誰かの為に、悪役令嬢
富升針清
第1話 誰かの為の、悪役令嬢
私は幸せの中にいた。
「迎えに来たよ」
なんたって、愛する人と再び手を取る事が出来たのだから。
「ローラ」
優しく私の名を呼ぶ彼は、大昔に会った時よりも甘く淡く、まるで微睡を呼ぶ様に優しくて。
「愛してるよ」
そう呟く言葉を、何度も何度も噛みしめながら私はベッドに横たわる。
トラックの前に突き出され、生死を彷徨った先にあった大昔の王国の、私だけの王子様。
貴方の為に死ねたと思えば、前の世の終わりも悪くはなかった。
愛おしい人の為ならば、私はどんな事でも耐えられるもの。
どんな事でも。
どんな事でも……。
そう。思っていたのにな。
でも、バックライトの消えた携帯に浮かびあがるメールの文字は、私の中にあるどんな事には入ってくれない様だ。
「忙しい、か」
ねえ、ランティス。知っている?
私達が最後に会ったのは、何週間前か。
そんな事を聞く勇気すらない私は、一人ベッドの上で目を閉じる。
いつもの様に。
「ローラ様、それは耐えられる耐えられないの話ではないのでは?」
「……フィンは先輩の妹になったんだなって実感してしまう言葉は辞めて頂戴」
ドーナツを挟んだ向かいにいる制服に身を包んだ美少女の前で、私は力なく項垂れる。
「姉の妹だろうが、フィシストラ・テライノズだったフィンだろうが、変わりませんよ。大体、あの男は、頭のネジが緩いのです。ローラ様から話さない限り向こうから気付くことはないのでは?」
「ゆ、緩いって……。でも、メールはくれたし、仕事が忙しいのはわかるし、ランティスは……」
「いや、忙しいのはわかりますが、片手間すぎる」
「……片手間……」
「電話でもいいわけでしょ? なのにメールだ。十分それは片手間では? それに、ローラ様もローラ様では? 言えばいいじゃないですか。自分から電話をすれば良いのでは? 私の事をどう思ってるの? って」
フィンの言葉がぐさりの胸に突き刺ささる。
「ここまで放置されるのならば、別れるぐらい言ってもいいでしょうに。向こうもいい大人ですよ? 我々が出会った頃の年齢は遠の向こうです。大体何年越しの悲願だと思っておいでで? あの時代にあったのは車ではなく馬車ですし、政は王族の頃ですよ? その間数百年ですよ?」
「逆に、それだけ時間が経ってるなら今少し我慢して待っても可笑しくない……」
「訳ないでしょうに。あの時代からローラ様がこちらの時代に帰ってきて一年ですよ? 目覚めてすぐに出会って恋仲にもすぐに発展して。誰もが思いますよ。いい大人二人が、何をもだもだしてるのかと」
女子高生にそんなにもはっきりと言われると、心にくるものもある。
そうなのだ。
私は幸せの中にいる筈なのだが、何も心配も不安もないわけじゃない。
あの事故から一年。
ランティスが私を迎えに来てくれて一年。
あの学園長との塔の死闘から、こちらの世界に帰って来た私はこの時代に転生したランティスと再び出会った。まるで絵本のお姫様と王子様の様に手と手を取り、あの時代では紡げなかった愛の続きを唄う様に、私達は一般的にカップルと呼ばれる彼氏彼女になった筈なのに。
私とランティスこと寺嶋樹貴との仲は上手くいっていない。
いや、喧嘩をしているとかではないのだ。
たまに休みが合えば、デートもしている。
会話は少ないかもしれないが、それなにり自分は許容範囲以上に喋っている。
苦手な料理も振る舞えるぐらいには頑張ってるし、最近は髪を染めたりと外見にも気にかけ、忙しい彼の為にとよい彼女を目指してきた。
彼もそれを否定する事はないし、謝罪の言葉や感謝の言葉だって幾らか戴いている。
側から見れば、仲睦まじいカップルのはずだ。
だって、愛しているのだから。私は当たり前の様に思っている事なのに。
ただ、ランティスはそうではないかもしれない。
最近、そう思うと止まらなくなってきている。
勿論、彼が冷たいとか、酷いとか、そんな事はない。
彼は前世と変わらず優しい。
私の事を綺麗だと言ってくれるし、愛してると言ってくれる。けど、それだけなのだ。
自分から、私には触れてくれない。
連絡も必要最低限。
極め付けは、昨夜のメールだ。
『忙しいから、暫く会えない』
一週間ぶりのメールだと言うのに。
たったそれだけ。
私が返事を返さなくても、既読が付かなくても、多分彼は気付いていない。
あと数日で私は三十を迎えると言うのに。
私だけ。
私だけが、彼を愛しているのかと考えたくない事を考えてしまう。
「でも、忙しいって言ってるし、会いたいとか、声が聞きたいとか、邪魔しちゃ悪いし重い女だと思われない?」
「ローラ様。前世から思いあってた仲以上に重いワードはないですよ」
「それとこれとは、別じゃない。だって、全部こっち都合じゃない」
はぁと私は大きなため息を吐く。
「……ローラ様はどうされたいのですか?」
「え?」
「戦をするには、目的が必要ですよ。貴女もお分かりでしょう?」
「戦って……」
「変わりませんよ。で、どうされたいのです?」
私がどうしたい、か。
そりゃ、少しでもいいから会いたいとか、声を聞きたいとか、色々あるよ。
でも、多分、なにも根本的な解決にはなってない気がする。
そもそも、私はランティスにどうして欲しいのだろうか。
愛して欲しい?
でも、彼は愛してると言ってくれる。
連絡が欲しい?
今だってくれているだろうに。
これ以上考えると、どれも叶えて貰ってるのに、これ以上欲しがる自分が何と強欲で愚かなのかと気さえしてくる。
「ランティスが何を考えているのか、私にはわからなくて……」
せめて、彼がなにを考えているか分かれば。
私にとって、ランティスは人生通算において初めての恋人である。
どの時代でも顔も中身も冴えない私の、初めての恋人だ。
そして、こんな私が初めてリアルで恋心を抱いた相手でもある。
だからこそ、分からない。
世の恋人達は、こんな時にどうしているのかなんて。
「そんなもの聞かなきゃ、わからないですよ。人間、考えてる事が表に出てる人間の方が少ないです。いい例をお教えしましょうか?」
「……ギヌスって言うんでしょ?」
「正解です」
「意地悪ね」
全く。
「ギヌスは何を考えてるか分からないの極みですよ。あの時代だからこそ、まったくもって理解できませんでしたが、この時代に来ても彼の行動の多くは理解できない。ハーレムを作りたいのならば、優しくするよりも奪うべきです。無知で無垢な女に施した所で、所詮ロサや私の様な手駒もどきにしかならないと言うのに。無駄な作業だ」
「随分と吹っ切れてるわね」
「何百年も昔の話ですからね。惚れた腫れたも、その首を取った瞬間から過去になるのですよ。まあ、私も変わりに腸を掻っ捌かれましたが。それに、私もローラ様同様人生2周目ですから。達観ぐらいしますよ」
「フィンらしいわ。……そうね。二週目だよね。そう考えると、不思議。貴女とまた、こんな風に会えるだなんてね」
「ええ。私も驚きと喜びしかない。また、貴女が私を見つけてくれたのですから」
「何を言ってるの? 貴女が、私を待っていてくれただけでしょうに。私は何もしてないわ。大袈裟ね」
そう。
フィンは、私が思った通り先輩の妹としてこの時代に生まれて来てくれたのだ。
半信半疑で会った私を、彼女は見つけ出してくれた。私の為にと、手を取った。まるで、あの中庭の時ように見せてくれた笑顔は、私の全てを包んでくれた。
あの時代に、あの場所で、決して違えてはならない約束を果たせなかった私達。
交わした約束の様に、届かなかった手。
でも、それは永遠ではなかった。
きっと、貴女の元へ帰る。貴女に追いつく。そう言った彼女は何百年経っても、約束を果たすべく私を待っていてくれた。探してくれていた。
こんなにも近かったのに。こんなにも、そばに居たのに。
私の騎士は、誰よりも気高く、誰よりも誇り高く、誰よりも強いのだ。そう泣く私に、知ってますよと笑った貴女が初めて涙を流した姿を見た。
この感情は愛でも恋でもないけど。
私たち二人には確かにあの頃と変わらぬ思い合う心がそこにあったのだ。
だからこそ、もうこの手を離してならないと二人で泣いた。どんな時でも、私達は側にいよう。この時代でも、どの時代でも。騎士としても、友としても。
「前世の記憶があったのも驚きだわ」
「ランティスとタクトにあったんだ。私だけないわけなございませんでしょうに。あんなゴミどもよりも、私の方がローラ様を思い慕っておりますし」
この時代に来て、初めて出会ったフィンを思い出しながら、私は笑う。
矢張り、相も変わらないフィンだなぁ。
「でも、ランティスとタクトのお陰でフィンにまたこうして会えてるんだもの。私は嬉しいわ」
「……癪ですがね。癪ついでに、私があのクソ眼鏡に取り敢えず、あの愚か者か何をやってるか聞いてみましょうか?」
そう言って、フィンが携帯を取り出した。
「え? タクト? え?」
何故、フィンからタクトの名前が?
「何を驚かれているのです?」
「え? タクトに聞くって……?」
「メールぐらいしますよ。前世であれだけくその様に迷惑をかけられたんだ。今お返しを頂かなくてどうするんです? 大体、私が迎えに行くと言うのに、何爆発で木っ端微塵になるんでしょうね? クソ弟も迷惑をかけてくれたし、あのクソ眼鏡に併せて支払いを要求するしかないでしょ?」
そう。前世で出会ったフィンはタクトのあの爆破を随分と根に持っていた。
私がわざわざ迎えに行くと言ったのに、勝手に死んだ奴なんて知るかと、忌々しそうに答えていたと言うのに。
気持ちは分からなくもないが、きっとフィンはあの時タクトを自分の仲間だと初めて認めていたのだろう。
そして、タクトもきっと私たちの様にギヌスと違って自分を裏切らないと。
無意識にフィンは彼に甘えていたのかもしれない。
「……社会人と女子高生……」
前世では二歳差だったけど、今は社会人と女子高生でしょ?
会話があるのか?
正直、二人よりも歳が離れていない私だってランティスと何を話していいか分からないと言うのに。
「……見た目はね。けど、変わってないですよ。私達は少なくとも、フィンとタクト。ローラ様の為に共に戦い、共に救われたフィンとタクトですよ。それだけです」
フィンとタクト。
確かに、今の二人の背中にも、あの時代の二人の姿はそにある。
「そっか……。私は、どうなんだろう……」
「どうって?」
「私は転生組でもないし、元々この時代からあの時代のローラに飛ばされただけなんだけど、どっちが本当の私なんだろうと思って。ローラでもあるけど、私は元から安田潔子だし、あの頃の私は私なのかな……。あ、ごめん。訳が分からないよね。自分でも何を言ってるのか分からなくなってきちゃった」
あははと笑うが、私はこの一年、ずっと悩んで来た。
ランティスは、ローラ・マルティスを愛していた。けど、今の私は安田潔子だ。
同じ人間なはずなのに。同じ私のはずなのに。
ランティスは、本当に、今の私が、いや。安田潔子が好きなのだろうか?
「ローラさ……」
「あ、そろそろフィン帰る時間だよね。ごめんね、こんな暗くなる時間まで付き合ってもらって」
「あの、ローラ様……」
「後、タクトに連絡してくれる話だけど、私は大丈夫だから。フィンに話を聞いてもらって気持ちが軽くなったし、それに私一人勝手に悩んでただけだしね。そろそろ出よっか」
「……ええ。ローラ様がそう仰るなら、私は何もしませんよ。何処かのアホ達と違って、私は自らの意思で待てが出来ますしね」
「アホ達って?」
「さあ? 躾の行き届いていない駄犬なんて、死ぬ程おりますしね。駅迄送りますよ」
「え、私がフィンを駅まで送るんだよ?」
「同じ事ですよ」
フィンは、確かにフィンなんだけど。
あの頃のフィンよりも大人になったと思う。
同じ時代に生まれてきて、同じ時代に死んで、同じ時代にまた生まれてきた。
フィンだけじゃない。ランティスもタクトも。
あの時代で見た彼らよりも、彼らは大人になっていた。
あの時代、一人だけ大人だった私は今、一人だけ子供の様に時が止まっている。
順番が一人だけ違うだけなのに。
私だけ、何も変わらず成長していない気がする。
あの時代に生きていた時から。
それが、随分ともどかしい。
私一人が、あの時代から帰ってきていない様な気がして。
元々この時代の人間だと言うのに。私一人が、ずっと向こうにいる。
あの時代にいた時は自分は異物だと思っていて、仮初の現実だと俯瞰していたと言うのに。いざ、帰ってみたらあの時の自分とは正反対だ。
フィンと別れ、一人電車に揺られながら私は外を見る。
子供じゃない。
私も大人だ。
向こうにいた私も、こちらに居る私も。
大人なのに変われないし、変わらない。
携帯の画面を見ても、変わらない自分しか写らない。
変わらなら、ローラのままでしょ?
私は、ローラ・マルティスのままでしょ?
そんな事は有り得ない。あの時代に生きた嫌われ者の悪役令嬢なんて、今は何処にもいないと言うのに。
答えなんて、分かり切ってるだろ? そう、新着が何もない携帯に言われている気がした。
ああ。
こんなにも簡単な事なのに。
メールの画面を開いて、文字を打って送るだけなのに。
貴方が好きなのは、ローラ? 私? 何方なの?
それだけなのに。
今日も勇気がない私は携帯を仕舞う。
『何方も、お前だろ?』
そう笑う彼の幻想を抱きながら。
今日も私は一人きりだ。
「あー……。もー……」
『庶民の分際で、ティール王子に近づくとどうなるか身を持って知るがいい!』
『や、やめてくださいっ!』
「ここ、スキップ出来ないバグ何なの? 何回スイッチの場所見せてくるの?」
『だ、誰か助けて!』
『誰もこんな所になんて来ないわっ!』
「来るんだよ。ランティスが来たんだよ。ランティスが」
『いや、王子助けて……っ!』
「王子は来ないかなー。助けに来たのはアリス様だしね。……はぁ」
朝から何をやっていると言うのか、私は。
折角の休日の朝だ。
予定もないし、誰とも会わない貴重な休日。
しかも、三連休初日。
私は、何をしているんだと自分に苛つきながら二本目の缶ビールを開ける。
そんな貴重な時間に、私は何千周回しかもわからない乙女ゲームをやっているなんて、本当に何なんだろう。
しかも、自分が飛ばされたゲームに話しかけながら。
「馬鹿みたい……」
恋人からの連絡はない。
忙しいから暫く会えない。
もう一週間前にもなるそれだけのメールを最後に私は間もなく誕生日を迎える。
「……馬鹿」
いや、馬鹿は私か。
そのメールにすら返信を出せない馬鹿は私。
文句の一つも、労いの言葉も、受け入れる事さえ出来ない馬鹿は私なのだ。
「はぁ……」
ため息を手に、コントローラーのボタンを押す。
『王子は貴女を助けに来るものですか』
「現実でも一番来る確率低い奴だもんな」
『彼は私の婚約者よ!』
「婚約者とか関係なく来ないよ。元婚約者が言うんだもん」
『貴女は彼に愛されていると勘違いしている』
「……知ってるし」
『何の取り柄もない平民に、彼が本気で恋をするだなんて有り得ないわっ!』
「何の取り柄もない平民、か」
思わず、ローラの言葉を繰り返す。
私もじゃん。
何の取り柄もないただの会社員。
そんな奴に、誰が本気で恋をするのか。
『身の程を知りなさいっ! 彼が貴女に近づいたのは、物珍しさです』
あ、駄目だ。
この言葉は今は駄目だろ。
ふと、私は口を噤む。
今のローラの言葉が胸を刺す。
アリス様に言っているのに。まるで、自分に言われたかの様に勘違いをしてしまいそうになる。
『王子は貴女の物珍しさを貴女が一人で恋や愛だと勘違いした迄。己の姿を鏡で見た事はあって? 何も無い空っぽの貧乏くさい見窄らさの器を』
勘違い。
一人で、勘違い?
物珍しさ? 場の雰囲気? 命を助けて貰ったから? 優しくしてくれたと思ったのは、勘違いなの?
全て、違っていたの?
あれ? それは、私も?
「勘違い……、ち、違う……っ」
『哀れね』
「ランティスは、私を愛してると言ってくれた! 最後まで、私の手を離さなかった!」
『可哀想と思った彼の優しさを履き違えて』
「違うっ! 違うっ! 私達は違うっ! 私達は、本当の愛を知っているんだっ!」
『本当の、愛?」
途中から声が、する。
画面の向こうではない。
すぐ近くで。
私は、顔を上げた。
そこには見慣れた、『元』私がいた。
「ねぇ、オリジナル様。本当の愛って、何?」
「……ローラ……?」
いつか見た、幻が。
あの日、ベッドの向こうで消えていった少女の幻が。
ただのプログラムに成り果てたはずの、電子の悪役令嬢が。
そこにいた。
まるで画面の中から飛び出た様に、煌びやかな制服を纏い、長い金色の髪を垂れ流している。
これは、何だ?
夢か? 幻か?
「教えて、オリジナル様」
「きゃあっ!」
その瞬間、私は彼女に腕を掴まれる。
嘘だろ?
ホログラムでも幻でも映像でもない。
彼女は、現実ではないのに。
いや、現実であってはいけないはずなのに。
何で、腕を!?
私はまた夢でも見ているのか?
「な、何?」
「オリジナル様。本当の愛が、私も欲しいの」
薄らと色付く彼女の頬が私に重なっていく。
ああ、一体。
何が起きていると言うんだ。
「ローラ様」
誰かが名前を呼んでいる。
お母さんの声じゃない。
聞き覚えはない声だ。
「ローラ様」
「誰……?」
この部屋には私一人しかいないはずなのに。
ゆっくりと目を開けると、そこには見知らぬ女がいた。
「お目覚めになられましたか、ローラ様」
黒い髪に雀斑を待った女は、私に頭を下げる。
私は思わずその事実に固まった。
「……メイド?」
見知らぬ女がいる。
いや、確かにそれだけでも十分な驚きなのだが、私の驚きはそこでは無い。
彼女の姿がメイド服という事に、思わず言葉を失った。
「え? は? え!?」
何でメイド!?
部屋にメイド!?
え!? 私酒に酔って何かした!? 酔うタイプの人間だった記憶はないんだけど、なんか呼んだ!?
と、言うか、だ!
「ここ、何処だっ!?」
何だ?
この中世ヨーロッパ風味な馬鹿広い部屋は!
それに比例してベッドも馬鹿でかいし、無駄に豪華!
私のクソ狭い1LDKは何処に行った!?
え、何? もしかして、ここはラブホと言う奴? この歳になってまで処女なもので、知識が何一つないけど、漫画とかで無駄に豪華でこってる部屋だってのは知ってるし!
私、何か血迷って入った?
お金、持ってきてる?
カード大丈夫!?
と言うか、私、大丈夫!? 色々と!
「ローラ様、如何致しましたか? お加減が優れませんか?」
「ろ、ローラ? 何でローラって名乗ってるの……? どんだけ、引き摺られてんの? 私……」
「ローラ様?」
「あ、あのっ! ごめんなさいっ! 私酔ってて何も覚えてなくて、こういう時、どうすればいいのか分からなくてっ!」
「ローラ様? まだ、寝ぼけてらっしゃるのですか? 今日はご入学日でありましょうに」
「……ご入学日?」
え? 何? ご入学日?
そう言う設定?
設定できる人呼んだの? 連れてきたの? そう言う隠れた趣味あるの? 私。
「次期妃であるローラ様のその様なお姿を民衆に晒されては、我がマルティス家の沽券に関わります。奥方様が嘆かれますよ」
「マルティス家って……」
リアルなマルティス家はこんな絢爛豪華な部屋なんてなかったと言うのに。時代背景からのこの設定だって随分とおかしいし、やっぱりそう言うプレイなの? 値段大丈夫? と言うか、ヤバ系の人とか出てこない?
もう、嫌だ。
私、何やってるんだろう。
一人で朝からゲームやりながら酒を煽って、一人で文句言って、ローラが出て来て……。
「……あ?」
あれ?
「ローラ様?」
「……」
血の気が引く。
この部屋もメイドも私は何も知らない。
だけど……。
「金髪……」
視界に入る私の髪は金色に染まっている。
手を見れば、シミもシワも黒子もない。
「……ローラだ」
私は、思わず吐き出した言葉を戻す様に口を手で塞ぐ。
私、また、ローラ・マルティスになってる!?
何で!?
次回更新は一週間後の6/8(月)です。
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