第16話 俺と解散の話
さっそく俺はロナに、俺の魔力について立てた仮説を話してみた。
「ま、魔力無限……⁉︎ そんなことが実現するなんて……」
「まあ、呪いと宝具を掛け合わせてこんなことになるなんて普通思わないよな」
「う、うん! こうなったらその指輪もザンが持っていたほうがいいよ、絶対! たぶんザンなら使いこなせる!」
かなり興奮気味に、ロナはそう言った。となると指輪も俺のものになったわけだ。まだはっきりとした有用な使い道があんまりわからないが、まあ、この俺ならそのうちなんとかするだろう。
これで俺が持っている宝具の数は、既に使用した能力の札を含めて全部で七つ。……まさかあんな呪われた状態からたった一日でこうなるなんて誰が想像できただろうか。
正直、今こうして美少女が目の前にいるのと合わせて夢なんじゃないかと思えてしまう。骸骨からの風の弾は普通に痛かったから確実に夢ではないが。ふっ……やはり俺と言う存在は運が圧倒的に味方してくれているようだな!
ただ、一方でロナが所持している宝具は二つだけとなってしまった。本来ならば俺なんかよりロナを優先させたいが……じゃあ俺がもらったアイテムの中で彼女に何を差し出せるかと自問しても、何も浮かばない。ロナ自身も大いに納得しているし、それだけこの配分結果は綺麗なんだ。
ああ、女の子を優先させたいという俺のわがままひとつで話をこじらせロナを困らせる方が迷惑だ。ここはグッと我慢し、ありがたくこれらの宝具を受け取ることにしよう。
「宝具は全部行き先が決まったね! よかったよ綺麗に分けられて」
「……ああ、そうだな」
「それでザン、私に話したい大事なことってなーに?」
ロナは目をきょとんとさせて俺の顔をじっと見つめてくる。ついに話す時が来たか。俺とロナが今後どうすべきかを。
……いや、やっぱり先にお金の精算をしておこう。お互い別々の道を生きようという話をした後に金の話をするのはなんだかドロドロしてて嫌だからな。
「まあ、待てよ。まだやることはあるんだ。金をとりあえず分けちゃおうぜ」
「あっ、それもそうだね! 商人に適正があるザンに任せるよ」
そんな大切なことを即座に俺に任せてしまうだなんて、ロナは俺と言う男のことを信用しすぎじゃないだろうか。俺が実は悪人だったらどうするつもりなんだろう。まぁ、たしかに実際はスーパー紳士なわけだから、その信用は正しいが……な。
とりあえず山分けの仕方を考えてしまおう。元は総計で七百五十万ベルあったわけで、これを二人で半分こした三百七十五万ベルずつがモトとなる金額なわけだ。
そこからまずは、今日の宿代が一人一万ベルずつだったようだから各々それだけ引いて、次にロナの分から彼女自身のさっきの食事代、俺からは質屋からの借金分とハイポーション代を抜けば残った額がそれぞれ実際に懐に入ることになるか。
数万差し引いたが、それでもまだ一人当たり三百万ベル以上残っている。これでしばらくは金に困ることが無さそうだ。
「ざっくりとロナが大金貨三十六枚と金貨九枚だな。さっきの食事代と今日の宿泊費を引いた額だ。受けとってくれ」
「おぉ! ……あれ? そういえば昨日の私の食事代と部屋代はちゃんと計算に入れた?」
そうか、それもあったな。だがしかし。
「いやいや、あれは気にするなよ。完全に奢りのつもりだったからな。ロナだって俺にポーションくれただろ?」
「そっか、ありがとうザン!」
くぅ! やっぱり良い子で可愛いぜロナは。ああ、だからこそ。呪われまくってる俺が側にいてはいけないんだ。そうだろう?
「それじゃあ本題に入るぞ」
「うん」
もう、俺ができるだけの補助はしきった。役目は終わった。むしろこの先は俺が一緒にいると彼女にとってただのお荷物になる。だから俺はロナから離れるんだ。
そう、ただその事実を言うだけなんだ。合って日も経ってないから、なんてことないはずなんだ。なのに今になって、俺のハートの鼓動が早くなったのはなぜだろう。胸が苦しい。
……いいか、これはロナのためだ。美少女に別れを告げるのが惜しいのはわかるが男は度胸。さあ、告げるのだ紳士よ。
「ま……まあ、本題と言っても簡単なんだよ。明日になったらお互いに別の道を、昨日までみたいに歩もうぜって……話をしたかったんだ」
「……ぇ?」
「ごめん。聞き取れなかったか?」
「ううん。き、聞こえてた。けど……」
ロナは呆然としてるようで、よく見たら動揺している。要するにショックを受けているようだ。
今更だが、よく考えたら別に明日以降も一緒にいようっていう約束なんかしていない。だから俺のこの提案は別に変わったことではないはずだ。
驚かれたってことは、ロナの中じゃこの先も一緒にいるつもりだったのか……?
「ほ、ほら、そう言えばこの先どうするかなんて昨日は考えてなかっただろ?」
「たしかにそうだね。それでザンは別れることを選んだ……。う、うん。私、私って……会ってからザンには迷惑しかかけてないもんね。賢明な判断だとおもうなぁ……っ」
「え? いや、逆だぞ?」
「ぎ、ぎゃく……?」
俺は何か勘違いしていそうなロナに自分の考えをきちんと話した。
俺が呪われ過ぎていること、俺がダンジョンではほとんど見学しかできない荷物になっていたこと、既にステージ星二に至った時点でロナはどこのギルドでも引き取ってもらえること、ロナはギルドに入ったら確実に出世できること……そして。
「そしてロナははっきり言ってめちゃくちゃ可愛い。俺みたいな男の陰がなければ一気にモテるだろう」
「え、私、か、かわっ……⁉︎」
「まさか、自覚してなかったのか?」
なんでここまでアタフタしてるんだ? さすがにこの可愛さで自分の美貌を自覚したことがないなんてことはないだろう。幼少期からチヤホヤされたりしていたはずだ。
……いや、あんまり人様の半生を勝手な推測するもんじゃないか。ただ、そう考えてしまうだけ俺の中ではこのロナの反応は意外だったのはたしかだ。
「あー、まあいいや。つまりロナの今後の人生を考えたらここで俺と別れてそれぞれ別の道を歩んだ方がいいってわけだ」
「そしたらザンはどうするの?」
「俺は……うーん、商売でも始めるかな?」
「そ、そっか……」
ロナの目が泳いでいる。何か言いたそうだ。まさかこの提案が気に食わないのか?
なら、もう答えを本人に訊いてしまうのが一番だろう。
「それでロナはどうしたい?」
そう問うと、彼女は目線を俺から逸らしながらゆっくりと、静かに答え始めた。
「……もし、もしいいなら……今後もザンと一緒に活動したい」
「一応理由を尋ねてもいいか?」
「う、うん。ま、まだ大きな恩を全然返せてないから、だから……」
「見返りは必要ないって言わなかったか?」
「で、でも返さないと私の気が収まらないの! そ、それにっ……それにザンは友達だから、もっと一緒にいたいなっ……て」
なんだと。お、俺と、ロナが……。
「友達だと⁉︎」
「と、友達ですらないの⁉︎」
一瞬でロナの眼が充血し、目元に大きな水溜りができてしまった。
し、しまった! この俺が……! この俺が自分の言葉でレディを泣かせてしまった! 嘘だ、ありえない。紳士たる紳士の中の紳士な俺が……俺が……!
とにかくだ! まさかロナが俺のことをもう友達であると認識しているなんて思わなかった。なぜならまだ出会って全く日も時間も経っていないのだから! 俺と同じように一時的な金稼ぎ仲間程度に考えていると思っていたっ……!
つまるところ、俺とロナのお互いの関係の認識に大きすぎるズレがあったようだ。
俺はロナのために身を引こうと思っているのに対し、ロナは俺と居たがっているんだ。まるで正反対の考え。
こんな美少女がだぞ⁉︎ 美少女がたった一日で懐いてくる、そんな夢みたいな話が現実にあったのか! いいのか本当に⁉︎
とりあえず本格的に泣き出すまえに、全力でフォローしなければ。
「い、いや! 全然友達でいいんだよ! ああそう、そうだ。俺達は友人関係、トモダチだ!」
「ほ、ほんとに?」
「それは間違いなく、間違いない」
「そっかぁ……!」
ロナは先程から一転して、なんとも嬉しそうな顔を浮かべているっ……! ああ、つまり俺の選択はことごとく間違っていたんだ、最初から!
女性に対して姫を守る騎士のようであれ。これが俺が俺に定めた自分ルールだった。だがたった今一つ学んだ。俺の思う紳士な対応は決して正解とは限らないと。
まだまだ修行が足りない、パーフェクトな紳士にはなりきれていないようだ。悔しいが。
とりあえず、よっぽどのことがない限り、ロナとこのような話は今後しないように気をつけよう。
「じ、じゃあこれからもよろしくねザン!」
「あ、ああ、よろしく」
「私、友達いないから嬉しいな……! あの、それで解散の方は……?」
「はなっからロナの意見に従うつもりだった。解散しない方がいいならそうしよう」
「えへへへ……! やったぁ!」
再び浮かべられた満面の笑顔が太陽のように眩しい。
……長い付き合いになるかもしれない中で、これからも俺はこの笑顔を浮かべさせてやることができるだろうか。
だが、そうすると一つ問題が出てくる。それは今後、俺の紳士ではなく男としての一面が、この可憐な魅力に耐え切れるかどうかだ。
影で自分を殴り、男としての俺を戒め続ける日々が続きそうだ………ぜ。
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