敗北宣言。【亀山×白田】
「雨、降ってますね。会長。」
「そうだな。」
今日の生徒会室は会長と私の2人だけ。
会計の赤城さんは吹奏楽部の練習、書記の岩崎君はどうしても外せない用事で来れないらしい。
今日の会長は少し不機嫌だ。
資料の誤字脱字も多い。
「雨はお嫌いですか?」
「ああ。うちが雨漏り起こすからな。」
「私は好きなんですけどね。雨。」
「どうしてだ。」
「落ち着くじゃないですか。雨の音。」
「そうか...?危機感で鳥肌が立つが。」
「それは雨漏りの音では?雨が降る音ですよ。」
「だとしても落ち着くか...?」
「落ち着きますよ。あら、携帯の充電が切れちゃいました。」
私が雨が好きな理由はそれだけじゃない。
雨は恋愛シチュエーションがたくさんある。
漫画やドラマの中の話かもしれない。
しかし恋愛経験が乏しい私が恋愛的情報仕入れる手段はこれしかない。
今日の仕事が終わったのが午後6時頃。
外は雨が降っていて薄暗い。
会長と私は生徒玄関まで降りた。
「あら、会長。傘忘れちゃいました。」
「そうか。」
入れてくれませんか、とは言わない。
会長から入れると言わせる。
絶対に。
「白田は車で送迎だから問題ないだろ。」
そうだったー!
普段は車の送迎がある。
それを会長も知っている。
今日はわざわざ運転手に迎えはいらないと言っておいたのに、そこになぜ気づかなかった。
自分でも呆れるレベルの初歩的なミスだ。
しかしこの程度で動揺は見せない。
「今日は運転手がお休みなんですよ。でもこの雨じゃ帰れませんね。どうしましょう。」
「雨が止むまで待てば良いだろ。いずれ止む。」
「何時間待てば良いんですか。日が暮れちゃいます。」
「赤城の部活が終わるまで待てば」
「赤城さんは自転車通学です。傘を持ってたらそれはそれで問題です。」
「自分で何とかしろ。俺は帰る。」
「今何とかする方法がひとつだけありますよ。」
会長の頬が若干赤くなり、表情が少し強ばった。
やっぱり会長は気づいていながら言わなかったのか。
「何のことかな。俺にはさっぱりなんだが。」
「そうですか。ではお帰りになっては?
明日は大変でしょうね。傘を忘れて困っている女子生徒1人も救えない生徒会長亀山勤。
支持率急落は避けられませんね。特に女子生徒からは。」
「だー!もうわかった。」
会長はついに腹を括ったようだ。
さあ何も迷うことなく、一緒の傘に入ろうと言えばいい。
結局恋愛とは最初に頭を下げさせた方の勝ちだ。
頭を下げれば即ち敗北宣言。
この勝負、私の勝ちだ。
「白田、俺のスマホ使って良いから家に電話しろ。運転手がいなくても、白田の家なら誰か運転できる人がいるだろ。」
え?
そういえば携帯の充電がさっき切れたのだった。
まさか会長はスマホを貸すのを躊躇っていたのか?
「あの、会長。」
「なんだ。早くかけろ。俺のスマホもあまり充電がないんだ。」
「スマホを貸してほしいんじゃなくて一緒に傘に入ろうって言って欲しかったんです!ああ!もう!」
会長のスマホをひったくって家に電話をかける。
「もしもし?近藤?今すぐ迎えに来てちょうだい。良いから!気が変わったの!わかったわね?今すぐよ!」
電話を切り会長の方を向くと何やら呆然としていた。
「会長、何を呆けているのですか。スマホありがとうございました。」
「あ、いや、白田が傘に入れて欲しかったなんて気づかなかった。すまない。」
冷静になってさっきの発言を思い出し、一気に恥ずかしくなった。
結局自分で敗北宣言をしてしまったじゃないか。
会長は私をはしたないなんて思わないだろうか。
「白田がそういうふうに自分のしたいことを言うのは珍しいからな。なんていうか、ちょっと嬉しかった。」
「もういいですよ。私も最初から自分で言えば良かったです。」
「迎えが来るまでいようか。」
「では、お願いします。」
迎えが来るまで一言も話すことはなかった。
帰ってからも敗北宣言は恥ずかしかったけど、不思議と少し距離が縮まった気がした。
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