第19話 俺達の目標

「ところでな、ロナ。他にこのまま話し合いたいことが二つほどあるんだ。だからもうしばらく話に付き合ってほしい」

「うんうん、いいよ」

「悪いな。じゃあ、まず俺達の活動内容と目的や目標を決めたいと思ってるんだ。二人揃って特に何もせずブラブラして、ただの甲斐性なしになるのは嫌だから、な」



 これは、俺とロナがこのまま一緒に活動していくと言うのなら、さきほどまでの注意と同じくらい大切なことだろう。ロナも頷きながら眉を顰ひそめている。



「たしかに……それは嫌かも」

「それじゃあちょっと、スムーズに進めるために記録するものとってくるぜ」



 心惜しいが、俺は握られたままだったロナの両手をほどいた。そして立ち上がって自分の鞄を漁り、その中から羊皮紙と簡易的なペンを取り出す。


 元々こうなる前から、冒険者になるにしろ、それがダメで他の道を進むにしろ、情報を保持するってのは大事なことだと理解していた。そのため、故郷から出る際にこのように多めに筆記用具を持ってきていたんだ。立派な紳士は備えを欠かさないのさ。


 今回はこれから話し合うことを今後も見直しやすいよう、これに書き込んでいくってわけだな。


 俺は紙とペンをもって再びロナの前の席に戻った。



「ってなわけで、俺たちはどうする? 前提として……」



 二人揃ってどこかギルドに身を置いて冒険者になるのか、はたまた傭兵みたいな別の何かに所属するのか、あるいはフリーで仕事するのか。そして二人で何のために稼ぎ、最終的に何がしたいのか。それぞれきちんと決めなくてはならないとロナに告げた。すると彼女はすぐに一つの答えを出した。



「私達の活動内容はダンジョン攻略でいいと思うな! 昨日みたいに、ザンほど楽にダンジョンを進められる人なんていないもの。せっかく地図とか羅針盤もあるし」

「ああ、そうだな。その通りだ。俺もそう考えていた」



 まあ、これに関しては俺たちが解散しないとなった時点で決まっていたようなものだったろうか。


 まず冒険者として依頼をこなすなり、傭兵のように戦争に赴くなりの仕事をするとして、わざわざ人から仕事を受けてそれらをこなし、数万から数十万ベルの報酬を受け取るってのは俺たちにとってかなり効率が悪い。


 ダンジョン攻略により、下手すれば一日で数百万か数千万ベル手に入れられるのなら、それを専門にしない時点で悪手と言わざるを得ないだろう。


 ロナはこのことに関してさらに意見があるようで、うんうんと頷きながら話を続けた。



「それと、ダンジョン攻略専門でも、賞金稼ぎの組合や冒険者ギルドに入るのはやめといてフリーの方がいいよね……? 例えば皆んながザンの強さに気がついて、たくさんの人にザンが仕事とかダンジョンに誘われるようになって、せっかくコンビなのに一緒に中々居られなくなったりするかも……! あと、活躍しすぎるとギルドから変にお仕事増やされたりなんて……!」



 ……正直な話。

 どこかに所属すれば、女の子達からチヤホヤされレディの知人友人が増え、さらに故郷にも轟くほどの有名人になるっていう俺本来の目標が叶えられるかもしれない。


 だからロナの言うような、ロナ以外の人から仕事やダンジョン攻略に誘われたり、ギルドから仕事増やされたりして忙しくなるというのは、俺にとってはむしろ好都合なんだ。


 だがしかし。ロナの立場になって考えてみるとだ。


 彼女は一昨日、俺と出会う前に多くのギルドから【究極大器晩成】のせいで加入を断られているといっていた。生きるために必死だったこともあって、すでにこの街の大半のギルドを廻っている可能性が高いだろう。


 無所属の活動で十分なこの状況。彼女にとってわざわざ恥ずかしい思いをしてまで、どこかのギルドに二回目となる加入申請をする利点がまるで無いわけだ。


 となれば。俺のチヤホヤされたいという邪な願望が理由で、彼女に辛い思いをさせるわけにはいかない。それは、あまりにも紳士的じゃ無い。つまりここはロナの言う通りにするのがベスト。


 それになにより。ロナのような美少女が俺と二人だけで居たがってると捉えてみれば、最高じゃないか?



「ああ……。確かにその方がいいよな!」

「うんうん!」

「じゃ、これで決定だ」



 用意した羊皮紙のうち一枚に書いておいた、適当に決めた『俺とロナの活動』という題名のその下に、『内容はフリーのダンジョン攻略家』と記入した。よし、じゃあ次を決めよう。



「こう決まったなら、今度は俺達二人の目標の方なんだが……俺に一つ提案がある」

「ふむふむ」

「そしてその提案をする前に訊きたいことがある」

「うん、なーに?」

「冒険者や傭兵や騎士みたいな戦うことの専門家でいう、Sランクの基準をイマイチ把握しきれてないんだ。たぶんレベルや星が重要なんだろ? どのくらい必要なのかわかるか?」



 星の数がランク分けをする時に指標にしやすいってのは簡単に想像がつく。竜族の大半が冒険者や傭兵だと言うし、ダンジョンにもある程度知識があったロナならその基準を知っているはずだ。そして案の定、彼女は問いにあっさりと答えてくれた。



「えーっと、だいたい星四つ半ばから星五つだね!」

「ありがとう。じゃあ、わかりやすく星五つがいいか……」

「ん……?」

「なに、簡単な話だ。つまりロナをSランク相当の強さにするのなんて、目標としてどうかなと思ってるんだよ。せっかく魔物を楽に倒しやすい状況なんだしな」

「な、なるほど……」



 実にシンプルでわかりやすい、しかし目指し甲斐のある目標だろう。俺のステータスの数値はもう二度と上がらないから、その分、ロナを強くするのに尽力できるしな。


 そして、そのうちロナが一人でも活躍して、俺の力を借りて育ったみたいなことを広めてくれれば、俺のレディ達からチヤホヤされる目標もついでに達成できるかもしれない。



「でも、すごく時間かかるかもよ?」

「なに、目標は目標だ。到達することより目指すことに意味があるのさ」

「たしかにそうだね! うん、私がSランクなんて想像したこともなかったけど……いいね! すごくいいよ、その目標!」

「だろ?」



 この提案が受け入れられてもらえて何よりだ。強くなることに竜族の血が騒いでいるのか、それとも自分がSランクとなった時の達成感を思い描いたのか、ロナは瞳孔を見開きテンション上げ上げになっているぜ。



「すごく頑張れそう……!」

「いいぜ、その調子だ」

「ところで! 私も一応、これを目的にしたらいいんじゃないかなっていうの思い浮かんだんだけれど……」

「おお、どんどん言ってくれ」



 そう告げると、ロナはニコニコしながらこう言った。



「うん! 私達二人用の、一緒に住める共同の家を買う……そのための貯金をするっていうのはどうかな?」



 俺は耳を疑った。








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