好きなの。【赤城×青山×角田】

私と三玖は同じ人が好きだ。

以前正々堂々と勝負とは言ったものの、どうすればいいのか見当もついていない。


好きな人、角田君、通称啓ちゃんは恋愛に無関心だ。

そんな彼に私も三玖もなかなか距離を詰められずにいる。

しかし三玖は啓ちゃんとは腐れ縁らしく、3歩くらいリードされてる気がする。



ある日の夜、三玖からこんなLINEが来た。


「中間試験近いし、今度の土曜日うちで勉強会しない?小田君と大木さんと啓介も誘うよ。」


私たちは小田君(おだっち)と大木さん(くみち)を含む5人でよくつるんでいる。

そのイツメン5人で勉強会をするそうだ。

角田君と距離を縮める絶好の機会。

行かないはずがない。


「いいね!やろう!」




土曜日が来た。

集合場所の駅に着くと三玖と

当日朝になっておだっちとくみちから遅れる連絡があり、啓ちゃんと三玖と私で先に行くことになった。


啓ちゃんは普段から、話を振られないとほとんど話さない。

この道中もずっと私と三玖が話していた。


「三玖ん家ってここからだと結構距離あるよね」


「うーん、まあそこそこ?慣れたら大したことないよ。」


「歩いて20分を大したことないって言えるのがすごいねー。」


「ほぼ毎日歩いてるからね。おかげで脚だけがっちりしちゃってる。」


「普段も歩いてるの?自転車は?」


「ほら、私の家の手前に大きな坂道あるじゃん。あれを自転車はキツいから。」


「確かにあれはキツいねー。」


「鳥居、1年生の頃、初めてうちに来た時そんなに暑くなかったのに汗だくになってたもんね。」


「えー、そんなことあったっけ?」


「あったよ。びっくりしたもん。」


そんなくだらない会話をしていると、噂の坂道に差し掛かった。

いつ見ても急で長い坂に、登る前に諦めたくなる。


「いつ見てもすごい勾配だね。三玖これを毎日往復してんのほんと凄いわ。」


「だから慣れたら大したことないんだって。」


「これくらい啓ちゃんは余裕でしょー。バスケ部エースだもん。」


「これなら走って8往復はできるな。」


「わーお、啓ちゃん思った以上に凄いね。」


「そういえば啓介、中学のとき学校の周り10周とかしてなかったっけ。」


「え!?そうなの?すごーい!」


「そんなこともあったな。先輩からの洗礼だ。時代に合ってなかったから俺の代で廃止したけどな。」


坂の中腹あたりまで来ると、私は話す余裕が無くなってしまった。

今日は5月にしてはかなり暑い。

体温が上がっているのがよくわかる。


「青山、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。」


「無理するなよ。」


「うん。」


啓ちゃんが心配してくれている。

それが何より嬉しい。


でもそろそろ限界かもしれない。

そういえば水飲んでないや。

もう喉がカラカラ。

服の中蒸れてきたな。

首元から熱気が昇ってくるのがわかる。

なんだか頭が痛くなってきた。

心臓も異常なほど鳴っている。

もしかして熱中症?

まさか。まだ5月なのに。


「ねえ、啓ちゃん」


「なんだ。」


「やっぱ、だめかも。」


足が言うことを聞かなくなって、倒れそうになる。


「青山!」


「鳥居!」


誰だろう。太い丸太のようなものが倒れそうになった私を支える。

ああ、啓ちゃんの腕か。

苦しいけど、啓ちゃんに触れられるならそれはそれでいいな。


体が持ち上がる。

私の体は大きなごつごつした岩みたいなものに預けられた。

啓ちゃんと三玖がなにか話してるけど、言葉が聞き取れない。

啓ちゃんの声が妙に近く聞こえる。

この岩みたいなの、啓ちゃんの背中か。

私、今啓ちゃんにおんぶされてるんだ。

嬉しいな。でも申し訳ないな。

迷惑かけちゃった。





気がつくと知らない部屋で横になっていた。


「青山、起きたか。」


「あれ?啓ちゃん。ここどこ?」


「お前記憶ないのか。」


「えっと...」


あの時、三玖の家に向かってる途中に苦しくなって、それで...。


「だいたい思い出したか。」


「ここは三玖の家?」


「そういう事だ。急に倒れたから、とりあえず俺が背負ってここまで運んだ。」


やっぱりあの時、啓ちゃんに背負われてたんだ。

私は啓ちゃんに背負われた嬉しさと、迷惑をかけた申し訳なさで顔が熱くなった。


「迷惑かけてごめん。」


「大丈夫。俺も軽度とはいえ熱中症に気づけなかった。すまん。」


「そんな。あれ、そういえば三玖は?」


「お茶を持ってくるって。」


恋のライバルの家で、取り合ってる好きな人と2人きり。

こんなにも緊張する空間があるだろうか。

心拍数が上がってきた。

また熱中症になっちゃうんじゃないか。


「ねえ、啓ちゃん。」


「なんだ。」


「三玖とは中学から仲良いんだよね。」


「まあ、あいつが一方的につるんでくるだけだがな。」


「啓ちゃんは三玖のことどう思ってるの?」


「どうって、良いやつだと思うけど。」


「そうじゃなくて」


私は何を聞いてるのだろう。

でもここまで来たら引き返せない。


「啓ちゃんは、三玖のことが好きなの?」


何となく気まずい雰囲気が漂う。

クーラーのヴーンという音がやけに大きく聞こえる。


少しの静寂の後、啓ちゃんが口を開く。


「俺は」


ガチャッ


部屋のドアが開いた。

そこにはお茶とお菓子を持った三玖が立っていた。


「鳥居!目が覚めたんだね!良かったー。」


「あ、うん。」


もう少しだったのに。


この日はそのまま勉強会が始まり、1時間程するとおだっちとくみちも合流した。


啓ちゃんはなんて答えようとしてたんだろう。

啓ちゃんがもし三玖を好きだと言っていたら、私はどうしていたんだろう。

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