キスをする。【糸川×馬木】
来週は夏祭り。
この地域では年間で1番大きな祭りだ。
俺は幼い頃から毎年、幼馴染みの九華と一緒に行っている。
今年ももちろん行く予定だ。
下校中、いつもの河川敷で誘う。
付き合ってるんだし毎年行ってるし、断られることはまずありえない。
「九華、来週の夏祭りだけどさ。」
「あ、そういえばもうそんな時期だったね。」
「なんだよ、忘れてたのかよ。」
「最近テスト勉強で遅くまで起きてるせいか曜日感覚がめちゃくちゃでね。こないだなんか日曜日に間違えて学校行っちゃった。」
九華がケラケラと笑う。
「夏祭り、今年も一緒に行こうか。」
「いいね。いつだっけ。」
「来週の日曜日。」
九華はカバンから手帳を取り出して予定を確認する。
普段ガサツなくせにこういう几帳面な部分もある。
「お、日曜空いてる。」
「よかった。じゃあ16時に家の前な。」
「あのさ、現地で待ち合わせにしない?」
「え、なんで。」
「恋人っぽいこと、してみたいんだよね。私たち家が隣だから待ち合わせとかしないじゃん。待ち合わせして、まだかなまだかなってドキドキしながら待ってみたり、遅れて着いて謝ったり、そういう恋人っぽいことしてみたいの。」
九華は一気に言い切ると顔を真っ赤にして下を向いた。
なんだか嬉しいがむず痒い気分だ。
足音が普段より大きく聞こえる。
「ごめんね、変なこと言って。やっぱりいつもどうり家の前にしようか。」
「いや、いいよ。待ち合わせしよう。」
九華は驚いたようにこっちを見る。
「だから、精一杯おしゃれして来てよ。もし遅れても待ってるから。」
「うん。わかった。」
九華は嬉しそうにコクコクと首を縦に振る。
浴衣かな、それともすげえ可愛いワンピースとか着てくるかな。
夏祭りは1週間後なのに、今から楽しみでドキドキしている。
夜、俺は自分の部屋で考え事をしていた。
来週の夏祭りでやると決めたことがある。
九華とキスをする。
付き合って1年以上経っているが、まだキスはしていない。
俺が勇気を出せないヘタレっていうのもあるが、幼馴染みで昔から一緒にいることが大きな枷になっていた。
とはいえ1年以上キスすらしていないのはさすがにまずい。
そこで夏祭りという大イベントを利用してするしかない。
そう考えた。
だがまだ怖さが残っている。
この1歩を踏み出すことで九華が俺から離れたりしないだろうか。
今までしていなかったのに突然して大丈夫なのだろうか。
でもいちいち確認をとるのもおかしいし、男らしくないんじゃないか。
ここ1週間はそのことばかり考えてしまう。
だからといって計画中止をするつもりはない。
絶対にキスをする。
それが変わることは無い。
勝負の夏祭りまで、あと1週間。
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