第30話 三回目の派遣 ~オズボーン大司教~
■ファミリーセブン 札幌駅前店 倉庫
2回目の派遣からも無事に戻ったタケルは西條と倉庫で話し合った。
「いやー、今回もすごかったと中島さんから聞いたよ。風の魔法とか魔法槍とか、さすがに驚きを通り越して、あきれたけどね。」
「ええ、自分でも魔法に関しては神様が全面的に協力しくれていると思います。」
「それで、西方大教会の件だけど、タケル君は断るつもりなんだって?」
「ええ、そんなに魅力も感じませんし、経緯が嫌なので。」
「お勧めするわけではないけど、オズボーンは炎の魔法士としては優秀だと思うよ。今のタケル君ならまだ教わることもあるかもね。」
「正直、魔法は教わらなくても何とかなるような気がしています。3階建ての炎が出せると聞きましたが、多分俺もできるはずです。もっと大きいのでも。」
「うん、僕もそう思う。おそらく今のタケル君はドリーミアで最高の素養を持った魔法士だからね。すぐに我々を超えていくはずだ。」
「じゃあ、お断りしても良いですか?」
「『勇者は心のままに過ごしていただく』のがご神託だから、好きにして大丈夫。ただ、オズボーンがどう出るかは気にはなるね。」
「ノックスさんやスタートスの人たちに嫌がらせをしたりしますか?」
「何かしてくると思うけど、具体的なことはわからない。彼はプライドの高い男だから、自分の力が及ばないことを受け入れないと思う。」
(あきらめないということか)
「西條さんは転移魔法も得意なんですよね?」
「ああ、光魔法なら何でも出来るからね。どうして?」
「転移魔法も使いたくて。具体的にはどんなイメージなんですか?」
「基本は同じで頭で描いて祈るだけ。ただ、描きにくいのか転移魔法は実現できる人間が極めて少ない。神が恩恵を制限しているのかもしれないね。」
「どうすればできるようになりますか?」
「『神へひたすら祈りなさい』としか言いようが無いかな。それと、絶対に聖教石の助けが必要になる。」
「タケル君は転移魔法でどこに行きたいの?」
「まずはムーア、それと必要なら皇都へ行きます。」
「それから、西條さん、もうひとつお願いが・・・」
■スタートス聖教会 司祭執務室
3回目の派遣でスタートスに来たタケル達をギレンが待ち構えていた。
「それで勇者様、ムーアへお越しいただく件はいかがですか?」
「一度、ムーアの町を見に行きたいと思います。それから決めさせてください。」
「承知いたしました。すぐにお連れできます。」
「それから、夕食にはスタートスに戻りますので、その点はお約束してください。」
「かしこまりました。ムーアで夕食のおもてなしをご用意することも可能ですが。」
「結構です、こちらでやるべきことがあるので。」
ムーアに一人で行くことは、ダイスケとアキラさんと打ち合わせ済みだ。
ダイスケも行きたがったが、帰りが不安だったので我慢してもらった。
部屋でまとめた荷物を持ってギレンと一緒に転移の間に入る。
ギレンの手には、杖の先に聖教石を埋め込んだものがある。
「ギレン副司教、その杖は転移魔法に必要なんですか?」
「はい、私は光の神アシーネ様へこの杖を使ってお祈りしております。」
ギレンは、聖教石の柱の中にタケルと自分を入れてタケルをしばらく見つめた。
目を閉じてから、杖を両手で天井にかざして目を開いた。
一瞬で周囲の景色が変わった。
スタートスよりかなり広い部屋に聖教石が何重にも円を描いている。
壁や柱にも模様が彫りこまれ、スタートスよりも豪奢に感じる。
「ムーアに到着いたしました。まずはオズボーン大司教様へご挨拶に参りましょう。」
転移の間を出ると大きな吹き抜けのホールで、長いすがタペストリーに向かって並べられている。規模はスタートスの10倍以上ある。
ホールの横にある階段で2階にあがり、扉の奥の廊下を進むと、タペストリーの奥にあたる場所がオズボーンの執務室だった。
■西方大教会 司教執務室
「オズボーン猊下(げいか)。 スタートスの勇者様をお連れしました。」
部屋に入ると大きな机に座っていた男が、立ち上がって歩み寄ってきた。
「ようこそ、勇者様 私が西方大教会の司教を勤めるオズボーンです。」
「はじめまして、ヤマダ タケルです。よろしくお願いします。」
小さな丸テーブルを挟んでビロード張りの椅子に座った。
ギレンはオズボーンの耳元へ何かをささやいてから部屋を出て行った。
「タケル様は、並外れた魔法の才をお持ちと伺いました。既に炎・水・光の魔法を操られると聞いております。異なる魔法は誰の指導を受けられたのですか?」
「炎と光の魔法は、スタートスのマリンダ魔法士です。水の魔法は自主学習ですね。」
(風の魔法のことはまだ伝わっていないようだ)
「自主学習?・・・ですか。既に聖教石が赤い色に変わりつつあると言うことですが、見せてもらってもよろしいですか?」
首から聖教石のペンダントを外して渡すと、オズボーンは窓からの光にかざして、眺めている。
「まだ、完全な赤という訳ではありませんが、限りなく赤に近づいております。」
そういって、オズボーンは自らの聖教石をタケルに渡してくれた。
同じように光にかざすとルビーのようにクリアな赤色だった。
「この世界の魔法は、教会の中で魔法士から魔法士へ伝えられていくものです。したがって、優秀な師につけば、より優れた魔法を習得することができます。」
「タケル様へご指導できるとすれば、もはやこの世界には限られた人間しかおりません。どうか、この地にご滞在いただき私と一緒に修練を積んでいただきますよう。」
「お申し出はありがたいと思います。少し考えさせてください。今は魔法以外に修練したいことがいくつかあるので、先にそちらを片付けます。」
「先におやりになりたいことと言うのは?」
「主に武術です。あわせて魔法武具について勉強したいのですが、この町の工房を見学できますか?」
「見学はすぐに手配させていただきます。勇者様にご滞在いただくための館も一度ごらんいただきたいと思います。」
オズボーンはテーブルの上のベルを2回鳴らして、ギレンを呼んだ。
ギレンに耳打ちして指示をしている。
タケル達が部屋を出るとオズボーンはベルを3回鳴らして、黒いローブの男を呼ぶ。
「これを、スタートスへ。これからは毎日報告が届くように手配しろ。」
「承知いたしました、早馬を準備いたします。」
男が下がった執務室でオズボーンは自分の聖教石を握り締める。
(まさかとは思ったが、3日程度であそこまでの魔法力を身につけるとは)
(なんとしても、わが手元へ置く必要がある。)
(サイオンめ、とんでもない勇者をわが町以外に送りおって・・・)
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