ライナーノーツ④
みなさんこんにちは、ゆあんです。
本日も早速作品を語っていきたいと思います。
今回ご紹介するのは、こちら!
■薮坂 様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054898389810
今回の作品なのですが、私は素直に「面白い」と思いました。楽しかったんですよね、読んでいて。
特に最近はテレワークが進み、メールやら資料の作成やら情報交換やら、とにかく「文章を紐解いていく」作業が中心となり、自身の連載創作でのカロリー消費も含めて、「読書による負荷」を無意識的に嫌煙してしまう流れが私の中にありました。
そんな中だったので、負担少なく楽しめたというのは私にとっては大きな発見でした。
「なぜそう感じたのか」を私なりに考えてみたのですが、それをお伝えする前に、まずは本作がどういった作品なのかを語る必要がありますね。
本作を形容するなら、青春エンタメ、でしょうか。
本作の主人公は秋人でも美冬でもない、第三の人物、「夏月」です。
夏月は二人と同じく幼馴染であり、三人で関係を育んできました。
そんな夏月が切り取る「秋人と美冬」の物語と、そして「夏月自身の物語」が気持ちよく交差している作品です。
この夏月に語らせることで、本プロットの最大の弱点をうまく克服しています。
それは、「旅立つ瞬間の秋人を至近距離で見られない&言葉が聞けない」ことです。
本プロットでは美冬はある理由から直接的な見送りをしません。それがこの物語の含みであって、人物像を深堀りするに至る(しなくてはならなくなる)ポイントであるのも事実ではあるのですが。
ですが、第三者であれば、この問題はクリアできます。なぜなら第三者は見送りに直接出向くことができるからです。
そして第三者を間に立たせることで、秋人と美冬の両者の想いを「視点変更することなく」読者に伝えることに成功しています。
この夏月というキャラクターの役割と、造形が見事だと思いました。
夏月は「秋人と美冬の物語」の当事者ではない(だが確実にこの物語の当事者だ)がゆえに、物事を俯瞰することができています。それゆえ、両者の言葉を冷静に受け止めることができています。
これが「読みやすさ」に繋がっている、と私が感じた理由の一つです。
極限状態だったり失恋の辛さというのは、後々くるカタルシスを大きくする為にも、没入感を求めます。その方が反動が大きくて感動に結びつきやすいからですね。内容も繊細になるので、文章は洗練され、逆を言えば、流し見る訳にはいかないような文体になっていってしまいがちです。
しかし二人のエピソードを語るのは夏月で、当事者ではないので、心はある程度平穏です。三人に訪れたエピソードはこの夏月の心理状況とキャラクターによって実に軽快に語られていきます。
この軽快さが「読む」というストレスを削減しているという印象を受けました。
また夏月の会話は(キャラクターがそうさせているが)実に軽妙であり、雪のシーズンの内容なのに、まるで夏の日の海辺のような、そんな爽快感をもたらすことに成功しています。
この夏月というキャラクターがブレていない為に、筆致もブレず安定しています。
エンタメと私は形容しますが、そこから芯がブレていないので、妙に難しかったり高尚だったりセンチメンタルだったりするワードが登場しないのです。一つの作品の中で実に統一感ある文章が軽妙な会話劇と合わさって登場するため、読み手も気軽に作品にふれることができ、登場人物達の物語に「かえって没入しやすくなっている」という感覚を受けました。
この読みやすさが、本作の最大のウリと私は考えます。
いつ、どこでも、どんな精神状態・状況でも読める。
仕事疲れの満員電車の中だろうが、子供が騒ぎ立てていようが、嫌な事があってメンヘラになっていようが、読める、楽しめる。
これは特に「WEB小説」として重要な要素と考えます。
いつでも読みにいけるし、いつでも辞められる。
だからこそ、初動で得られた「ちょっと読んでみたいかも」という、動機にしては弱すぎるエネルギーを捕まえて離さない工夫がWEB小説では重要だと思っています。
じゃあこの作品はWEB小説に最適化されてそれ以上でもそれ以下でもないのかというと、全くそんなことはないのです。短編集の文庫本だったり週刊誌の連載などに乗っていても成り立つ、ちゃんとした小説でもあるのです。
このバランス感はやはり「すばらしい」ことだと思いました。
さらに、作品中には「夏月」に関するちょっとした仕掛けも用意されています。
夏月のことを思うと、また作中の出来事に対する印象も変わると思います。
また、「ああ、こういう三人はきっといるよな」という身近さと、それでいてドラマになる甘酸っぱさが、キャッチーで良いと思います。
個人的に嬉しかったのは、「雪を溶く熱」でいうところの、
・雪を溶かすものは何か、熱とはなにか
・溶けた結果なにがあるのか
がしっかりと言及されている所が良かったです。
とかくああだこうだ言いましたが、この作品は、
・読みやすい!
・キャッチー!
・青春エンタメ!
・全世代におすすめ!
な作品であり、その印象をもたせる「筆致の工夫」を研究するのにうってつけだなぁと感じました。
それでは、また。
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