好奇心で同時開けを試してみたが、予想通り、全ての一煙が一斉に入り込んできた。


 吐きそう。気分が悪い。ひとつずつ開ければよかった。

 予想してた上での行為だから尚更バカっぽい。

 クレバーのクの字もないよな、うん。反省しよ。

 

 で、今回無効化された呪いの数は十七つ。

 すごい数だが、昨日よりなんとも思わない。

 ……そして。



<称号獲得:【呪いを喰らいし者】>



 なんか追加された。

 いや、俺は呪いを食ってるつもりなんて全くないぞ? 

 たしかに口からも大量に入ってきたけどな……。






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