ライナーノーツ③

 久しぶりのライナーノーツです。


 さて今回のご紹介作品はこちら!


 ■七瀬咲智 様

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054913993640



 こちらの作品をご紹介しようと思ったのは、作品の世界観に共感できるから、という所が大きかったです。


 閉塞された空間、田舎。

 そういう環境には「同調圧力」のようなものが働くことが多いです。日本ながらなのか、村八分というか、そういう文化がどうしても根強いです。


 あの人はどうだとか、あの家庭はどうだとか。人間関係が完結してしまっているがゆえに情報共有(拡散と表現した方が正しいかも)が恐ろしく早い。


 こういう環境では、個を個として発信することは難しくなります。

 そういった「抑圧感」が、同調圧力を生んでいるんですね。


 私は自身の作品で、こういった環境の中にいる人と、外にでた人の差みたいなものを書きたいと思っていました。


 理由としては、個人的な理由なのですが、私が幼少の頃より転勤族で各地を転々としていたのに対し、パートナーは地主の家計でその土地より出たことがない人だったからですね。結婚にしろ両親との関わりにしろ、その文化の違いというか感性の違いを日々感じていました。今ではそれは問題になることではありませんが、まぁ私が遠隔地に転勤になった場合などにどうなるんだろうなぁと漠然と思う所もあるわけです。


 そんな「人間性に影響を与える環境」を描きたい、というのが私の狙いだったのですが、今回ご紹介する作品では、その部分について共通の認識があったように思ったのです。



 作品ですが、筆致は端正・簡潔であり無駄がなく、それでいて、抑圧された感が良く表現されていると思いました。雪ということで閉ざされた感覚が、文体から伝わってくるようでした。

 特にシチュエーションと合致した情景描写はにくいですよね。


 そして、美冬と秋人が疎遠になってしまった理由というのが、また良いと思ったのですね。完全に大人の都合であり、あの環境も合わされば、もう本人たちにはどうすることもできなかったのがよくわかります。


 本人たちの意思とは無関係に引き裂かれてしまった二人ですが、しかし二人が生きている環境は同じです。本人達が直接やり取りをしなくても、相手のことは耳に入ってきてしまう。それが唯一の繋がりのようだという優しさもあれば、それがあるから相手を忘れることができないという悲しい絆でもありました。


 この距離感の描写について、やはり前述した環境と感覚が存分に生かされていると感じました。人間として仕方のない部分が描かれており、充実した内容だったと思います。


 そしてもう一つご紹介しようと思った理由なのですが、こちらの作者様、なんと校正をお仕事にされているようなのです。


 校正さんがどのような視点で物語を読むのか、そして書くのか、気になりませんか?


 実際私の作品もお読み頂き、校正さんとしての感性でお読み頂いたのがわかるコメントを頂戴しました。作者様への私の指摘は、やはりお仕事と照らし合わせ、客観的な判断をされているなと感じました。


 校正さんと言えば、普段から多くの作品に目を通していらっしゃるんだと思います。そんな方が描かれた世界。是非ご賞味頂ければと思います。



 それでは、また。

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