見習い死神はじめました。

駐車場のネコ

第一章

プロローグ

夏の強い日差しの下、智也は自転車を漕いでいた。


高校は夏休みに入り、つい先日18歳を迎えた智也は最後の大会に向けて部活に精を出していた。


智也はテニス部に所属しており、関東大会に出場したこともあるそこそこ将来有望な選手である。


幾つかの大学から声も掛かっており、高校卒業後は大学に進学する予定になっている。


特待生で入学出来れば、家族の負担も軽くなり、自分も集中して競技に取り組めると考え、現在は勉強そっちのけで部活をしていた。


学校のコートに着くと、下級生が既に自主練や整備などに励んでいた。


「おう、今日も頑張ってるな!」


「「「「おはようございます!」」」」


「今日は皆んなにジュースとアイス買ってきたから、休憩の時にマネージャーから受け取ってくれ。」


「「「「よっしゃぁあ!トモさんありがとうございます!」」」」


このように時々差し入れを持ってきたりして同級生先輩後輩問わず優しく接している智也は部員みんなから慕われていた。


人に尽くすことが好きな智也はこんな毎日がこの上なく好きだった。


何時間か経って空が暗くなり始め、ボールが見え辛くなってきたところで今日の練習は終了した。


「お疲れさん。今日は差し入れありがとうな。」


「ムッチャうまかった!サンキュー」


帰り道で同級生の圭吾と俊哉が礼を言った。


「みんなが喜んでくれたから良かったよ。ただ金欠になっちまったからこれからしばらくは無理だけどな。」


二人は智也と中学から同じクラスで腐れ縁なのである。


「そういや智也、優希ちゃんの体調はどうなんだ?」


「ああ、残念だがまだ意識は戻ってないんだ。」


「そうなのか、早く退院できるといいな。


「あぁ。」


「俺も応援してるからよー、元気になったら俺のお嫁さんになってくれるよう言っといてくれ!」


「おいっ、バカトシ!俺の妹は絶対嫁には行かせねえから。」


「ふっ、すっかり智也も妹バカになっちまったな。」


「うるせぇ、そんなんじゃねえよ。俺病院寄ってから帰るから今日はここで。」


「じゃあな。」


「またねー。」


二人と別れてから電車で二駅進んだところの優希が入院する病院へと向かった。


「先生。お久しぶりです。優希の容体はどうですか?」


「あぁ、智也くんだね。元気にしてたかい?妹さんの体調は安定しているよ。意識が戻れば今日明日にでも退院できそうだよ。」


「そうですか。。。」


「では、私は少し会議があるから失礼するよ。」


窓際に花が一輪添えてある以外には何もない簡素な白い一室の中央で、優希は眠っていた。


一年ほど前だろうか、優希は中学の授業中に突然意識を無くした。


異変に気付いた教師が保健室の先生を呼び、手に負えないと分かってすぐに救急車で運ばれた。


集中治療室に運ばれ、精密検査を受けたものの、異常は確認できず、そのまま今の部屋に運ばれてきた。


仕事中だった両親もすぐに駆けつけたが、異常はないと医師から伝えられてすぐに安堵した。


入院当時の医者の話では一週間、早ければ2、3日くらい経てば回復して意識が戻るだろうとのことだった。


安心したのも束の間、1週間、10日、1ヶ月、半年、いくら時間が経てど意識は回復しなかった。


そして意識が戻らないまま一年が経ち、現在に至る。


「なぁ優希。あんなに下手くそだった俺が大学からスカウトが来るくらい上手くなったんだぜ。お前が起きたらびっくりさせようと思って毎日死に物狂いで頑張ってるんだ。早くお前に追い付きたいしな。


なぁ優希。いつになったら起きてくれるんだよ。


なぁ優希お前は一体どうして眠ってるんだよ。


なぁ、、、、、。」


智也の目には涙が浮かぶ。


中学3年時優希はテニスの全国大会で準優勝をしていた。智也は優希を越えるべく頑張っていた。


当たり前だった存在がある日を境になくなってしまった。


優希が倒れてから家族は暗くなった。


家族で一番のおしゃべりが居なくなった家で食べたご飯は味もしない。


今日も差し障りない会話をして食事を終え、智也は自分の部屋に戻っていった。

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